第4話:王子、マクロの使用制限を言い渡される
「……ば、馬鹿なッ! 一晩……いや、二時間だと!?
適当なデタラメを打ち込んだんじゃないだろうな!」
翌朝。
アルファ不動産の事務所に、権藤課長の怒号が響き渡った。
一太郎が差し出したのは、十年分のデータが
完璧に分類・整理されたリスト。
それも、ただ入力しただけではない。
空室率の推移がひと目でわかるグラフまで添えられている。
「デタラメかどうかは、お手元の台帳と照合されれば済むことです。
……権藤殿、あまり大声を出すと、喉の魔力……
失敬、活力が削がれますよ」
涼しい顔でむぎ茶を啜る一太郎。
権藤は顔を真っ赤にしてリストを捲るが、
どこを探しても不備がない。
それどころか、自分が密かに隠していた「記入漏れ」のミスまで、
一太郎の組んだ関数によってあぶり出されていた。
「……チッ。運のいい野郎だ。
だがな、羽柴! 不動産屋はな、エクセルだけじゃ務まらねえんだよ!」
権藤は、さらに嫌がらせのような仕事を一太郎に叩きつけた。
「いいか。今度はこれだ。
この会社に眠ってる『過去三十年分の顧客アンケート』。
これを全てデジタル化して、顧客の好みの傾向を分析しろ。それと……」
権藤は不敵に笑い、こう付け加えた。
「最近、システム部から『マクロ(VBA)の使用制限』の通達が来た。
小細工は一切禁止だ。自分の指だけで、根性を見せてみろ!」
周囲に緊張が走る。
実はこの「マクロ制限」、権藤が一太郎の「魔法」を封じるために、
上の人間に手を回して作らせた急造のルールだった。
昼休み。
公園のベンチで、佐藤さんが心配そうに一太郎に声をかけた。
「……羽柴くん、マクロ禁止はキツいよ。
あれじゃあ、両手足を縛って戦えって言われてるようなものだ。
君、やっぱり『向こうの世界』の騎士様なんだろう?
さっきのタイピング、残像が見えたよ」
一太郎は、佐藤さんが差し出したメロンパンを
不思議そうに見つめながら、穏やかに答えた。
「佐藤殿、ご心配なく。……確かにマクロは強力な術式ですが、
それに頼らずとも、道はあります。
道具を封じられても、『知恵』までは奪えません」
一太郎の瞳は、楽しそうに輝いていた。
午後。デスクに戻った一太郎は、
キーボードを叩く音すら立てなかった。
(……ふむ。マクロが禁忌(禁止)とされたのなら、
エクセルの標準機能という名の『精霊たち』に直接語りかけるまで。
Power PivotにDAX関数を組み合わせれば……)
一太郎の手元で、数式が魔法陣のように連結されていく。
それは、マクロという自動人形を使わず、
一太郎の「思考(関数)」そのものがデータの海を直接操り、
分析結果を再構成していく
――いわば**「詠唱破棄」による高位魔術**だった。
そして一太郎は膨大なアンケートを、
年齢・家族構成・希望条件ごとに瞬時に分類し、
「どんな客が、どんな物件を好むのか」を一枚の表にまとめ上げたのだ。
夕方。
権藤が「まだ終わるはずがない」と高を括って戻ってくると、
そこにはまたしても、完璧な「顧客傾向分析レポート」が置かれていた。
「……な、なんだこれは……。マクロは禁止したはずだぞ!」
「ええ。一切使っておりません。
ただ、数式を少々『並列展開』しただけです」
一太郎の背後に、圧倒的な威厳が見えた気がして、
権藤は思わず一歩後ずさった。
その様子を影から見ていた佐藤さんは、確信した。
(間違いない……。
羽柴くんは、このブラックな会社の泥を浄化するために現れた、
伝説のクラスの『勇者』だ……!)
一方その頃、松代さんの家では。
松代さんが魚を焼きながら、窓の外を見つめていた。
「……そろそろ、一太郎が『仲間の大切さ』に気づく頃かしらね。」
会社という名の戦場に、少しずつ、
一太郎を支持する「風」が吹き始めていた。
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