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殺したいほど憎いのに、好きになりそう  作者: 味噌村 幸太郎
第二章 それでも気になる

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エロすぎるお姉ちゃん


 なにやってんだ俺……。

 この世で一番、憎いはずの男。鬼塚 良平をいじめられていたとは言え、助けてしまった。

 天ヶ瀬(あまがせ)と呼ばれたヤンキーから逃げるため、俺は鬼塚の小さな手を握り締めて、校門まで走る。

 

 ひ弱な女の子に転生したから、男の子を連れて走るのは無理だと思ったが、この少年はとても軽い。

 俺ひとりでも、余裕で校門まで逃げることに成功した。

 ここまで来たら、もう大丈夫だろう。


「お、おい……水巻。その、助けてくれてありがたいけどさ」

「え?」

「そろそろ、手を離してくれないか?」

「あっ!」


 彼に言われるまで、ずっと手を掴んでいた。

 急いで、繋いでいた手を離す。

 だが、このまま彼を学校に残すのは危険だ。

 また天ヶ瀬たちから、リンチを食らうかもしれない。


 クソ……なんで俺がこんなに、こいつのことを心配しないといけないんだ。

 でも、あんな姿はもう見たくない。

 勇気を振り絞って、こう呟いた。


「あの……鬼塚さえ、良ければ一緒に帰らない?」

「え? 俺が水巻と一緒に?」

「うん。さ、さっきの変な人に狙われるぐらいなら、一緒に帰れば大丈夫かなって……」


 なんか俺がこいつのことを、好きな女子みたいになってないか?

 違う、違う!

 これは過去の自分と重ねて見ているから、ただの同情。


「あ、そういうことか。でも悪い、俺このあと部活があるからさ」

「部活?」

「うん。一応、バスケットボール部だから」


 そう言って、赤いユニフォームを親指で指してみる。

 胸元に彼の名前まで書かれている。

 なんか、めっちゃ恥ずかしいことをした気がするな。


「そっか……じゃあここでお別れだね」

「うん。でもまた明日があるだろ? 水巻、病欠が多かったから、身体に気をつけてな」

「あ、ありがとう」


 なにが、ありがとうだっ!?

 お前に身体の心配なんてされるとか、虫唾が走るわ!

 でも、どうしてだろ……こんな風に話せたことが、ちょっと嬉しいような。


  ※


 鬼塚と別れて、長い坂道をひとりで歩いていると……。

 背後から、ものすごい足音が聞こえてきた。

 振り返ると、優子ちゃんがこちらへ向かって走って来る。


「も~う! 藍ちゃん! なんで、あそこに私を置いていくのよ!?」

「あ、ごめん……忘れてた」

「酷い! 天ヶ瀬っていう2年生のヤンキー。すごく怖かったんだから!」

「え? あの人、上級生なんだ……」


 だから、鬼塚も反抗できなかったのか?

 そう言えば、天ヶ瀬もバスケ部のユニフォームを着ていたな。

 部活中もいじめられないのかな?


「聞いてるの!? 藍ちゃん、私の心配はしなくて良いの?」

「あ、優子ちゃんなら、きっとあの天ヶ瀬って人も大丈夫だと思うよ」

「それ、どういう意味!?」

「……」


 優子ちゃんはゴリゴリの腐女子だから、ヤンキーも手を出さないとは言えないよな。


 怒る優子ちゃんを一生懸命、なだめながら家に帰る。

 家の前に着くころには、彼女の機嫌もなおっていた。


「じゃあ、藍ちゃん。また明日ね! あ、今度の休みに私の家に来ない? お姉ちゃんの新作があるからさ」


 全力で拒否させて頂きたい。


「あ、まあ……考えておくね」


 優子ちゃんに手を振って、自宅のドアを開くと。

 リビングから、何やら笑い声が聞こえてくる。

 靴を脱いで、その声の方へ向かってみると、若い女がソファーに寝転がっていた。

 テレビを見ながら、足の爪に赤いペディキュアを塗っていた。


 俺はその姿を見て驚きのあまり、手に持っていたカバンを床に落としてしまう。

 その音に気がついた女が、俺を見て「おかえり、藍」と言ってきた。

 ということは……この女は俺の姉。つまり前世での兄貴だ。


 胸元がザックリ開いたタンクトップに、超ミニ丈のスカート。

 確かに身体としては、細身でナイスバディな女子高生だとは思うが、顔がね……。

 前世と全く同じ、兄貴の顔のままなんだ。

 国民的RPG”ドラコンクエスト”に出て来るモンスター、”ばく●んいわ”にそっくり。


 それを見た俺は、本日二度目になる吐き気を感じてしまう。


「ヴォエっ!」

「ちょっと、藍! いきなりお姉ちゃんの顔を見て吐くとか、酷くない?」

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