禁書庫へようこそ
ドゴッと痛そうな音を上げ、斗真は何かに激突する。
今までとは打って変わって硬く冷たい感触を背中で感じながら
「っ、痛ってぇ!急に何なんだよ…ていうかやばい飲み込まれた!早く何とかしないと!」
そこまで言って飛び起きた斗真は、体の動きに合わせて目に映る景色に違和感を覚える。
そこは、少し薄暗く、広い空間だった。
何処までも続く大理石のような素材の床、高い天井、優しい光を投げかけるシャンデリア。しかし最も目立っているのは空間中に配置された本棚と、その中に整然と並べられた色とりどりな本たちだろう。
西洋の壮麗な図書館の様な内装を前にして斗真は
「ここはどこなんだよ…っていうかこの展開、今日の数時間で2回目だな!」
と気の抜けたノリツッコミをしだしだ。
「あのワームの体内にしては広すぎるよな…ン?」
そこで斗真は目端で蠢く、長くて太い綱のようなものに気づく。
「ワームじゃねえか…俺はお前に飲み込まれたんじゃねえのかよ!
あ〜もう一体どうなってやがんだ…こっちは轢かれた記憶だけで一杯一杯だってのに」
「突然のお呼びつけ申し訳ございません、主様。」
混迷極める意識の中に突然落ち着いた女性の声が割り込んでくる。
見れば通路の奥にインクをこぼしたように真っ青な髪を携えた十代中半くらいに見える少女がいた。
オーバーな丈のローブとモノクルを身にまとい、一歩ごとに髪を本棚へ、ローブを床へこすりなが段々斗真に近づいていく。
「おいちょっと待て。まずそれ以上近づくのは辞めて何者なのか名乗ってくれ!飲み込まれたり轢かれたりするのはもうごめんなんだ!」
オーバーな身振りで制止する斗真に少女は微笑みながら答えた。
「私はあなたの眷属?なんですかね?残念ながらまだ名前はないのです。まあより正確に言うなら魔法の付属品のようなものでしょうね」
「なるほどわからん。」
「順を追って説明しましょう。まず主様はトラックに轢かれて亡くなられました。
そしてこの世界に転生したのです。こちらにきたことで主様の中で眠っていた私もこうして姿形を得ることができたんですよ。」
と上目遣いでうれしそうに述べる少女。
「マジかよホントに死んでたのかよ。
じゃあ君は俺の魔法の結果生み出されたってコト?信じられないな…」
「では実証いたしましょう。」
そう言うやいなや少女が手を前に突き出すとのそこに淡い青白い光が集まり四散する。
少女が指揮者のように手を振れば棚に静かに収まっていた無数の本たちが蝶々のように羽ばたきながらあちこちへ飛び回る。
「どうでしょう。納得していただけましたか?」
そう言いながら優雅に振り向く少女の姿は斗真の目に映っていなかった。今目の前で起こった奇跡に目を奪われていたのだ。
少女が咳払いをし、無理やり幻想の世界から引き戻す。
「ぁあ納得したよ。で、俺もそういうコトできるんだよね!?」
鼻息荒く尋ねる斗真はにこやかに首肯する少女を見て飛び上がって全身で喜びを表現する。
そう彼は三度の飯よりファンタジー好きなのだ。
「さて本題に参りましょう。先ほどワームを使って周囲を探索しました。敵や危険生物の影はなく本当に平穏な平原でしたね。しかし!どこに危険があるか分かったのもでは有りません!なので最低限の魔法の訓練をしましょう。」
「おおマジかよ!もう教えてくれるのか!」
「主様の魔法は現状2つの効果があります。私とワームそしてこの空間を生み出すコト。そしてそれらを操るコトです。
まぁなにはともあれ魔力を知覚することからですね。 目を瞑ってみてください…」
ここで一呼吸置くことでその場を静寂が支配する。十分すぎるほど空気が張り詰め緊張が高まっていった。
「深呼吸していると段々己の脈拍のリズムが意識できるはずです。しかし他の感覚はありませんか?体内を流れる力の波があるはずです。」
「ぅーん、そんなのどこに………おぉ、これが!」
斗真が魔力に到達した喜びを代弁するかのように青い力の奔流が吹き出し棚を2,3列吹き飛ばす。
と同時に魔力が欠乏して倒れ込んでしまった。
「初めての魔法おめでとうございます、主様。」
「あぁありがとう。っていうか下から見るとやっぱそのローブダボダボだね。」
気だるげに問う斗真に少女は胸を張り、よくぞ聞いてくれましたとでも言いたげな表情で
「えぇそうしておけば歩くだけで床を掃除できますから。」
と応える。
「えっ?」
「えっ?」
斗真はこの娘とならうまくやっていけそうだなと思いながら高らかに笑った。




