なんの取柄もない木こりの俺が、美しい女神を妻に迎えられた理由――斧と神罰と笑いの旅
俺がいつものように木を伐っていたある日、事件は突然起きた。堅い木に思い切り斧を振り下ろした瞬間、斧は手からすっぽ抜け、くるくると回りながら、神秘の泉へと一直線に飛び込んだ。
「なんてこったい!」
俺は泉のほとりにひざまずき、頭を抱えて嘆いた。
「斧がなけりゃ、俺は明日からおまんまの食い上げだ!」
そんな絶望の中、泉の水面が揺らぎ、一本の斧が浮き上がってきた。
「おお、俺の斧が戻ってきた!」
だが、なにやら様子がおかしい。
喜ぶ間もなく、斧の下から現れたのは、息を呑むほど美しい女性――いや、女神だった。
斧は女神の頭に突き刺さっていたのだ。俺は恐ろしさの余り尻もちをついた。
「うはっ!一転してホラーショーだよ!」
透き通るような肌に、大きな瞳。女神は俺を見つめ、困ったような笑顔を浮かべていた。
「そう…でも、どうしてかしら?何も思い出せないの。ここはどこ、私は誰…?」
俺は驚いた。どうやら記憶を失っているらしい。この状況をどうするべきか迷ったが、目の前の女神の無垢な表情に、ふと思い浮かんだ言葉が口をついて出た。
「あなたは…俺の妻です。」
女神は少しの間、俺の顔をじっと見つめると、ふわりと微笑んでうなずいた。
「そう言われると、そんな気がしてきたわ……お願い、早くこの斧を取ってよ!」
俺は胸を躍らせながら女神の斧に手を伸ばした。こんな美しい女神が自分の妻になるなんて夢のようだ。
「よし、頭をもっと下げて」
俺が斧を抜くと、女神は突然目を見開き、記憶を取り戻した。
「あの木こり! よくもわらわを騙したな!」
俺はあわてて、斧を女神の頭に戻した。すると、女神の記憶は再びリセットされた。
「あら、あなた早く斧を抜いてよ」
「いや、医者が言ってた。斧はむやみに抜かないほうがいいって」
「お医者様がそう言うなら、仕方ないわね」
こうして、俺は王侯貴族も手に入れられない、すばらしい妻を手に入れたのだ。
彼女は、単に顔が美しいだけでなく、サラサラとした栗色の髪、思わず触らずには居られないようなすべすべした白い肌と豊かな胸を備え、抱き締めると何とも言えない、いい香りがするのだった。
「お前を抱いていると、なんとも言えず落ち着くなあ。ずっとこのままでいたいよ」
「あら、私もよ。うふふ」
クリスタルベルを振るような心地よい声で、彼女は応えてくれる。
それだけではない。彼女は気立てがよくて、働き者で、俺にぴったりと寄り添うようになった。他の男が言い寄ろうものなら、たちまち神罰を与える。
「うぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
何をするにも「あなたがいないと不安なの」と甘えてくる。その瞳には純粋な信頼が宿っていて、俺の心を震わせた。
だが、ただ一つ気がかりなことがあった。それは、いつか妻の記憶が戻ってしまうことだ。俺は日夜斧が抜けないよう、そばで見張らなければならなかった。
俺は木こりの仕事を辞め、女神を連れて旅に出ることにした。頭に斧が刺さったままの美しい妻は、人々の注目を集めること間違いなしだった。俺たちは国中をめぐり、行く先々で見物料を稼いで生活するようになった。
「ほほう! 見てください、何て珍しいヘアスタイルの美人だ!」
「こりゃすごい!こんな見世物は他では見られん!」
見物客は大盛況。どの町でも一躍有名人となり、収入は右肩上がりだ。
「俺たちは大成功だな!」俺は満面の笑みを浮かべた。
「あなたと一緒になって、色々な国を旅することができて本当によかったわ」
妻も心から感謝しているようだ。
こうして、俺と妻の旅は、ドタバタと笑いに満ちたまま続いていった。頭に斧を刺した美人妻は、伝説の旅芸人として国中の話題をさらい、二人の幸せな(?)日々はますます賑やかになっていくのだった。
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