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逆因果事象

『この世には世界の法則を乱すものがある。"機関"は、それらを異変と呼ぶことにした。

 "機関"とはそれら異変が人類に対しての害となるのを防ぐために組織的に行動する集団である。


 彼らの目的はただ一つ。人類を守ること。

 だが、それの目的はこの先破綻する。

 |そういう未来だと最初から決まっている(ラプラスの悪魔)。


 ―――或るいは。』


  ▽▲▽▲▽▲


 ロウとライの2人が居住区の部屋でくつろいでいると、玄関の鈴が鳴った。

 異変観測の仕事は週3くらいの頻度で振られており、二人はそれ以外は基本家にいるインドア人間だ。

 そして、そんな二人の玄関の鈴を鳴らす人なんてのはほぼ一つまで限られる。



「ロウ! なんか荷物が届いたぞ? なにこれ?」


 ライの視線の先には黒色の怪しいボックスが置かれていた。

 この怪しさは機関からの贈り物で間違えないだろう。


「ああ。それが今回から俺たちに課された課題の一つらしい。」


「へぇ。開けていい?」


 荷物に興味津々のライの問いに、ロウがパソコンをいじりながら頷く。


「中身はいつも通り異変物だから、危なくはないとはずだが一応ゆっくり開けてくれ。」


「了解!」


 ロウの補足説明に頷きながらライはゆっくりと梱包を開封する。

 その中から出てきたのは、白色の腕時計だった。

 白色がどこか神々しい雰囲気を漂っていて、ライが一見しただけではただの良い時計に見えた。


「時計だ。これはなんなんだ?」


「分からないから俺たちの元に送られてきたんだ。」


「やっぱそういう感じか・・・。」


 ロウの答えにライは微妙な顔で納得の声を漏らす。


「不定期に強い現実濃度の低下パルスを広範囲にもたらすらしいんだが、そのパルスの影響で発見されたらしい。だが、異変として機能する条件が今のところ全く分からないことと、極端に固いから壊すことは不可能だということしか分かってない。しかも、壊れるほど強く力を与えない限り現実濃度を下げることすらしない非常におとなしい変異物だ。」


「面倒そうだな・・・。一応確認するが、上層部は俺たちにこれをどうしろというんだよ。」


 ロウの説明にライが気乗りしない顔で聞いてくる。


「上層部の言葉を要約すれば、『俺たちにも全くわからんからずっとつけて確かめろ』だな。」


「ふざけてんのか!?」


「まあ奴らがどれだけ実験しても分からなかった末に俺たちに回されているはずだ。だったら、変異の効果が簡単に現れたり、物凄く危ないってことは無い、と思う。それだけが救いだな。」


 怒りを覚えるライと、不機嫌ながらも口を動かし平静を装うロウ。


 そして問題は二人の内、どっちがこの時計をつけるかということだ。


「これは俺が付ける。ライばかり体を張っていてはバランスが悪い。」


「いや! 今回も俺がいつも通り体を張らせてもらう。ロウは頭を使ってくれればそれが最善なんだよ!」


 2人は自分の言い分を言い合って睨みあう。互いが互いにつけてほしくないという意見のぶつかり合いだ。


「・・・。じゃんけんだ。それで恨みっこなしに決めよう。」


「わかったよ。」


  ▽▲▽▲▽▲


「時計とは別に、今日は"突然そこに現れた建物"を調査しろと命令されている。それがここだ。」


 2人の視線の先には、もう誰もいないであろうボロボロの建物があった。


「突然現れた? このボロボロの、こんなに歴史がありそうな建物が?」


「ああ。この建物は衛星マップ上に2日前まで存在しなかったが、突然この場所に出現したらしい。」


 時計の持ち主をじゃんけんで決めた後、2人は今日も命令のままに異変の調査へ出かけていた。

 誰も通りかからないような森の中、そこにはボロボロの建物があり今回の調査内容はこれだ。

 突然出現した建物。変異の影響で間違えないだろうとロウは断定すると、ロウは現実濃度を計ることにした。


 異変においての第一の指標は現実濃度なのだ。


「現実濃度は・・・100?」


 現実濃度計を取り出して値を確認したロウが少し驚いたような声を漏らす。


「ライ、ここは現実みたいだ。現実濃度は100。ほころびはどこにもない。」


「は? そんな訳ないだろ。現実なんだったら建物が突然出現したことをどうやって説明するんだ?」


 ロウの言葉にライが反発する。

 当たり前のことだった。ライの言う通り、現実の空間では建物を突然出現させることはできないはずだ。

 だが、それとは裏腹にここは現実だった。


「―――いや、おかしくない。この建物は、異変の効果によってここに突然出現しただけの普通の建物なんだろう。」


「ど、どういうことだ?」


 ロウの説明に頭がこんがらがったライがそう言う。

 ロウが言っていることは要するに、異変によってこの建物がここに突然出現したが、この建物自体は普通の現実の建物だと言うことだ。


「つまりは異変はもう起こっていないってことか?」


「ああ。この建物は現実の建物である以上、異変による危険の心配はない。今回の調査は楽に済みそうだ。」


 調査が楽になった事実に、割と珍しく機嫌の良くなったロウがそう言った。


「この建物が異変じゃないなら帰ってもいいんじゃないか?」


「いや。この建物は異変じゃなくてもこの建物を出現させた異変は存在するはずだから、それの手がかりとしても、この建物が何の建物なのかだけでも調べる必要がある。」


「ああ・・・確かに?」


 頭がこんがらがっているライにロウが説明する。


 そして納得した2人はこの建物の調査を開始した。

 2人が正面の入り口のように見える場所から建物の中へ入ると、あるものが目に映った。

 見渡す限り部屋いっぱいに本棚が並んでいるのだ。


「図書館か?」


「そのようだな。」


 ライの言葉にロウが同意する。


「早速だが、本を読んで調査しておくか。それが済んだら帰れるだろう。まあ、本を開いたら異変が起こるなんてことが無ければだけどな。」


「ロウ、それはフラグじゃないか。」


「・・・。とりあえず、明らかにおかしな本があったりすれば教えてくれ。」


 2人は調査方針についてそう話し合い、各々に本を読み始めた。


  ▽▲▽▲▽▲


 ライはロウの調査方針通り、目についた本を一つ、本棚から抜き取って開いてみた。

 本のタイトルは『第三次世界大戦の記録』だった。

 ライは少し読んでみる。


「きれいだし、割と新しい本みたいだ。」


 ライは一通り読んだ結果、異常な部分がなかったので本棚に本を戻した。


 その後もライはいくつかの本を見たが、どれも普通の本に見えた。

 そうして2人は一度集まる。



「ロウはなんか見つけたか?」


 ロウはライの言葉に首を横に振った。


「ライは?」


 ロウの言葉にライも首を横に振った。


「この図書館は普通の図書館ってことでいいよな?」


「・・・。いい、と思う。」


 少し引っ掛かってる様子のロウが微妙な返事をする。


「タイトルと本を照らし合わせてみたし、ここにあった本は全部実際にある本だと確認できた。・・・やはり普通の図書館に見えるな。」


 ロウはそう言って頭を悩ませる。



「・・・よし、帰ろう。」


 悩んだ末、ロウはこの図書館を隅々まで写真で記録して帰ることを決断した。


  ▽▲▽▲▽▲


 帰り道、ライは腕につけていた時計を見つめる。

 じゃんけんに勝ったのはライで、ライが時計をつけることになったのだ。


「この時計、針が動かない。」


「調節するネジとかあるんじゃないか?」


「そう思って探してみたんだけど無いんだよ。電源ボタンとかも何もないんだ。」


 ライに言われて気になったロウは、顔を近づけてライの時計を見る。

 時計の針は全て0を示していて、動く気配はない。常に12時00分だ。


「もしかして、ただ壊れないだけの時計ってことは無いだろうな?」


「案外あり得るかもな。でも、現状ではサンプル不足だ。結論を付けるまでしばらくはつけている必要があるぞ。・・・なあ、一日一回交代とか、」


「嫌だ。」


  ▽▲▽▲▽▲


『<調査資料 "突然出現した建物" 調査結果 2024/XX/XX>


 "突然出現した建物"は、未知の変異によって2024年XX月XX日にXX県XX市の森の中に突然出現した一般的な建造物だと推測されます。

 この建物を調査した結果、図書館として作られた建物であると断定しました。(以下に画像を添付します)


[画像1~15]


 なお、この建物に特筆すべき変異は確認されませんでした。故に、出現自体は別の異変による事象であり"突然出現した建物"は異常のない一般的な建造物だと推測されます。』


『調査結果を受けて、機関はこの建物を出現させた異変を可能な範囲で捜索します。』

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