表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/69

せめて最後くらいは……


 世間は今、”三が日”ってやつで、地元の歩道を歩いても俺以外、誰も歩いていない。

 たまにトラックが道路を走っているぐらいだ。

 きっと、遠くから帰省してきた子供たちと両親のみんなで、今ごろおせち料理でも食べているのだろう。


 あ、そう言えば、うちにもそんなリア充が一人いたな。

 少し年の離れた兄さんという存在が……。

 中学でドロップアウトした俺とは違い、ちゃんと大学まで卒業して一流企業に勤めている。

 元々、社交的な性格だったから、女は”とっかえひっかえ”状態だったし。

 気がつけば、できちゃった婚。今じゃ3人の子供を持つ、太ったハゲのおっさん。


 明日、実家である俺の家に来るって、父さんが言ってたな……。

 嫌だな……会いたくねぇ。

 姪や甥も最近、俺のことを段々と理解してきたようで、近寄らなくなってきた。


 

 歩くこと数分、そろそろ目的地のコンビニが見えてきた。

 コンビニで買うものは決まっている。

 マンガ雑誌とスナック菓子。それにジュースを何本か。

 これぐらいしか、楽しみがないんだよな。

 酒も飲めないし憂さ晴らしには、ドカ食いが一番。


 そんなことを考えながら、交差点の前に立つ。

 信号機のボタンを押してしばらく待つが、なかなか青に変わらない。

 ここに設置されてから随分と経つけど、本当に変わるまでがクソ長い。


「パパ~っ! 早く渡ろうよ!」


 反対側の歩道から、甲高い子供の声が聞こえてきた。


「こら、”良太(りょうた)”! 待て! まだ赤信号だろ!?」


 その子供を追いかけるように、父親らしき男の声が聞こえて来る。

 見かけない親子だな……。


「大丈夫だって! まだ三が日だもん! 車なんて走ってないよ!」


 そう言うと、赤信号だと言うのに交差点へと足を踏み入れる少年。

 育て方が悪いんだな。

 俺が父親ならビンタしてやるけど。


「お、おい! 良太! 前を見ろ! と、トラックが……」


 顔面真っ青になって、父親が道路を指差すので。

 俺も左側の道路に視線を向けると……巨大なトラックがこちらに向かって走っていた。

 運転手は、交差点に侵入した少年の存在に、気がついてない。

 このままでは、目の前の少年がバラバラになってしまう。


 想像しただけでも、グロテスクだ。

 気がつくと俺は交差点の中に突っ走り、少年を担ぎ上げた。

 このまま歩道に向かって走る……予定だったが、この少年。背は低いが思った以上に重たい。

 いや、そもそも俺は子供を抱えたことが無いから比較出来ないか。


 どうする?

 もう目の前には、トラックの姿が見えてきた。

 死にたくないけど、この子だけでも助けないと!


 覚悟を決めた俺は幼い少年を助けるため、思い切り力を込めて歩道へ投げてみた。

 少年は宙を舞い、歩道沿いの花壇へ背中から落ちて倒れた。

 痛みから泣き出していたが、命に別状はない。

 駆けつけた父親が「大丈夫か?」と少年を抱える。


 良かった……と安心していたが、「ブーッ!」というクラクションで、俺は現実に戻る。

 このまま、トラックに衝突したら俺はどうなるんだ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ