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殺したいほど憎いのに、好きになりそう  作者: 味噌村 幸太郎
第三章 1995年の休日

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軽い女


 黙って店内へと入ってしまった鬼塚。

 俺はひとりでポツンとサーキットの前で立ち尽くしていた。

 先ほど遊んでいた小学生たちが「お姉ちゃんは違反したから、入っちゃダメ!」と追い出されてしまったから。

 

 クソッ……。二千円近くお金を使ったのに、遊んじゃいけないとか。

 これからこのマシン。一体何に使うんだ?

 しかも、遊んでいるところを鬼塚に見られるし……。

 全然、楽しくない休日だよっ!


 ~それから、20分後~


 小学生たちがレースに飽きて、隣りの本屋に入って行ったので。

 ようやくサーキットが使えるようになった。

 駐車場の隅で座り込み、最速のマシンを走らせるが、競争相手がいないのでつまらない。

 結局、こういうおもちゃって、誰かがいて楽しめるものなんだよなぁ……。


 そんなことを考えていると、背後から鈴の音が聞こえてきた。

 模型屋のドアが開く音だ。

 振り返ると褐色肌の少年が店から出て来た。手には茶色の紙袋がある。

 鬼塚だ。


「「あ」」


 目と目が合い、お互い声に出してしまう。

 気まずい……。

 クラスメイトだから、挨拶ぐらいすべきなのだろうか?

 いやいや、あの鬼塚だぞ。ここは無視が良いに決まっている。

 女になってまでいじめられて、たまるもんか。


 視線をサーキットに戻し、黙って自身が作ったマシンを目で追う。

 うむ、やはりこいつが一番速いな。

 ひとりで頷いていると、背後から声をかけられた。


「なあ、女でもそんな遊びするの?」


 鬼塚のやつ、まだ後ろに立っているのかよ?

 とっと帰れ。

 無視しよっと。


「……」

「水巻? 聞こえてないのか……しかし、このマシン。異常に速いな。魔改造モーターでも使ってんのか?」


 その一言で、俺はつい反応してしまう。


「はぁ!? 公式が違反とか知ってたら、買ってないよ!」


 興奮から頬が熱くなる。


「いや、別に大会じゃないし、良いんじゃないのか?」

「し、知ってるもん……」


 美少女とは言え、鬼塚に痛い所を突かれて、すねてしまうアラフォーのおっさん。

 それを察したのか、後ろに立つ少年は慌ててフォローに入る。


「でもさ、このマシン。塗装とかしないんだな?」

「え、塗装?」

「うん。ミニモーターカーを楽しむなら、ボディとかも塗装したらカッコいいんじゃねーのかって……」


 意外だな。こいつの口からそんな言葉が出るとは。

 しかし、鬼塚が言うことは分からんでもない。

 でも、塗装って結構面倒くさいし……。


「俺……じゃなかった私、あんまりそういうの得意じゃなくて」

「へぇ~ なら、俺が塗装してやろっか?」


 そう言うと、手に持っていた茶色の紙袋から、塗装用のインクを取り出す。


「鬼塚が、私のマシンを?」

「ああ。ついでにボディも”切り残し”が目立つから、キレイにカットしてやるよ」

「……なんで、そんなに詳しいの? 鬼塚もミニモーターカーの大会出てるの?」

「ち、ちげーよ! 俺じゃなくて、弟がやるんだよ……。だから一応やり方は知ってる」


 と頬を赤くする少年。

 なにを恥じらっているんだか。


「じゃあさ、なんで模型店で買い物をしてたの? そのインクを買ったんでしょ?」

「こ、これはプラモデルに使うんであって……」


 プラモデルと聞いて、俺は一気にテンションが上がる。

 立ち上がって、鬼塚の顔まで距離を詰める。

 大きなブラウンの瞳を覗き込み、懐かしいプラモの話を話し始める。


「プラモが好きってことはさ! 絶対、”機動戦士ギャンダム”。ギャンプラを作ってるんでしょ? 懐かしいな~」

「はぁ? 俺の作っているのは違うよ……。その、バイクとかの模型だよ」


 彼の答えを聞いて、俺は唇を尖がらせてみる。


「ちぇっ! つまんな~い! 男なら絶対”ギャンプラ”は通る道だと思ったのに」

「そんなことでしょげるなよ……。でも一応、うちにもギャンプラならたくさんあるよ。全部、弟のだけど」

「本当? どのシリーズが好きなの!?」

「さぁ、弟が好きなだけだから俺は知らないよ。そんなに気になるなら、家に来るか?」

「いいの!? 行く行く!」


 ヤベッ、つい好きなプラモデルの名前が出たことで、釣られてしまった。

 初めての男の家が鬼塚とか、絶対無いと思ってたのにな。

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