第9話:王子、真実に向き合う
勝利の余韻は、九条が放った一通のメールによって凍りついた。
役員会議の翌朝、全社員の端末に送信されたのは、
アルファ不動産の真実――
そこには、松代さんが個人資産を担保に借り入れた、
数億円にのぼる「特別融資」の記録が記されていた。
「……な、なんだこれは。松代さんが、こんなに借金を……?」
佐藤さんの手が震える。事務所内は大騒ぎとなった。
そこへ、悠然と九条が現れる。
「一太郎くん。君が『現場の絆』だのと理想を語っている裏で、
この会社は砂上の楼閣の上に成り立っていたんだ。
……この融資の期限は、今月末。あと一週間だ」
九条は冷酷に告げる。
「メインバンクはすでに融資の引き揚げを決定した。
返済できなければ、このビルも、松代さんの屋敷も、
すべて差し押さえだ。
……君の言う『誰も切り捨てない最適解』とやらで、
この数億を魔法のように消してみせるかい?」
一太郎は言葉を失った。
急いで松代さんの家へ戻ると、
彼女はいつものようにテラスで掃除をしていたが、
その背中は心なしか小さく見える。
「……松代殿。なぜ、これほどの重荷を
一人で背負われていたのですか」
松代さんは、寂しそうに微笑んだ。
「……ごめんね、一太郎。
この会社は、亡くなった主人が命がけで守った場所でね。
社員たちの生活を守るために、全部私が引き受ければいいと思ってたんだけど……。九条くん、あの子、徹底的に調べ上げたんだね」
一太郎の胸に、かつてない激しい怒りと、
それ以上の「守りたい」という情熱が燃え上がった。
若き王子は、松代さんの前に膝をつき、その手を取った。
「松代殿。……かつて、私の国が飢饉に襲われた時、
民を救ったのは奇跡の魔法ではありませんでした。
それは、国中の蔵にある穀物を一粒残らず把握し、
最も効率的に配分した『管理の力』でした」
一太郎は立ち上がり、瞳に鋭い光を宿した。
「一週間。……私に一週間だけ、あなたの全資産の『管理権限』を預けてください。この世界の魔法――『エクセル』の全ての深淵を使い、
この負債という名の呪いを解いてみせます」
翌日から、一太郎の「聖戦」が始まった。
佐藤さんも、他の若手社員たちも、
一太郎の気迫に押されるように集まってきた。
「佐藤殿、全物件の資産価値を再評価します。
一円の誤差も許されません。……みんな! これは仕事ではない。
我らが家、我らが王(松代)を守るための戦いだ!」
一太郎の指が、キーボードを叩き、火花を散らす。
膨大な不動産データ、金利の推移、
デリバティブ取引のシミュレーション……。
一太郎は、エクセルの機能を総動員し、数字と戦った。
一太郎の脳裏に、かつて落馬した瞬間のあの「青空」が浮かぶ。
(……否。まだだ。まだ、一つの術式が残っている……!)
一太郎が見つけた「最後の逆転の鍵」とは?
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本日、第9話まで投稿します。
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