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処刑台で笑った悪女は、10年前に戻って「推し」に全財産を賭けることにした ~没落予定の貧乏貴族ですが、未来知識で婚約破棄も国難も買い叩きます~  作者: 綾瀬蒼
第2章「国の値段」

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第9話「悪女と王、世界を買い叩く」

夜明け前、帝都の掲示板はまだ湿っていた。


紙を貼るのに最適な時間だ。人の目が少なく、兵の巡回が鈍く、噂が空腹で、最初に食べた情報を真実だと思い込みやすい。


私はマリアに言った。


「貼る順番を間違えないで」

「はい。価値の高い順に、ではなく……憎悪が向く順に」

「賢い」


マリアは包帯の肩を庇いながら、紙束を抱えていた。聖環院付属・浄化工房の帳簿写し。聖環基金の口座。寄付金の横流し。印保持者の移送記録。炉の燃料記録。ディセル商会の刻印。ラグレン軍需商会の裏口座。全てが一つの線で繋がる証拠。


私が売るのは“真実”ではない。真実に付いた値札だ。


最初に貼るのは、信徒の胃袋に刺さるもの。


「寄付金が燃料になっていた」という事実。


次に貼るのは、貴族の喉に刺さるもの。


「聖環院と商会が結託し、帝国財政を食い荒らしていた」という事実。


最後に貼るのは、庶民の皮膚に刺さるもの。


「事故は呪いではなく、刻印回路のせいだった」という事実。


紙が貼られるたびに、街の空気が変わっていくのが分かった。まだ誰も読んでいないのに、変わる。噂の嗅覚を持つ者が、紙の匂いで動くからだ。


情報官が耳打ちした。


「聖環院が動きます。信徒を集めて掲示板を破らせるはず」

「破らせなさい」

「……?」

「破らせればいい。破れば破るほど、彼らは“隠したい”と示す。隠したいものは価値が上がる。価値が上がれば、噂は燃える」


私は馬車へ乗り込み、工房へ向かった。


今日の勝負は二段だ。帝都で首を締め、工房で息を止める。


森の縁で馬車を降りると、冷たい風に混じって鉄と油の匂いが濃くなった。炉がまだ動いている。クラウディアは約束を守った。今夜は燃やさない、と。だが“今夜”が終われば、燃やす準備は整う。


約束は短期の通貨。長期の資産ではない。


工房の周囲は騒がしかった。修道服の者が増え、私兵が増え、護符の束を運ぶ荷車が出入りしている。逃げる準備だ。


情報官が囁く。


「内部の人員が移動しています。証拠も持ち出している可能性が」

「持ち出させない」

「正面から突入しますか」

「正面からは高い。裏から入る」


私はフードを深く被り、裏手の柵に近づいた。昨夜、買収した鍵係はもういない。代わりに若い修道服の男が立っている。目が泳いでいる。泳いでいる目は買える。


私は近づき、扇を閉じたまま言った。


「あなた、祈っても腹は膨れないわよ」

男がびくりとする。

「な、何を……」

「昨日の掲示板、見た?」

男の目が揺れる。見たのだ。

「聖環院の会計監督、クラウディア。あなたの“神”は金を燃やしてた。信徒の金をね。あなたはそれでも祈る?」

男の喉が鳴る。

「……私は……」

「選びなさい。祈り続けて燃料になるか、生きて別の神を探すか」


私は小袋を差し出した。金貨ではない。銀貨だ。少ない。だが銀貨は現実だ。


「これで家に帰れる。帰り道の通行証も付ける。代わりに扉を開けて」

男の指が震える。目が泳ぐ。最後に彼は、鍵束を差し出した。


「……一度だけです」

「一度で十分」


扉が開いた。熱気と匂いが溢れる。中は昨夜と同じ地獄の匂いだが、昨夜より忙しい。人が動き、箱が動き、帳簿が動く。


私はその流れの中心へ向かった。


炉の間へ。


そこにクラウディアがいた。修道服の上に黒い外套を羽織り、落ち着いた笑みで帳簿を閉じる。逃げの準備を整えた者の顔だ。


「来たのね、王妃殿下」

「来たわ」

「約束を守ったわよ。今夜は燃やさなかった」

「ええ。だから今、止める」


クラウディアが笑う。


「止める? どうやって。あなた一人で?」

「一人じゃない」


その瞬間、工房の別の扉が破られた。


鉄が裂ける音。叫び。短い悲鳴。


赤い外套が、熱気の中で揺れた。


カシアンが入ってくる。鎧は泥と血で汚れている。国境から戻った匂い。戦の匂い。彼の背後には、少数の精鋭。正規兵ではない。私が金で雇った者と、彼が信じる者だけ。


「遅い」

私が言うと、カシアンの目が僅かに細くなる。

「俺は遅くない」

「遅いわ。市場は待ってくれない」

「市場より先に、お前が燃えるのが嫌だ」


クラウディアが楽しそうに言った。


「皇帝陛下。あなた、王座を捨てると言ったわね」

「捨てない」

カシアンが淡々と返す。

「捨てない。俺は全部取る」

「欲張り」

「教えたのは王妃だ」


クラウディアの瞳が鋭くなる。


「なら交渉は終わりね」

彼女が指を鳴らすと、炉の奥で鎖が鳴った。柵の中の人間が動かされる。火をつける準備。燃料を投げ込む準備。


私は一歩前へ出て、冷たく言った。


「無駄よ。あなたはもう燃やせない」

「なぜ?」

「あなたの財布が凍ったから」


クラウディアの眉がわずかに動く。


私は扇を開き、言葉を突き刺した。


「帝都の掲示板に全部貼った。聖環基金の口座も、寄付金の流れも、燃料の記録も。信徒があなたに怒る。怒った信徒は寄付を止める。寄付が止まれば、あなたの市場は枯れる」

「信徒は真実で動かない」

「真実で動かない。でも“裏切り”で動く」


私は続ける。


「あなたは神を騙した。信徒が許すと思う? それに――国債よ。聖環院は帝国国債を抱えている。資金を引き上げれば、自分の首が締まる。動けないわ」


クラウディアは一瞬黙った。次に薄く笑う。


「賢い。だから私は“証拠”を燃やすの」

「燃やせない」

「どうして?」

「ここにあるから」


私は合図した。


情報官が袋を投げる。中身は写しではない。原本だ。昨夜のうちに、詰所の床下と工房内の帳簿棚から、原本をすり替えていた。逃げ道を作る者は、必ず原本を持って逃げる。だから先に抜く。


クラウディアの顔から、笑みが消えた。


「……盗んだのね」

「買ったの。あなたの部下は安かった」


クラウディアの目が凍る。彼女は決断した。ここで引けば市場が死ぬ。なら、燃やしてでも混乱を起こす。


「なら燃やすのは証拠じゃない。人よ」


彼女が手を上げた瞬間――。


カシアンが動いた。


剣が抜かれ、空気が裂けた。


刃はクラウディアへ届かない。届かせない。殺せば“聖女殉教”という最悪の値札が付く。私は昨夜からそれを考えていた。


だから私は叫ぶ。


「殺さないで!」


カシアンの刃が止まる。止まる瞬間が、彼の恐ろしさだ。止められる獣は、最も強い。


代わりに彼は、クラウディアの手首を叩き落とすように掴み、床へ押さえつけた。骨が軋む音。叫びは短い。彼女の指が鳴らせない。炉の合図が出ない。


だがクラウディアは笑った。痛みの中で笑う女は厄介だ。


「皇帝陛下。あなたは止められない」


彼女が顎で示す。


炉の奥で、修道服の男が火種を持って立っている。合図がなくても燃やせる。狂信は命令を必要としない。


私が一歩前へ出た。


「止めるわ」


私は男に向かって言った。


「あなた、掲示板を見たでしょう」

男が震える。

「……神は……」

「神はあなたを守らない。守るのは契約だけ」


私は紙を一枚取り出した。簡易の通行証と雇用証。帝国の印章付き。


「これで帝都へ行ける。仕事もある。賃金も食糧もある。ここに残るなら、あなたは燃料になる」


男の手が揺れた。火種が揺れる。


私は追撃する。


「あなたが燃やすのは罪のない子どもたち。燃やした瞬間、あなたは神じゃない。ただの殺人者よ」

男の顔が歪む。

「……でも、私は……」

「選びなさい。祈りの手で人を殺すか、生きて償うか」


男の膝が折れた。火種が床に落ち、転がる。私兵が踏み消す。火は消えた。


炉の間が、一瞬だけ静まり返った。


クラウディアの笑みが、完全に消える。


「……悪女」

彼女が吐き捨てる。

「ええ」

私は微笑んだ。

「あなたより高く売る悪女よ」


私は彼女の前にしゃがみ込み、耳元で囁いた。


「あなたの市場は終わり。信徒の怒りがあなたを食う。商会もあなたを切る。逃げ道はない」

「逃げ道はある」

クラウディアが低く笑う。

「王国に“浄化王”がいる。王冠がある。混乱は続く。あなたが帝国で勝っても、王国は燃え続ける」


私は立ち上がった。


「燃えないわ」

「どうして?」

「王冠を買うから」


クラウディアの瞳が一瞬揺れた。


「買えると思って?」

「買える。最安値だもの」


その時、情報官が駆け込んできた。息が上がっている。


「王妃殿下! 王国南部の大聖堂から急報! “浄化王”が戴冠の儀を――今夜、行うと!」

「今夜?」


私は時計代わりの砂時計を見た。夜まで時間は少ない。だが市場が開いているのは、混乱の間だけだ。戴冠が済めば王冠の値札が跳ね上がる。跳ね上がれば買い叩けない。


カシアンが言った。


「行く」

「あなたは行かない」

私が即答すると、彼の目が細くなる。

「俺の戦だ」

「あなたの戦は国境。王国南部へ軍を動かせば全面戦争になる。限定戦の条件を忘れたの?」

「条件は――」

「私が管理する。覚えてるでしょう。契約」


カシアンの喉が鳴る。怒りではない。焦りだ。私が危険に入る焦り。


私は続けた。


「あなたはここで“核”を押さえる。聖環院の資産を凍結し、信徒の暴動を鎮める。王国南部の王冠は――私が取りに行く」

「お前が行くな」

「行く」


私が言い切る前に、カシアンが私の手首を掴んだ。強い。離さない。


「命令する。行くな」

「命令?」

私は笑った。

「あなた、私に命令するの?」

「する」


その一言が、私の胸を叩く。市場の言葉ではない。王の言葉だ。夫の言葉だ。


私は一瞬だけ目を閉じた。揺れた。金で測れない重さが、ここで邪魔をする。


でも私は、目を開いて言った。


「あなたは王。私は悪女。役割を混ぜないって、あなたが署名した」

「……」

「私は王冠を買う。買えば、王国は燃えない。燃えなければ難民は減る。帝国も救われる。あなたも救われる」


カシアンの指が、僅かに緩む。


私はさらに言葉を重ねた。


「怖いなら、私の条件を出して。征服王の条件じゃなくて、あなた個人の条件」

「……生きて戻れ」

「それだけ?」

「それだけだ」


その一言は、国債より高い担保だった。


私は手首を抜き、頷いた。


「生きて戻る。約束する」


その日の夕刻、私は少数の護衛と情報官を連れて王国南部へ向かった。軍ではない。軍を動かせば相場が跳ねる。跳ねた王冠は買えない。


大聖堂は、人の熱気で満ちていた。信徒と兵と貴族の残党。混乱の中で救いを欲しがる者たちが、王冠に縋っている。王冠は最も高価な幻想だ。


壇上には“浄化王”が立っていた。


年若い男。目が虚ろで、背後の聖職者の言葉を復唱しているだけ。操り人形。王冠を被る器ではない。


そして彼の背後に、白い布の女たち――聖環院の分院の者たちが並ぶ。クラウディアの手足だ。


私は群衆の中を進み、祭壇の前へ出た。ざわめきが走る。王妃の姿は、王国では異物だ。異物は恐怖を呼ぶ。恐怖は、値札を下げる。


「王妃だ!」

「帝国の悪女が来た!」

「浄化王を奪う気だ!」


私は高く響く声で言った。


「奪いに来たんじゃない。買いに来たの」


ざわめきが止まる。意味が分からない顔が並ぶ。分からない者ほど黙る。黙った瞬間、こちらの言葉が入りやすくなる。


私は祭壇の前に置かれた王冠を指した。


「その王冠、いくら?」

聖職者が叫ぶ。

「冒涜! 神の――」

「神は値札を嫌う。でもあなたたちは値札が大好きよね。寄付、献金、護符、浄化税」


私は懐から書状を取り出した。帝国の印章付き。外務官に準備させた契約書だ。


「王国南部の領主たちへ、帝国の保護と融資を提示する。条件は港湾使用権、鉱区、通行税。拒むなら、帝国はこの地を“戦場”として扱う」


群衆がざわめく。恐怖が広がる。恐怖は、最も効率的な交渉材料だ。


私は続ける。


「でも私は戦場が嫌い。高くつくから。だから買う。王冠を」


聖職者が怒鳴る。


「王冠は神の象徴! 金で買えるものではない!」

「買えるわ。だってあなたたちは、もう売ってる」


私は壇上の“浄化王”を指した。


「その男を王にしたのは誰? 神? 違う。あなたたち。あなたたちは王冠を“商品”にして、混乱を売ってる」


一瞬、静寂。


私は最後の札を出した。


「ここに証拠がある。聖環院が信徒の金で工房を作り、人を燃料にし、事故を起こし、呪いを売っていた証拠。帝都の掲示板に貼ったのと同じものよ」


聖職者の顔が凍る。帝都の噂はもう王国にも流れている。火は速い。


私は宣言した。


「今日、この場で王冠を私が買う。代金は金じゃない。秩序よ」


私は契約書を掲げる。


「王国南部の治安維持費と食糧を帝国が前払いする。代わりに王冠と聖堂の徴税権を帝国管理下に置く。浄化王は退位。聖職者は会計監査を受ける。拒むなら――ここにいる信徒たちは、あなたたちが人を燃やしたことを知る」


群衆がざわつく。ざわつきが怒りに変わる。怒りの矛先が、聖職者へ向き始める。恐怖は支配者の武器だが、支配者が裏切ったと知った瞬間、恐怖は刃になる。


聖職者が後退った。


「……や、やめろ……!」

群衆の一人が叫ぶ。

「俺の寄付が燃料になったのか!?」

別の声。

「子どもを燃やしたのか!?」

さらに別の声。

「浄化だと? 金のためだろう!」


怒りが爆発する前に、私は一歩踏み出し、静かに言った。


「止める方法がある。王冠を渡せばいい」


聖職者たちは、王冠を守るために信徒を煽ってきた。だが今、信徒が王冠を呪い始めている。王冠は最高値の幻想から、最安値の厄物に落ちた。


落ちた瞬間、買い叩ける。


私は王冠へ手を伸ばした。


“浄化王”が震えながら後退り、膝をつく。


「……助けて……」

彼は王ではない。少年だ。壊れた市場の犠牲者だ。


私は王冠を取り上げるのではなく、彼の頭からそっと外した。静かに。見世物にしない。見世物にすれば、また幻想が蘇る。


そして私は、王冠を自分の腕に抱いた。


重い。金属の重さではない。国の重さだ。


私は群衆に言った。


「王冠は私が預かる。神のためじゃない。あなたたちがこれ以上燃えないために」


完全な沈黙が落ちたあと、誰かが膝をついた。次に、もう一人。次に、また一人。


祈りの膝ではない。諦めの膝だ。混乱が終わる時、人は膝をつく。終わりは救いになる。


その夜、王国南部の大聖堂は燃えなかった。


私は王冠と契約書を持って帝都へ戻った。


王宮の回廊は静かだった。戦の静けさではない。決着の静けさだ。人の動きが整い、噂が落ち着き、誰が勝ったかを皆が理解している静けさ。


謁見の間に入ると、カシアンが玉座の前に立っていた。冠は被っていない。目が赤い。待っていた目だ。


私は王冠を差し出した。


「買ったわ」

カシアンの視線が王冠へ落ち、次に私へ戻る。

「……生きて戻ったな」

「約束したもの」


カシアンは一歩近づき、王冠ではなく私の肩に手を置いた。確かめるみたいに。


「傷は」

「ない」

「嘘だ」

「……心は少し擦れた」

「それは俺が直す」


私は笑った。悪女の笑みではない。


「直せるの?」

「直す。お前は金で直せないと言った。だから金じゃない方法で」

「どんな方法?」

カシアンは迷わず言った。


「選ぶ」


その言葉で、胸の奥が熱くなる。


私は王冠を抱えたまま、彼に言った。


「聖環院は?」

「凍結した。逃げた者もいるが、口座が死んだ。信徒は怒っている。もう呪いは売れない」

「クラウディアは」

「捕らえた」

「殺してない?」

「殺してない。お前が殺すなと言った」

「偉い」

「偉くない。従っただけだ」

「従った?」

「お前に」


私は息を止めた。言葉が甘い。甘い言葉は毒になることもある。でも今は毒じゃない。薬だ。


私は王冠を机に置いた。


「これで王国は燃えない。港湾と鉱区と通行税は契約で帝国の管理下。難民も減る。帝国も立つ」

「それは国の話だ」

カシアンが低く言う。

「俺は、お前の話をする」


彼は私の前に跪いた。皇帝が王妃に跪く。周囲の大臣たちが息を止める音がした。政治になる。市場が揺れる。


でも彼は気にしない。


「イザベラ。俺は王座も帝国も取る。だが――」


彼の目が真っ直ぐだった。逃げ道がない目。


「お前は“買う”んじゃない。“選ぶ”んだろう」

「……ええ」

「なら選べ」


私は一瞬、笑いそうになった。


選べと言われるのは嫌いだった。罠だから。でも今は罠じゃない。相手が差し出しているのは鎖じゃなくて、手だ。


私は静かに言った。


「選ぶわ」

「何を」

「あなた」


カシアンの喉が鳴った。獣が息を飲む音。


私は続ける。


「ただし条件がある」

「条件?」

「私の条件。私は私でいる。悪女でいる。契約も金も捨てない」

「捨てなくていい」

「そして、あなたもあなたでいる。征服王でいる。優しくなりすぎない」

「……優しくはならない」

「ならいい」


私は手を差し出した。彼はその手を取り、立ち上がる。


その瞬間、謁見の間の空気が確定した。


王妃は“買われた財産”ではなく、“選ばれた伴侶”になった。契約の鎖は残る。でも鎖の意味が変わる。縛るためではなく、守るためになる。


私は最後に、周囲の大臣たちへ向けて言った。


「王国の王冠は預かった。帝国は王国を滅ぼさない。契約で買う。秩序を買う。国難は、私が買い叩いた」


誰も反論しない。反論する者は、もう市場にいない。


カシアンが私の耳元に低く言った。


「次は」

「次は?」

「世界だ」

私は微笑んだ。


「ええ。世界を買い叩きましょう」


王は剣で、悪女は帳簿で。


そして二人で、燃えない秩序を作る。


金で測れない重さを守るために。


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え?これで完結なん?
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