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殺したいほど憎いのに、好きになりそう  作者: 味噌村 幸太郎
第九章 美少女でもいじめられる

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しれっと王子様


「じゃあねぇ~ 水巻さん、また明日!」

「う、うん! 鞍手(くらて)さんも気をつけて……」


 そう言って、中庭でお互いに手を振る。

 俺が前世で夢見た光景だ……ようやく初恋の人が優しくしてくれた。

 最近、会ってなかったけど、なんでいきなり仲良くしてくれたんだろう?

 

 もしかして、地元の英雄となった俺のことを見なおしたとか……?

 くぅ~ ついに来たか、あゆみちゃんルートが!


 

 冷たい水でスニーカーと靴下を洗っていると、誰かが後ろから近づいて来た。


「おい……水巻、なにしてんだよ?」


 振り返ると、少し髪が伸びた坊主頭の少年が立っていた。

 学ラン姿だけど、まだ右腕は折れたままだ。


「あ、鬼塚。なんでここにいるの?」

「俺は今から部活の見学に行くから、体育館に向かう途中だよ。中庭を通らないとダメだろ」

「そ、そっか……」

「ところでお前。そのびしょ濡れになった靴はどうしたんだよ?」


 手洗い場に置いているスニーカーを指差す鬼塚。


「これはその……ちょっと汚れちゃってさ。だから洗ってたの」

「ふ~ん、でもお前さ。こんな寒い時期に靴を濡らして乾くのかよ?」

「いや……このまま、我慢して履いて帰るけど」


 俺がそう答えると、鬼塚はいきなり怒鳴り声をあげる。


「バカ野郎!」

「え……?」

「そのまま履いて帰るとか、風邪を引いたらどうするんだよ!?」

「だ、大丈夫だよ。帰ったらすぐにお風呂入ればいいし……」

「水巻、お前は女だろ? 身体を冷やすなって! ちょっと待ってろ」


 いきなり女扱いされてしまった。

 一体、鬼塚は何が言いたいんだ?

 彼は肩にかけていたスポーツバックを地面に下ろすと、中からピカピカに磨き上げられたバスケットシューズを取り出す。


「これ、使えよ……」


 と大きなバスケットシューズを俺に差し出す。頬を赤らめて……。


「え? どういうこと?」

「俺はどうせこの右手じゃバスケットボールは触れない。だからバッシュも当分使えないし、水巻に貸してやるよ」

「……なっ!?」


 こいつ、しれっと俺に恩を売っていやがるな。

 バッシュぐらいじゃ、この藍ちゃんの肉体は渡さないぞ!


「いらないよ……それって部活用の靴でしょ?」

 

 彼が差し出したバスケットシューズを突き返そうとしたが、鬼塚の意思はそれぐらいじゃ曲げられない。


「いいから! 裸足で帰る気かよ? 今日、俺が水巻にバッシュを貸して試合に使えなくても構わない。俺には水巻もバスケと同じぐらい……いや、それ以上大切な存在なんだ!」


 そう言うと、俺にバスケットシューズを押し付けて走り去ってしまう。


  ※


 濡れた靴下とスニーカーは手に持ち、鬼塚が貸してくれたバスケットシューズを素足で履いてみる。

 思ったより、サイズが大きいな……。

 あいつ、小さな身体の割に足はデカいのか?

 藍ちゃんの足じゃ、ぶかぶかだ。

 ちょっと歩きづらいがこれで帰れるぞ。一応、鬼塚に感謝しておくか。


 ひとりで校門まで歩いていると、トイレから戻って来た優子ちゃんが「待ってよ~」と追いかけて来る。


「あ、ごめんごめん」

「酷いよ~ トイレに行ってたのに……って、その足どうしたの? 藍ちゃんの靴は?」

「いや……実はさ」


 俺はまた下駄箱の中に入れいていたスニーカーへ、いたずらされたことを優子ちゃんに報告する。

 すると、彼女は顔を真っ赤にさせて怒っていた。


「またされたの!? 一体、誰がそんなことをっ!?」

「それが分からないんだよね……」

「もしかして、鬼塚くんを狙っていた天ヶ瀬(あまがせ)先輩がやったってことはない?」

「あの人は無いでしょ。最近、学校で姿を見ないもん」


 しばらく優子ちゃんから犯人の心当たりを聞かれていたが……再度俺の足元を見て、あることに気がついたようだ。


「ところで、その大きなバスケットシューズはなに?」


 なんて冷たい声で話すんだ。


「えっと、これはね……鬼塚が部活やらないからって貸してくれたんだ」


 俺がそう言うと、優子ちゃんの目つきが鋭くなる。


「あ、そういうことね。きっとあれだよ、藍ちゃんの素足の香りをバッシュにつけさせて、鬼塚くんに返したらなんかエッチなことに使う気だね。本当に男って最低!」

「……」

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― 新着の感想 ―
優子ちゃんの偏見がすごい笑
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