ギルドカードと小説と
早朝、ケーニッヒスベルクの町の中でも開発に乗り遅れた区画、誰もいない袋小路の奥に”口”が現れる。
しかしそこから出てくるものが雑に落とされることはない。ついぞ斗真はワームに丁寧におろしてもらう術を体得したのだ。
禁書庫は過ごしやすい気温だが布団はない。
そこで寝て凝り固まってしまった体をほぐしながら冒険者ギルドに向かう。
ギルドに着くと昨日のお姉さんがいたので声を掛けるとしばらくカウンターで待たされ1枚のカードを渡される。
「こちらがギルドカードになります。身分証としても機能いたしますので、関所を通過するときなどにご提示ください。
また、会則違反が発覚した場合永久除籍もあり得ますので、是非ご確認を。」
そんな通り一遍な説明もそこそこに斗真の意識はギルドカードに集まってしまう。
トラックに轢かれてから自分は一体どうなるのかと不安を抱えていたのだから当然である。
話によればこれが身分証になるとのことだ。この世界での、斗真という人間の確固たる証。
ただの紙ではあるがそれは彼にとって何よりも重く感じられた。
おわかりいただけましたか?と問うてくるお姉さんに生返事をして外に出る。
上の空でフラフラ歩いていく。
元々大して知りもしない街を知りもしない方へと進む。気づけば全く人のいない区画に来ていた。
あれだけ賑わっていた露店はどこにも見えず閑静な住宅地が広がっている。
どうしたものかと思いながら何気なく通り過ぎた家の一つ、変に窓の大きい家の先で斗真の足がふと止まる。
何か素晴らしいものか見えたような気がしたのだ。
戻ってみるとそこにあったのは本屋だった。大きすぎる窓はショーケースたったのだ。
前世において斗真は常に本と過ごしていた。クリスマスも誕生日もずっと本をもらっていたし、登下校中も肌見放さず持って読んでいた。
そんなことを思い出している間に斗真は扉を開けてしまった。
カランカランと小気味良い鈴の音が響く。それに応えるようにふぇっ?少女のと情けない声も響く。
「お、お客さ、お客様だぁ、なんのご要件でしょうか!」
黒髪青目で髪のそこら中についた寝癖を揺らしながらアワアワとする少女を落ち着かせる為、ただ本を見たいだけだと告げると何故か彼女はもっと慌てだした。
「魔導書でしょうか、魔法生物の本?絵本や法律の本かも?」
と一人であっちこっちへしていた少女はついに落ちていた紙を踏み派手にコケる。
ゴチンという骨と硬いものがぶつかる音はここ最近ワームに呑まれるたびに聞いており、痛みが容易に想像できた斗真は思わず駆け寄った。
「おいおい大丈夫?」
と手を差し出すと少女は申し訳なさそうにそれを取った。
「ホントにごめんなさい。久しぶりにお客様さまを見たので慌ててしまいました。」
「怪我がないならよかったよ、ところで俺は小説を探してるんだけど、あるかな?」
「小説…ですか?あるにはあるのですが、こちらにどうぞ。」
そう言って少し奥まった所に案内されるとそこには店先にあった立派な装丁の本に比べるとどこかノートのような本たちが並ぶ。
手に取って見ているとあることに気づいた。作者の欄が全てメッチェン ブーフという人になっている。
「あれ?この作者全部同じ人なの?」
「それ…実は私が書いたんです。」
そう言って下を向いてしまう少女もといメッチェンはかなり恥ずかしそうだ。
パラパラと中を見てみると冒険物のようであり、始まり方はなかなかに面白そうだし字も綺麗だった。
「せっかくだしこれ、買うよ。」
そういうとメッチェンはかなり驚いたようだ。十年間で初めて売れた…と呟いている。
会計を済ませて外に出る。メッチェンも見送りに来てくれていた。
吹き荒ぶ一陣の風にこれからの冒険を予感して目を細めた斗真はその瞬間、走ってきたスリにギルドカードをすられた。




