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殺したいほど憎いのに、好きになりそう  作者: 味噌村 幸太郎
第七章 人生のやり直し

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平和な日常


 鬼塚をいじめていた天ケ瀬(あまがせ)先輩がバスケ部から追放されことにより、今までの問題はキレイさっぱり無くなった。

 日本人からの差別に飽き飽きしていた先輩も、自ら学校をやめると言い始めたので。

 皮肉なことに、彼が登校拒否児になっている。

 本当は仕事を頑張っているのだけど……多数の女性に優しくすることで給料をもらうヒモという職業。


 それに先輩と一緒に鬼塚をいじめていた取り巻きの連中だが、彼が学校を休みはじめると静かになってしまった。

 鬼塚からの復讐を恐れているようで、ビクビクしながら廊下の隅を歩いていた。

 張本人である鬼塚はそんな奴ら、眼中にないようで、折れた右腕の回復よりも左腕の筋トレに勤しんでいる。

 授業中もハンドグリップを片手に先生の話を真面目に聞いていた。


 よかった……あまり気持ちの良い終わり方じゃなかったけど。

 いじめが無くなって。まるで前世の自分を救ったような気持ちだ。


  ※


 今日も平和に学校の授業が終わり、俺は安心して優子ちゃんと帰ることに。

 バスケ馬鹿な鬼塚は、筋トレしながら部活を見学するらしい。


「でもさ、お姉ちゃんが言うにはね。基本的に熱血漢とか、自己主張が激しいキャラは”受け”で間違いないらしいよ?」


 一体、なんの話を聞かされているんだろう。


「優子ちゃんのお姉ちゃん……結構押しつけが激しくない? それってお姉ちゃんの性癖でしょ?」

「違うよ。ライバルとか言って、ケンカを売るようなキャラはかまってほしい……。もしくは相手を誘ってるらしいんだ」

「……」


 お姉ちゃんの考えが強過ぎて反論できない。


 その後、優子ちゃんの腐女子トークを聞かされること10分後。

 坂道を下りて、旧三号線の歩道を歩いていると、ひとりの男子小学生が声をかけてきた。

 黒いランドセルを背負ってニコニコと笑う、おかっぱ頭の少年。

 あ、鬼塚の弟。翔平くんだ。


「藍お姉ちゃん! 久しぶり!」

「あ、翔平くんじゃん? 小学校の帰り?」

「うん! 藍お姉ちゃんは最近”ミニモーターカー”やってる?」

「もちろん、やってるよ~」


 基本的に家の廊下で遊んでいるだけだが。


「じゃあさ。今度僕と大会に出ない?」

「え? 大会……って模型屋のやつ?」

「うん、せっかくミニモーターカーをやっているんだから、大会で走らせてみようよ! 毎週日曜日の朝早くに模型屋でやっているから」

「大会か……」


 確かに前世で一度、参加してみたいと思っていたけど。

 小学校で不登校になった俺は、同い年の子供たちと接することが怖くて、大会には参加できなかった。

 優勝したら、模型屋から何か賞みたいなものをもらえた気がする。

 

 ひとりで考えこんでいると、隣りに立っていた優子ちゃんが怖い顔をして翔平くんを睨んでいる。

 優子ちゃんて独占欲が強いから、藍ちゃんという少女が他の人と仲良くしたら怒るもんな。

 ここは誤解を解かないと……。


「あ、優子ちゃん。この子はね、鬼塚の弟で、翔平くんていうの」


 そう言って彼女に紹介してみせると、翔平くんも礼儀良く頭を下げる。


「はじめまして、鬼塚 翔平っていいます。真島(まじま)小学校の4年生です!」

「……」


 しかし、優子ちゃんは無言のまま、翔平くんの顔を覗き込む。

 一体なにを考えているんだ? 怖すぎる……。


「あの……優子ちゃん? 鬼塚の弟くんだよ?」

「へぇ~ 私の知らないところで、また仲良くしてたんだぁ~」

「え? どういう意味……」


 俺がまだ話している途中なのに、優子ちゃんは急に背を向けてどこかへ走り去る。

 知らない男の子と仲良くなっていたことが、そんなにショックだったのだろうか?


「なんか変わったお姉ちゃんだね?」

「まあ、ちょっとね……。でも普段は優しい子なんだよ~」


 そう翔平くんにフォローしながらも、改めて優子ちゃんという女の子を考えてみると、かなり変わった女の子だと思う。

 1995年というアナログな時代にしては、腐女子としてのレベルが高すぎるし。

 

 てっきり優子ちゃんは、そのまま帰ったと思っていたが、バタバタと足音をたてて戻って来た。

 

「あ、ごめんごめん! 急に喉が渇いてさ、”カルピス”を買ってきたんだけど。翔平くんも飲む?」


 と缶ジュースのカルピスを差し出す。

 ちゃんと俺の分まで買って来てくれたようだ、両手に3本も抱えている。

 怖い顔していたけど、翔平くんに気を使っていたのかな?

 

「ありがとう……でも、『学校帰りの買い食いは良くない』ってお兄ちゃんが言ってたし」

「大丈夫だよ。お姉ちゃんたちが鬼塚くんに話さなければ良いでしょ?」


 そう言うと優しく自身の小指を差し出す、優子ちゃん。

 なんだ、俺以外とも仲良くできるじゃん。


「うん……優子お姉ちゃんも優しいんだね」


 翔平くんも小指を差し出して、お互いに契りを交わす。

 安心したのか、翔平くんはニッコリ微笑むと缶ジュースを受け取る。

 しかし、これが最悪の結果になるとは思いもしなかった。

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