表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャンネル  作者: もちづき裕
花魁淵編
36/42

第十二話  そこに川がある

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 真っ黒い川が流れていた。

 これは普通の人には見えないものなのだろうけれど、おそらく渡辺さんが入院していると思われる病室から、蛇行するように流れている。


 途中、階段を下り、裏口の扉(時間外受付用らしい)から外に出ると、川は病院前の坂を登るような形で伸びている。


「おおう・・おお・・」


 その恐ろしい真っ黒な川を、真っ黒な女たちが流れていく。まるで何処かに案内でもしようとしているみたいに、ぷかぷかと、女たちの体が流れていくんだけども・・


「ちょっと!智充!何処に行くんだよ!」

 後ろから追いかけてくる大森くんが怯えた声をあげている。


「待ってよ!待って!」

「俺、お守り持ってねえんだよ!」


 歩道がない、車がかなりのスピードで坂を下りてくるような山道なので、ガードレールに沿って慎重に歩みを進めて行っているわけなんだけど、川は途中からアスファルトの道路を離れて山の中へと入り込み、蛇行をしながら木々の間を進んでいく。


 この辺りはきちんと山を整備しているようで、植林されている杉や欅の木々が等間隔で植えられている。そのため、比較的歩きやすい状況ではあったんだけれど、大森くんは恐怖で足がもつれて何度も転びそうになっている。


 人の生き死にには『川』がよく出てくるんだけど、これは日本だけでなく、海外とかでも同じなんだよね。例えば、ギリシャ神話には、冥府の川の渡し守としてカロンという名前の老人が出て来ることになる。1オボロス払わないと船に乗せてくれないので、埋葬時には、死者に1オボロス銅貨を握らせる風習が残っている。


 日本の場合も同様に、三途の川を渡るには六文銭を支払わなければならないとか言われているよね。今の世の中でも、棺桶に入れる際には冥銭として、お金を入れる風習もあるらしい。


 僕は小学四年生の時にチャンネルを開いてしまったが為に、幽霊なんかを見られるような状態になってしまったわけだけれど、そんな生活の中で『川』はよく視界に残る現象だった。


 人によっては『霊道』霊が通る道なんて表現する人も居るんだけど、僕にはこれが川に見える。


 昔々、あの世とこの世の間を分ける境界の川として三途の川というものがあるのだと、仏教の教えとして日本に定着することになったんだ。諸説あるらしいんだけど、川を渡るのに三通りの渡りかたがあるから、三途の川と呼ばれるようになったとか。


 罪のない善人は橋を使って川を渡る、平安以降は船で渡るという考えが定着して、渡し賃として六文銭が必要ってことになったらしい。


 軽い罪の人は橋を使わず、浅瀬を利用してあの世へと渡る。それから大きな罪を犯した人なんだけど、強深瀬(ごうしんせ)という波の高さは山のように高く、川の流れは矢のように早い難所を渡らなければならないらしい。川底には大蛇が待ち構え、川の流れに乗って大岩がゴロゴロ流れて来るような、鬼が監視下に置く場所だとも言われている。


 君島さんは、脳みその側頭葉という場所に死ぬ直前になると電気刺激が加えられるようになって、七色に輝く大きな川みたいなものを無意識のうちに見るようになる。死を怖がらせないように脳みそがそんな働きをするから、死後に川を渡って〜なんていう話が世界中にあるんだって言っていたけども・・


 実際問題、この世の中には、見えない川(思念体の濁流)のようなものが流れているわけで、僕はこの川の先にあるものにある程度の検討を付けていたってわけだ。


「智充〜、もう日が暮れるし、危ないって〜、帰ろうよ〜」


 半泣き状態になっても尚、僕の後ろをついて来る大森くんの方を振り返りながら僕は言ってやったよ。


「大森くん、実は僕、小学校の時に家族と一緒にハイキングに行った狭山丘陵で、埋められた遺体を見つけたことがあるんだよね」


「はあ?」


「遺体の発見はその時、全国ニュースにもなったんだけど、とりあえず、こんな感じの山の中に埋められていたんだよ」


「えええ?」


「それでさ、何で見つかったのかというと、ハイキングに行く二週間くらい前に、記録的な豪雨というのが続いて、至る所で土砂災害みたいなものが起こっていてさ」


「聞きたくない・・聞きたくない・・」


「それで、僕が入り込んだ山肌の部分も、大量の雨を含んだ土が崩れてしまっていて、それで穴を掘って埋められていた遺体が表に出てきちゃっているような状態だったんだよね」


 あの時も、川の流れに沿って探しに行ったら白骨遺体を発見しちゃって、僕を追いかけてきたお父さんは腰を抜かすし、話を聞いたお母さんは絶叫するし、僕の家族は阿鼻叫喚の坩堝と化したわけなんだけど、もしかしたらその頃から、僕が厨二病を患っていると家族は考えていたのかもしれない。


 確かに、白骨遺体を発見するのは僕にとって、かなり刺激的なアドベンチャーだったんだけど、遺体が発見された霊体は何だか満足した様子で成仏したから、人助けも出来た!くらいの感覚でいたんだよね。


 そんな訳で、チャンネルを開いていなければ見られなかった川の流れを病院内でキャッチした僕は、川の流れを追いかけるようにして急な斜面を登って行った訳だけど、その途中、大量の枯葉が詰め込まれた小さな窪地に、埋もれるようにして倒れている坂本くんを見つけたって訳だよ。


「う・・うわっ・・うわっ・・うわあああああ!坂本くんー〜!死んでるーー!」

「死んでない、死んでない」


 脈はあるし息もしているけれど、何かの薬でも飲まされたのかな、呼びかけても全く意識が戻らない。枯葉の中から引き摺り出された坂本くんは、後ろ手にされた状態で結束バンドで固定されているし、両足も結束バンドで固定した状態になっている。


 いくら春先とはいえ、今までこの場所に放置されていたのは間違いないし、僕が川を見つけられずにそのまま放置をしていたら、まず間違いなく、坂本くんは死んでいただろう。


「うわぁあ、なんで結束バンドで拘束されているんだよぉ!」

 大森くんは坂本くんの体を引き摺り出すのを手伝いながら絶叫したんだけど、どんなに大きな声をあげたところで、この山の中だから人が助けに来るわけもない。


「大森くん、まずは警察に電話をしてくれる?それで、警察に電話をしたら、結束バンドは外して良いのかどうかを聞いてくれる?」

「わ・・わかった、それで、智充はどうするわけ?」

「病院に戻って、今、こんな状況なんだけど、お医者さんを誰か派遣してくれませんかってお願いしてくる」

「え?」


「病院まで運ぶのに救急車を頼むことにはなると思うんだけど、その前に、医師の診察をしてもらえるのならして貰った方が良いと思ってさ」

「マジで?だったら俺が病院に行って、お医者さんを呼んでくるよ」


 一人、山の中に残って坂本くんに付き添いたくない大森くんは、すぐにも走り出そうとしていたんだけども、

「大森くん、お医者さんは余計なことに構っていられないほど、非常に忙しいから、哀れに、同情を誘って、今、誰かが行かないと死んでしまうかも!っていう緊迫感を持ってお願いしないと駄目だよ?」

 と、僕は声をかけた。


「研修医の一人でも回してくれれば良いけど、忙しいから救急車を自分で呼んでねってすげなく断られる可能性は高いんだよ。そんな中、きちんと同情を誘って、今すぐに、誰かが行かないと一つの命が失われるかも!っていう緊迫感を持って大森くんはお願いすることが出来るんだよね?」


「ゔ・・・」


 実際問題、坂本くんがどんな状況になっちゃっているのか、素人目には判断できないから、専門家に即座に診て欲しいんだよ。

「それに、山の往復を急いですることになるけど、大森くん、体力ある?」

「智充、悪いけどお前に任せられるか?」


 大森くんは、坂本くんの顔を覗き込むようにしゃがみ込みながら言い出した。

「俺が坂本くんを見ているから、智充は医者を呼んで来てくれ!」

「警察への電話も頼んだよ〜!」

 そう言って僕は元来た道を走り出す。

 大森くんの後ろには大量の霊が居たけども、本人が気が付いていないんだから、特に問題はないだろうさ!


ここまでお読み頂きありがとうございます!

モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ