お兄ちゃん失格
来週の日曜日に”ミニモーターカー”の大会が開催される。
そのため不本意だが、俺のマシンを鬼塚へ託すことにした。
と言っても、さすがにカスタムパーツ代は俺が払ったけど……。
「じゃあ、藍お姉ちゃん! 今度の日曜日。朝6時に、模型屋に集合だよ~!」
そう言って、手を振る翔平くん。
素直で良い子だな。
「あ、うん……またね」
一応、俺も手を振ってみたが、鬼塚の奴が余計なことをほざくのでテンションが下がった。
「水巻って私服になると、なんか雰囲気が変わるよな」
どんな意味で言ってんだよ……人を上から下までジロジロと見やがって。
~帰宅後~
各教科の教師たちから、宿題をたくさん出されているのに今日も手をつけず、晩ご飯をいっぱい食べたら眠たくなってしまった。
可愛らしいキャラクターもののパジャマに着替えると、ベッドにダイブする。
「はぁ~ また明日から学校かぁ~ 早く冬休みにならねぇかな……」
とぼやきながら、眠りに入る。
※
『ざまぁみろ、鬼塚! 俺を無茶苦茶にした罰だ!』
『フンッ! 子どもみたいにピーピー泣きやがって、かっこ悪いな』
なんだ? これは過去の……前世での記憶か?
俺がこんなことを言ったのか? 全然覚えていない。
断片的な記憶だが、確かに俺が過去に言った言葉のようだ。
ロン毛に無精ひげ。スエット姿の青年がテレビを指差して、不気味に微笑んでいる。
これは引きこもり始めて間もない、俺か……?
一体なにがそんなにおかしいんだろう。
そこから映像が移り変わり、テレビの中の青年が学ラン姿で登場。
マイクの前に立つと、泣きながら話し始める。
『あ、あの……ひっぐ! 弟は、翔平は本当に良い子でした。まだ9歳です……それがこんな形でいなくなるなんて……』
翔平くんのことを話しているのか?
でも一体なにがあったと言うんだ。何台ものテレビカメラを向けられても、彼は物怖じせず話し続ける。
まるで、事件に巻き込まれたニュース番組を観ているようだ……というより、これ。前世で見た本物のニュースじゃないか!
『俺はお兄ちゃん失格です。もし代われることができるなら、お、俺が……トラックに轢かれたかったです……』
※
「鬼塚っ!?」
夢だと言うのに、妙にリアルな夢だったな……というか、過去に本当に起きた事件を俺が忘れていたんだ。
俺がこの世界に転生しても、翔平くんという弟のことを知らなかったのは、そういうことだったのか?
前世の世界じゃ、翔平くんと遊ぶことは無かったけど、出会うこともなかった。
鬼塚にいじめられて、怖くなった俺は毎日、自室にこもりきりで。
何もできず、年だけ取っていったが……。
引きこもり始めて数年後に初めて、鬼塚への憎しみをぶつける事件が起きた。
それは鬼塚の弟が交通事故にあって、死んでしまったというニュースを見たから。
段々と思い出してきたぞ……。
確かあの事件が起きたのは、俺が小学校を卒業して半年ぐらい経ったころじゃないか?
って……それって、今ごろじゃないのか?
本当に前世と限りなく近い平行世界ならば、この世界の翔平くんもトラックに轢かれる……ヤバい!
彼を、翔平くんを助けないと!
でも肝心の事故が起きた日を思い出せない。
そんなことを兄の鬼塚に伝えても、信じてもらえないよな……。
俺はなんでこんな大事なことを今まで忘れていたのだろうか。




