大切なことを忘れる女
チュロスが100本入っているビニール袋を両手に抱えて、遊園地の出口まで向かう。
この時代のスペースワールドを十分に楽しめたし、そろそろ夕方の4時が近い。
鬼塚が門限を気にして「水巻さえ良ければ、電車に乗ろう」と言ってきた。
「うん、今日はいろいろとありがとうね。鬼塚、私さ。遊園地がこんなに楽しい所だとは思わなかったよ」
俺がお礼を言うと、彼は恥ずかしそうに鼻の頭を指でかいていた。
「そ、そうか? 水巻がそんなに喜んでくれるなんて俺も嬉しいよ……まあ今回は俺が連れて来たわけじゃないけどさ」
「関係ないよ。いい思い出になったと思う」
と言いながらも、チュロスをかじりながら笑って見せると、なぜか彼は視線を逸らす。
「今日の水巻、見たことないぐらい眩しいよ……」
「んぐ……周りにイルミネーションがあるからじゃない?」
「そうじゃないって……」
「?」
※
帰りの電車は敢えて、普通列車に乗ることにした。
鬼塚が言うには「遊園地で一日疲れただろうから、一時間かけてのんびり座って帰ろう」とのことらしい。
乗客が少なかったので、4人掛けのボックスシートに向かい合わせで座ることにした。
100本のチュロスを隣りに置いて。
「それにしても、今日は幸運だったよ」
鬼塚がスペースワールドと書かれたビニール袋から、今日撮影したツーショット写真を取り出す。
遊園地のフォトフレーム付きで写真の周りにキャラクターたちが並んで立っていた。
「なにが幸運だったの?」
「いや、だってさ。水巻との思い出がこんな綺麗に撮影できて、大きな写真にプリントしてもらったからさ。こういうの、なかなか手に入らないだろ?」
彼の「手に入らないだろ?」という言葉で、ようやく思い出した。
今回、遊園地に行った最大の目的を。
「あっ!? ヤバい! もう遊園地を出ちゃった!」
シートから立ち上がり、手遅れだったことに気がつく。
鬼塚は気がついてないようで、驚いた顔でこちらを見ている。
「どうしたんだ? 忘れ物か?」
「い、いや……忘れ物というか、忘れていたというのが正しい表現なんだけど」
「何が言いたいんだ?」
口が裂けても言えない。プリクラを撮りに来たのに忘れていただなんて……。
チュロスの件で彼に「プリクラを撮ろう」と言うのを忘れてしまった。
どうしよう? もう戻れないし。
でも、プリクラより大きな写真を鬼塚は喜んでいるし、結果オーライてことで良いかな。
~50分後~
俺は相変わらず、チュロスをひとりでもしゃもしゃ食べていた。
そのせいで、砂糖やくずがワンピースにいっぱいくっついている。
鬼塚から「そろそろ”筑前真島駅”に着くから、降りる準備しておけよ」と言われた。
20本ほど食い終えたが、まだチュロスは80本近く残っている。
残りは帰ってから自宅でのんびり食べようとするか。
シートから立ち上がり、ワンピースについていた砂糖とくずを手で払おうとした瞬間だった。
いきなり鬼塚が大声を上げる。
「お、おい! その場で汚れを落とすなよっ!」
「なんで?」
「そんなの、あとで乗る人が嫌な気持ちになるし、掃除する人が大変だろ?」
「別に良くない?」
俺が平然と答えると、彼は深いため息をつく。
「はぁ……ちょっと待て。水巻、お前はそこでじっとしてろ」
そう言うと、彼はショートパンツのポケットからハンカチを取り出す。
頬を赤らめて「少しスカートを触るけど、許してくれよな」と呟く。
そして俺のワンピースについている汚れを手で払い、ハンカチの上に落としていく。
ハンカチを丸めて、列車内に設置されていたゴミ箱に捨てていた。
なんか俺ってお世話されてばかりいる?




