虫との邂逅
制服姿で中肉中背、どこにでもいそうなぱっとしない顔だち。そんな凡庸な高校生橋本斗真は今日も同じ時間、同じ横断歩道の前で待ちながら本を読む。
そんな彼の平凡な日常に割り込んできたのは迫りくるトラックの走行音だった。
今にも壁に激突しそうだったそのトラックの運転手はギリギリのところで目を覚ましハンドルを切る。
その先にいた斗真は、あっけなく命を落とした。
悲痛な叫びと共に死にゆくことを拒絶しようとする斗真がもがきながら最初に気づいたのは柔らかな草の感触だった。
ついで温かな日差しを意識し、泣き別れたはずの上半身と下半身がつながっていることに目を開けてようやく気づく。
「あれ…ここは、いったい、」
弱々しく呟く斗真は、見渡す限りの大草原の中に自身を見つけた。
暖かく湿気を含まない風が斗真と柔らかい芝生の上を吹き抜ける。
無慈悲に体を打ったアスファルトはどこへ行ったというのか?
そんなふうに思いながらも取り敢えず体の具合を確認しようとし、シャツにベッタリ付着した血を見付けてしまう。
先刻の出来事が夢ではないと知り斗真は身を震わせる。
改めて身の回りを確認してみると洋服以外何もなくなっていた。
「マジかよまだ読み終わってない本だったってのに…っていうかここホントにどこだ?俺は死んだんじゃ…」
と弱々しく問うがそれに答えてくれる者はいない。あいも変わらず風が草を揺らしていた。
今度はわざと声を張ってみる。
「もしかしてこれが噂の異世界転生ってや─
そんな呑気なセリフにガサガサと何かが這うようの音が重なった。
身を強張らせて振り返る斗真の目に飛び込んできたのは
虫だった。ワームとでも呼ぶのが適切なのだろうか、少しがさついたうろこ状の皮膚、口が大部分を占め目のない頭部そして何より人の足ほどの太さと長さがある。
虫嫌いを殺してしまいそうなそのフォルムを前にしてそこそこ虫嫌いのきらいがあるはずの少年の顔に嫌悪の色はない。
本人もそのことを不思議に思いながらどこかワームに親近感を覚える。
「なぁここはどこなんだよ?お前も一人なのか?」
と話しかけてればワームは首をもたげ斗真と見つめ(目はないのだが)合う。
一人と一匹の間にまるで通じ会うような時間が流れ
「なんだよ大人しくて話しのわかるやつじゃないか」
そう言いながら少年はワームに体を近づける。するとそれに応えるようワームも口を大きく開け
「ン?おい、ちょっと待っ…!」
結局最後まで言えぬまま斗真はあっけなく飲み込まれた。




