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殺したいほど憎いのに、好きになりそう  作者: 味噌村 幸太郎
第十章 冬休み

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脳で視て、脳で描く


 優子ちゃんの部屋は、かなり広い和室だった。

 学習デスクや本棚が置かれているとはいえ、10畳はあると思う。

 しかし、それよりも一番気になるのが学習デスクに座り、白目を向いて首を上下に揺らしている人物だ。


 激しいロックミュージックをスピーカーから爆音で流して、憑りつかれたように原稿を描いている。

 よく見たら、ネーム無しで直接ペン入れしているぞ……。

 俺がその場で固まっていると、優子ちゃんがお姉ちゃんを紹介してくれた。


「あ、藍ちゃんは初めて会うよね? この人が私のお姉ちゃんだよ」

「え……あ、そうなんだ。じゃあ、私自己紹介した方がいいよね?」

「いや、今はいいかな? 創作に集中しているから」


 創作に集中って……何も見えてないだろ。

 こんな首を激しく振って、折れるんじゃないのか?

 というか、白目を向いてるのにどうやって原稿を描いているんだ。


「あのさ……お姉さん。どうやって、原稿を描いているの?」

「え、普通に描いているよ。いつも通り」

「普通じゃないでしょ? だって”ヘドバン”しているし、白目を向いてるじゃん……」

「あ~ あれはお姉ちゃんが集中できるスタイルらしいよ。それにお姉ちゃんクラスになれば、目で原稿を見る必要がないって。脳内で原稿を見ているから、眼球は必要ないらしいよ」

「へ? そんなことできるわけないじゃん」

「慣れだよ。ほら、パソコンのタイピングをする時、キーボードを見ないで打ったりする人がいるでしょ?」

「”ブラインドタッチ”のこと?」

「そうそう、それと一緒だよ~」


 どこが一緒なんだ……あの半端ない画力を見ないで高めたとか、神の領域だな。


  ※


 お姉ちゃんの創作活動の邪魔をしていけないからと、俺は近くにあるローテーブルへ案内された。

 ローテーブルの上には、木製の菓子入れが置いてあり、美味しそうなお菓子が入っている。

 きっと優子ちゃんが予め用意してくれたのだろう。


「私、ジュース持ってくるから、藍ちゃんはテレビでも見ながらお菓子をつまんでいてよ」

「うん」


 そう言って、大きなブラウン管テレビの電源をつけてくれる優子ちゃん。

 今は年末年始だから、古い番組の再放送が多い。

 

「あ、懐かしい……”マネーがない!”だ」


 俺にとっては25年前に放送されていたドラマだが、この世界では昨年の夏に放送していた大人気ドラマだ。

 ていうか、主演の俳優が若いな……なんて思っていると、背後から声が聞こえてくる。


「うけえ……」


 あまりにか細い声だったので、俺はテレビの中の音と間違えてしまった。

 そのまま無視して、菓子入れからクッキーを取り出し、かぶりつく。

 最終回が近いのかな? 主人公がヒロインを取り戻しに結婚式会場まで殴りこみに行く名シーンだ。


「うけえ……」


 ん? また聞こえてきた。なんだ、この幽霊みたいな気持ち悪い声は。

 気になった俺は後ろに振り返ってみる。すると先ほどまでヘドバンしていたお姉ちゃんの姿が学習デスクから消えていた。

 爆音で流していたロックミュージックも消されていて、辺りは静まり返っている。


 消えたお姉ちゃんの姿を探して、辺りをきょろきょろと見回していると……。

 テレビの前に座りこむ若い女性を見つけた。

 長い三つ編みを腰まで垂らして、大人しいファッションのお姉さん。

 俺と目が合うと、ニコリと優しく微笑んでくれた。

 そして、テレビに映る主演俳優の顔を指差して、こう言った。


「受けえ」

「は、はいっ?」


 俺がそう尋ねたにも関わらず、優子ちゃんのお姉ちゃんは何も答えてくれない。

 何度も同じ言葉を繰り返すだけ。


「受けえ、受けえ」

「うけ……え? な、なにを言いたいんですか?」

「せやから言うてるやろ。この人、受けえ」

「え? 関西弁?」


 いきなり関西弁で喋られたので困惑していると、優子ちゃんがジュースを持って戻って来た。


「あ~ お姉ちゃんは最近福岡に戻って来たばかりだから、京都弁が抜けないんだよね」

「京都? 優子ちゃんのお姉ちゃんは京都出身なの?」

「ううん、高校生の時から大学受験のために一人暮らしをしていたんだ。約8年間」

「へぇ~ そうだったんだ」


 にしても、このお姉ちゃん失礼すぎるだろ。

 有名な俳優に向かって、ずっと呪文のように唱え続けているぞ。


「間違いあらへん。この人、受けえ」


 相当やばい大学を卒業したと思って、優子ちゃんに出身大学を尋ねたらまさかの……。


「お姉ちゃんの大学? ”京都大学”の法学部だよ」

「え……」

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