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殺したいほど憎いのに、好きになりそう  作者: 味噌村 幸太郎
第十一章 ウインターデート

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大切なことを忘れる女


 チュロスが100本入っているビニール袋を両手に抱えて、遊園地の出口まで向かう。

 この時代のスペースワールドを十分に楽しめたし、そろそろ夕方の4時が近い。

 鬼塚が門限を気にして「水巻さえ良ければ、電車に乗ろう」と言ってきた。


「うん、今日はいろいろとありがとうね。鬼塚、私さ。遊園地がこんなに楽しい所だとは思わなかったよ」


 俺がお礼を言うと、彼は恥ずかしそうに鼻の頭を指でかいていた。


「そ、そうか? 水巻がそんなに喜んでくれるなんて俺も嬉しいよ……まあ今回は俺が連れて来たわけじゃないけどさ」

「関係ないよ。いい思い出になったと思う」


 と言いながらも、チュロスをかじりながら笑って見せると、なぜか彼は視線を逸らす。


「今日の水巻、見たことないぐらい眩しいよ……」

「んぐ……周りにイルミネーションがあるからじゃない?」

「そうじゃないって……」

「?」


  ※


 帰りの電車は敢えて、普通列車に乗ることにした。

 鬼塚が言うには「遊園地で一日疲れただろうから、一時間かけてのんびり座って帰ろう」とのことらしい。

 乗客が少なかったので、4人掛けのボックスシートに向かい合わせで座ることにした。

 100本のチュロスを隣りに置いて。


「それにしても、今日は幸運だったよ」


 鬼塚がスペースワールドと書かれたビニール袋から、今日撮影したツーショット写真を取り出す。

 遊園地のフォトフレーム付きで写真の周りにキャラクターたちが並んで立っていた。

 

「なにが幸運だったの?」

「いや、だってさ。水巻との思い出がこんな綺麗に撮影できて、大きな写真にプリントしてもらったからさ。こういうの、なかなか手に入らないだろ?」


 彼の「手に入らないだろ?」という言葉で、ようやく思い出した。

 今回、遊園地に行った最大の目的を。

 

「あっ!? ヤバい! もう遊園地を出ちゃった!」


 シートから立ち上がり、手遅れだったことに気がつく。

 鬼塚は気がついてないようで、驚いた顔でこちらを見ている。


「どうしたんだ? 忘れ物か?」

「い、いや……忘れ物というか、忘れていたというのが正しい表現なんだけど」

「何が言いたいんだ?」

 

 口が裂けても言えない。プリクラを撮りに来たのに忘れていただなんて……。

 チュロスの件で彼に「プリクラを撮ろう」と言うのを忘れてしまった。

 どうしよう? もう戻れないし。

 でも、プリクラより大きな写真を鬼塚は喜んでいるし、結果オーライてことで良いかな。


 ~50分後~


 俺は相変わらず、チュロスをひとりでもしゃもしゃ食べていた。

 そのせいで、砂糖やくずがワンピースにいっぱいくっついている。

 鬼塚から「そろそろ”筑前真島(ちくぜんまじま)駅”に着くから、降りる準備しておけよ」と言われた。


 20本ほど食い終えたが、まだチュロスは80本近く残っている。

 残りは帰ってから自宅でのんびり食べようとするか。

 シートから立ち上がり、ワンピースについていた砂糖とくずを手で払おうとした瞬間だった。

 いきなり鬼塚が大声を上げる。


「お、おい! その場で汚れを落とすなよっ!」

「なんで?」

「そんなの、あとで乗る人が嫌な気持ちになるし、掃除する人が大変だろ?」

「別に良くない?」


 俺が平然と答えると、彼は深いため息をつく。


「はぁ……ちょっと待て。水巻、お前はそこでじっとしてろ」


 そう言うと、彼はショートパンツのポケットからハンカチを取り出す。

 頬を赤らめて「少しスカートを触るけど、許してくれよな」と呟く。

 そして俺のワンピースについている汚れを手で払い、ハンカチの上に落としていく。

 ハンカチを丸めて、列車内に設置されていたゴミ箱に捨てていた。


 なんか俺ってお世話されてばかりいる?

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