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第一話 竜の山へ

 王都アイリーン。

 至高の女神の名を冠した花の都。

 その日、王宮前広場には多くの人間が詰め掛けていた。


「すごい人出だな‥‥」


 フィランダー・フォン・グリューンが呟いた。

 まあ、彼もまたその一人なのだから、あまりえらそうなことは言えないだろう。

 とはいえ、


「露店まででている

 ‥‥我々は崇高な任務に赴くのではなかったのか‥‥?」


 やや呆れ顔だ。

 にぎやかなことこの上ない。

 竜の山へ赴くという一大事業を前にして、商魂たくましい人々も興奮しているということだろうか。

 ざっと見たところ、参加者は一〇〇人前後だ。

 見送りや野次馬はその五〇倍といったところだろう。

 昂然と胸を張る若い戦士や、危地へと赴く息子の肩をたたく父親。

 愛する恋人を涙ながらに見送る女性。

 悲喜こもごもである。

 このうち、幾人が生きて帰ってこれるだろう。

 装備を確認しながら、内心に問いかけるフィランダー。

 竜の山は秘境だ。

 人外魔境といっても過言ではない。

 地図にすら載っておらず、訪問はただ転移門のみが可能にする。

 そこへ赴き、竜の長老から話を訊かなくてはならない。

 困難は想像を絶する。


「ふぅ‥‥」


 溜息。


「なにを不景気な顔してるんだ」


 不意に肩をたたかれ、フィランダーは振り返った。

 すみれ色の瞳に映っていた人影は、


「よっ」

「キース‥‥君も行くのか?」

「まぁな」

 明るい金髪にビーズを絡めた青年だ。

 キース・クロスハート・ファ、と、名前はいささか長い。


「義母上にも言われてしまったしな」


 なんだか苦笑を浮かべている。

 フィランダーも苦笑した。

 キースの義母とは、すなわち彼の上官である。


「それで、暁の女神亭からも人を出したのか」


 キースの後ろに視線を送るフィランダー。

 何人かの男女が立っていた。

 知っている顔もあれば知らない顔もある。


「よ。

 胃薬のにーちゃん」


 知っている一人、アオイ・エクレールが軽く手を挙げた。


「‥‥そのニックネームはやめてくれるとありがたいのだが」


 哀しそうなフィランダーを見つつ、木霊と天霧が頭をさげる。


「君たちも?」

「はいっ」

「いえ。

 私は見送りです」


 肯定する木霊と否定する天霧。


「あたしはジュリア。

 一応、魔法剣士」

「俺はラロ・ケイメンだ。

 探偵だがシーフ技能は任せろ」


 面識のない少女と黒人も名乗った。


 つまり、キース、アオイ、木霊、ラロ、ジュリアの五人パーティーということだ。


「もし良かったら、フィランダーくんも一緒に行かない?」


 アオイが誘う。

 ごく軽いノリだが、十分な打算がある。

 現状、パーティーには接近格闘戦能力が不足しているのだ。

 ここは前衛を一人でも増やしておきたいところだ。


「ああ。

 仲間に入れてもらえるなら、それにこしたことはない」

「決まりだな。

 よろしく」


 フィランダーとラロが握手を交わす。

 これにアオイのペットであるヘルハウンドが加わって、六人と一匹の即席パーティーが完成した。


「皆さん。

 無事に帰ってきてくださいね」


 転移門へと消えるものたちを、手を振りながら天霧が見送る。




 アイリーンは語る。

 神は地上の出来事に手を出してはいけないのだ、と。

 それは、人の歴史を汚す行為だから。

 たとえ、どれほど酷い状態になっても、それを解決し未来を拓くのは人間たち自身でなくてはならない。

 人類がターニングポイントを迎えるたびに、なにか超常的な力が働いて正しい方向へ導くとしたら、それは、少なくとも人類の歴史ではない。

 しかし、いま、神と同格のものが人に干渉しようとしている。

 その第一峰としての、異世界人大量訪問だ。

 世界を混乱させるため。

 二〇〇有余年の過去にも、同じことが起こった。

 陰謀の地下茎は、プリンシバル平原へと続いていた。

 魔王ザッガーリアの根拠地へと。




 軽い目眩が去ると、風景は一変していた。

 街道のように広い道が、果てしなく続いている。

 道の両側は林だ。

 そして聞こえる剣戟の音。


「さっそくってか?」


 ラロが影のように駆け、背の高い木に登る。

 見えた。

 モンスターと冒険者たちが闘っている。

 否、この表現では事実と異なるだろう。

 一方的に人間が虐殺されているだけなのだから。


「一二時の方向。

 距離二〇〇。

 トロルが一。

 オーガーが二」


 下にいる仲間たちへ報告。

 余計なことは一言もいわない。

 ここはもう戦地なのだ。


「どうする?」


 アオイの視線がフィランダーを射た。


「ふむ‥‥」


 下顎に手を当てる青年騎士。

「悩んでるうちに、どんどん殺されるわよー」


 どこか他人事のようなアオイの言葉。

 結局、それが行動を決定したといって良い。


「よし。

 行こう」


『応』


 フィランダーの声に、仲間たちが唱和した。

 ヘルハウンドの大友が爆音を立てて突進する。

 続くのはフィランダーとキース。

 その脇を追い越すように、ジュリアとアオイの魔法が飛ぶ。

 着弾。

 爆光。

 土煙晴れやらぬなか、ヘルハウンドとトロールが衝突した。

 牙が巨人の肩口を抉り、鋭い爪が腹部を切り裂く。

 むろん、トロールもやられているばかりではない。

 巨大なメイスが、幾度も幾度も大友のボディーにたたきつけられる。

 皮が裂け、魔法金属の骨組みが露わになり、それすらも破壊されてゆく。


「大友ぉっ!?」


 半ば悲鳴をあげながら、アオイが攻撃魔法を立て続けにたたきこむ。

 わずかによろめくトロール。


「トロルは回復力がけた違いですから、首を刎ねてください!!」


 木霊が叫んだ。

 むろん、そんなことはジュリアにもキースにもフィランダーにもわかっている。

 わかっているが、身の丈三メートルはあろうかという巨体の首をどうやって刎ねろというのか。

 まして、接近戦に強いフィランダーとキースは、それぞれに人食い鬼と戦闘中だ。

 とてもではないが、他の援護までは手が回らない。


「破っ!」


 ジュリアの一撃が、トロールの右足にヒットする。


 無謀なまでの突進で乱戦へと斬り込んだのだ。

 そして、ヒットアンドアウェイ。

 動きが一瞬とまる。

 そして大友にはその一瞬で充分だった。

 巨大な口から吹き出す紅蓮の炎。

 全身を炎に包まれ、苦悶の絶叫をあげて巨人が走る。

 大きく飛び退くヘルハウンド。


「バカっ!

 退きっ!!」


 アオイの叫び。


「へ‥‥?」


 キースを援護しようとしていた木霊の前に、巨大な姿が迫る。

 身をかわす暇もあればこそ。

 大きく弾き飛ばされる少年の身体。

 二度三度と地面にたたきつけられる。

 トロールはそのまま走り去り、崖下へと転落する。

 が、それはパーティーにとってはどうでも良いことだった。


「こだまっ!?」


 キースの注意が逸れる。

 その瞬間、オーガーの一撃が腹に決まった。


「ぐ‥‥」


 片膝をつく。


 アックスを振りかぶる人食い鬼。

 死神の鎌のように。


「迂闊だな。

 キース」


 オーガーの背後から聞こえるラロの声。

 黒い両手から血が滴っている。

 林を駆けて戦場を迂回した黒の探偵が、絶妙のタイミングで援護に現れたのである。


「すまんっ!」


 一挙動で立ちあがったキースの剣が閃く。

 どさりと、鬼の首が地面に落ちた。

 残るはオーガーが一匹だけ。

 アオイとジュリアの援護をうけたフィランダーが、傷を負いながらも倒したのは、それからほどなくのことだった。




「はぁ‥‥はぁ‥‥」


 荒い息をつくジュリア。


「あかん‥‥大友の戦闘参加はもう無理や‥‥」


 スパナを握ったままのアオイの嘆き。

 道を進むほどに、敵は強力になってゆく。

 竜の山を甘く見ていたわけではないが、やはり厳しい。

 トロールたちをしりぞけた直後、グリフォンに襲われたのだ。

 それも、三頭である。

 この戦闘で、大友は戦闘力を失い、ドラゴンを憑依させて闘ったキースも重傷を負った。

 もちろん他のメンバーもぼろぼろである。


「負傷者の治療が済んだら、すぐに出発だ」


 フィランダーが言う。

 酷薄にすら響く言葉。

 だが、彼は上司から幾度も教わっているのだ。

 敵地に入ったら可能な限り迅速に行動すること。

 停滞すれば時間を稼がれることになる。

 侵攻する側と守る側では、補給や補充にかかる時間が違いすぎるからだ。


「せめて負傷者を休ませてはどうでしょう?

 パーティーを二つに分けるとかして」


 木霊が提案したが、


「それはダメだ」


 首を振るフィランダー。

 戦力を分けてはいけない。

 それは兵力分散という愚を犯し、敵に各個撃破の機会を与えることになるから。


「つらいやつは、大友に乗って」


 フォローするようにいうアオイ。

 ここで討論している暇はない。

 すすむしか、ないのだ。




 道を進むにつれ、風景が変わっていく。

 それは、山というより神域のようであった。

 エオスを守護する神々の像が各所に置かれ、遠くに神殿らしき建造物が見える。

 風雪による痛みなど、全くなかった。


「ついたのかしら‥‥?」


 ジュリアが小首をかしげる。

 それに応えるように、


『竜の聖域を侵すものたちよ‥‥』


 何処からか声が響く。


「そーら、きなすった」


 ぺろりと紅唇を舐めるアオイ。

 キースとフィランダーが剣を構える。


『そなたらの蛮勇に相応しい歓迎を‥‥』


「べつに頼んでねーけどな」


 すっとゴーグルを捨てるラロ。

 ここから先の戦闘では視界を狭めるような防具など邪魔なだけだ。

 目前の空間が、立ち上る陽炎のように揺れている。


「さて‥‥鬼がでるか蛇がでるか」


 乾ききった声を、木霊が漏らした。


「どっちにしても‥‥」

「やるっきゃないっ!!」


 呪文の詠唱に入る、女性二人。


「女性陣はやる気満々ですね」

「俺たちもやるしかない!」


 フィランダーとキースが突進する。

 実体化と同時に斬りつけるつもりなのだ。

 まず、順当な戦法だろう。

 ラロは側面に回り込み、木霊は短期的な作戦を立てるために最後衛につく。

 やがて、現出する人影。

 紅く紅く。

 血よりもなお赤い炎の衣を纏った巨人。

 人はそれを、こう呼び慣わしてきた。

 炎の魔神「イフリート」、と。


「破っ!」

「斬!!」


 剣士二人の攻撃は、何の手応えもなく通り抜ける。

 フィランダーの剣も、キースの善勝も、名剣ではあったがただの剣に過ぎないのだ。

 精霊に傷を与えることはできない。


「ふたりとも下がってっ!

 エンチャントするから!!」


 詠唱を中断してジュリアが叫ぶ。

 魔法をひとつ無駄にしてしまったが、唱えていたのはサラマンダージャベリンだ。

 イフリートに対して、効果があるとは思えない。


「うちが時間を稼ぐさかい!」


 敢然と前に出るアオイ。


「アイスフィールドっ!!!」


 氷の嵐が炎の舌と衝突し、凄まじいまでの水蒸気を発生させる。


「次やっ! ダイアモンドダスト!!」


 矢継ぎ早に魔法を繰り出す。

 手数で勝負するしかないことを、彼女は知っていた。

 一撃ごとの重さなど比較にならないのだ。

 言明したように、これは時間を稼ぎである。

 イフリートにダメージを与えるつもりなど最初からない。


「フィランダーとキースが戦えるようになるまで、うちが支えな‥‥」


 それは、時間にして数分のことだろう。

 永遠にも等しい数分間ではあるが。


「アイシクルランスっ!!」


 赤毛の女の両手から、氷の槍が伸びる。




「よしっ。

 行って! フィランダー!」

「ありがとう!」


 淡い光を放つ長剣をかざし、イフリートに突進するフィランダー。


「やっと一人やな‥‥」


 気合いを入れ直し、アオイがふたたび呪文を用意する。


 炎の巨人の唇が歪む。

 笑みの形で。

 瞬間。

 パーティーの中央部の地面から吹き出す火柱。

 直撃していたら、確実に冥界の門をくぐっただろう。

 両手を広げた木霊が炎の柱に突っ込む。

 自殺行為、ではない。

 彼の特殊能力のひとつ、気流法である。

 炎を吸収するのだ。

 もちろんすべて吸収することなどできないが、防御くらいの役には立つ。


「キース君もOK。

 行って」


 ぽん、と肩をたたくジュリア。


「了解」


 ふたたび前線へと戻るキース。


「あたしも戦線参加っ!」


 続いてジュリアも駆けだした。


「ウンディーネっ!

 彼を取り巻く鎧となって!!」


 側背から斬りかかるラロを支援しながら。

 フィランダーの剣が胴を薙ぎ、アオイの魔法が炸裂し、ラロの動きが攪乱する。

 即席のパーティーとは思えぬ連携で、少しずつ少しずつイフリートを追いつめてゆく。

 多くの傷を負いながらも。

 これが人の持つ力だ。

 敵の戦い方を分析することができる。

 勝つための作戦を立てる事ができる。

 やがて、炎の魔神が地上での支配力を失い、姿を消した。


「やっとかよ‥‥」


 どっかりと地面に腰を下ろすキース。


 他のメンバーと同様、満身創痍だった。

 その視界の中、建物の方から老婆が歩み寄ってくる。

 もちろん、ただの人間ではあるまい。


「まあ、かろうじて及第点じゃな」


 ひょひょひょ、と、空気が抜けるような笑い声。


「マルドゥークさま‥‥」


 キースの、というより彼に宿る竜が尊敬に満ちた声を出す。

 竜族の頂点に君臨する存在を目の前にしているのだ。

 緊張しない方がおかしい。


「そう緊張するでないよ。

 キアル坊や」


 人の悪い笑みを、竜種の長が浮かべる。


 パーティーは声もなく座り込んでいた。

 ダメージゆえに動けない、というのもあるが、それ以上に、マルドゥークの威厳に打たれたのである。

 外見はただの老婆でしかないというのに。


「まあ、ここまで頑張ったものたちには、相応の礼をもって当たるべきだろうね」


 軽く指を鳴らす。

 傷つき疲れ果てていたパーティーに光が降りそそぎ、傷を癒していった。


「さあ。

 もう立てるはずだよ。

 こっちへおいで。

 お茶でも振る舞ってやろうほどに」


 誘う。

 唖然と、男女が顔を見合わせた。




 竜の長の話は、長時間には及ばなかった。

 いま、エオスに起こっている事が説明され、その解決策を教えられたのである。


「魔王‥‥ザッガーリア‥‥」


 掠れた声を、ジュリアが絞り出した。

 それが、異界から人を招いたものの名だ。

 竜騎士たちを使って各国の首都を攻撃したものの名だ。

 主神六柱に弓引くものの名だ。

 知らず、自分の肩を抱きしめるジュリア。

 魂を冷やすような名だった。


「我らは‥‥どうすれば良いのでしょう?」

「残念じゃが、アイリーンさまをはじめとした神々は地上のことには手を出せないのじゃ」


 マルドゥークの話が続く。

 神々は、その強大な力ゆえ、自らに枷をかけた。

 自分で作ったルールを破るわけには、いかないのだ。

 その意味では、ザッガーリアは神よりも有利な位置にある。

 思うさまに動き回ることができるのだから。

 むろん、地上世界においての話ではあるが。

 もともと、ザッガーリアは神の一柱だった。

 それが天界を追放され、地底深くに封印されたのである。

 理由は、地上の支配権を欲したことだ。

 先述の通り、神は地上を統治しない。

 どんな状況になっても、そのときの地上の支配者に解決を委ねる。


「じゃが、それがザカルは不満じゃった」


 ザカルというのは、神だった頃のザッガーリアの名である。

 彼は考えた。

 神は一柱で良い、と。

 その神のもと、整然と秩序のととのった世界を作るべきだ、と。

 しかし、それはアイリーンをはじめとする神々の考え方とは、点対称の位置にある思想だった。

 結局、ザカルは神々との戦いに敗れ、封印される。

 そのときに神名を剥奪されて、ザッガーリアとなるのだ。

 ちなみにザッガーリアとはルーン神の言葉で「否定すべきザカル」という意味である。

 ザッガーリアは、いまから二〇〇有余年前にも敗北した。

 聖騎士たちと竜騎士たち、そして彼らに協力した聖戦士たちの活躍によって、プリンシバルの地底奥深くへと封印されたのである。

 だが今回は、


「竜騎士たちは、ザッガーリアに忠誠を誓ってしまった」


 マルドゥークの声は苦い。

 時代の変化とともに、聖騎士も竜騎士もその役割を失って、形骸に近くなっていった。

 それでもなお、聖騎士はときにサーガなどに登場するが、竜騎士という存在を知るものはほとんどいないだろう。

 それが、竜騎士たちの長であるウィリアム・クライブには残念だった。

 数多くの武勲に彩られたドラグーンが、どうして歴史の表舞台に立てないのか。

 不満とまではいかなかったが、漫然と心楽しまぬ日々を送っていた。

 そこをザッカーリアにつけ込まれたのだ。

 人の心の黄昏に入り込む魔性。

 それがザッカーリアである。

 ウィリアムはけっして弱い心の持ち主ではなかったが、結局、一族を引き連れて魔王の陣営へと走った。


「そうか‥‥」


 キースの嘆息。

 過去は過去。

 どうしてそれがわからないのだろう。


「割り切るには、人間の心はあまりにも弱いんだよ」


 とは、フィランダーの言葉である。


「そうそう。

 アイリーンさまからお預かりしたものがある」


 マルドゥークが、テーブルの上に宝玉のようなものを置いた。


「こいつで、聖騎士を捜せる」

「こんなもので‥‥」


 手に取るアオイ。


「我らが力を貸せるのはここまでじゃ。

 自分たちの世界、しかと守るのじゃぞ」


 それが、会談の終了を告げる竜の長の言葉だった。




  エピローグ


 パーティーは無事に、王都アイリーンへと戻った。

 一〇〇人近くに及んだ参加者のうち、帰ってこれたものは三〇人にも達しなかった。

 それほどの苦難だったのだ。

 成果を得た彼らは、金貨五〇〇枚という多額の報酬を受け取ることとなる。

 労働者階級ならば二年分の収入に相当するだろう。

 とはいえ、イフリートなどと一戦交えるのに相応しい額であるかどうか。

 これは見解の分かれるところであろう。

 ただ一つ言えることは、

 アオイが大友の修理代に、金貨二〇〇枚以上を消費してしまったということである。


 聖騎士と竜騎士。

 かつては戦友ともとして共通の敵と戦った存在が、今度は剣を交えることになるのか。

 運命というものに人格があるとすれば、それはずいぶんと悪意に満ちているようだ。

 竜の長から預かった宝玉を握りしめ、フィランダーが溜息をついた。

 王都の空に、粉雪が舞っていた。

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