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AZUL MONSTER  作者: twister
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第1話 噂の屋敷

 学校が終わり、夕方になってからしばらくが経ったとき、私は件の屋敷の前にたどり着いた。かつては立派な屋敷であったであろうそれは、長い間放置されていたためか壁には染みが多く見られ、硝子窓も幾つもが割れ、薄暗くなってきた日の光に照らされ不気味な雰囲気を纏っていた。

 本当にこんな所に人が住んでいるのかと疑問に思い、居るとしたら人ではないものではないのかという考えが頭をよぎるが、すぐに振り払う。私もこんな事を考えることがあるのかと内心苦笑するが、それもあのオカルト好きの友人の影響なのだろう。彼女の顔が頭に浮かび、より一層助けなければという気持ちを強めた。

「待っててね、雲雀……」

 そう呟いたのはまるで決心を新たにする儀式のよう。この屋敷に抱いた恐怖心を押し隠し、門を潜った先にある扉に手をかけた。



 私がこの不気味な廃屋にやって来たのは友人を探すためだ。彼女は鈴木雲雀といって中学以来の友人で、出会った時からオカルトに傾倒していた。心霊写真や、未確認飛行物体の写真などをよく見せられた。私はそういったものを信じてはいなかったが、

「そういう人の意見も大事なんだよ」という雲雀に対して私も自分なりの見解を話した。

 そんな雲雀がこの屋敷の噂を聞きつけたのは当然のことだろう。何でも最後の住人が変死して以降、この屋敷に入ると不思議なことが起こるらしい。人の何倍もある影を見たとか、何処からともなく声が聞こえてきたとか、背中に生暖かい息のようなものを感じたとか様々だ。この手の話にはよくある事だが、取り壊そうにも怪奇現象が作業員を襲い、最終的には中断され、ぼろぼろの屋敷だけがただ建っているという。昨日、雲雀はそこまで話したら

「今日の放課後、行ってみようと思うんだよねその屋敷に」と言って、放課後慌てて学校を出た。

 その翌日、つまり今日の朝学校に登校すると、雲雀の姿がない。話を聞くに昨日、家に帰っていない。慌ててスマートフォンを取り出し、メッセンジャーアプリから雲雀宛にメッセージを送るも何時まで経っても既読が付かず、返事もない。その日の授業は雲雀のことが心配で頭に入って来なかった。考えるのは彼女が何処で行方知れずになったのかという事。考えに考えた末、雲雀の言っていた屋敷が怪しいのではないかと思いやって来たのだ。


 扉を押し開けると以外にも鍵は掛かっておらず、そのまま開いた。雲雀が開けたのか、それとも元から鍵が掛かっていなかったのか。気にはなったが今は彼女を探すことを優先しようと思った。

 屋敷の中は隙間風のせいか、建物の中だというのに少し肌寒く感じた。玄関部分は広く作られ、昔映画で見た西洋風の屋敷もこんな内装だったなと思い出させた。玄関回りを見て回り、まずは照明のスイッチを探した。それはすぐに右手の壁側に見つかった。スイッチを入れるが照明は点かない。何度か操作したところでこんな廃屋が通電しているわけがないという事に思い至る。仕方なくスマートフォンのライトを付けながらそんなことまで考えが及んでいない自分はこの状況で多少なりとも恐れているのだと思い知らされ、気を引き締めなくてはいけないと感じた。

「雲雀? 居るの? 居るなら返事をして!」

 屋敷の外に聞こえないであろう声量で何度も繰り返しながら屋敷の中を探索する。まずは一階から、応接室のような部屋、トイレ、リビング、キッチン、何処にも雲雀は居ない。だが、最後に入った書斎のような部屋には何故か本棚と本棚の間に地下に続く階段があった。

「何でこんな所に階段が……? でも、こういうの雲雀は好きそう」

 隠し階段のように見えるそれは偏見かもしれないが雲雀が下ってみたくなる好奇心を抱くのではないかと思った。


 地下室はコンクリートで固められただけの床と壁をしていて、ぼろぼろながらもかつての豪華さを感じられた一階の内装との差なのか寒々しく感じた。ライトをかざしながら歩き、手近な扉を開けてみる。ちょうどそこでスマートフォンのライトが消える。電源こそ落ちてはいないが、バッテリーが少ない。きっと学校で雲雀から返事がないかと何度も付けたからだ。いや、そもそも今朝充電していたはずのコンセントが抜けていたからだろう。そう考えるも一階よりも光のない地下室でどうしようかと手探りで壁に触れていると、カチッという音がして視界が一瞬白く染まる。すぐに照明が点いたのだと理解するが、玄関で照明が点かなかった事を思い出し疑問に思うも、その疑問はすぐに別の疑問で消された。

 部屋が明るくなった事で私の視界に入ってきたものは、肉塊とでも言うべきものだ。部屋の中心の台にそれはあり、皮膚を継ぎ接ぎにして造られたであろうことが分かる。骨や内臓もあるらしく、呼吸をするように蠢くそれは何かと思った。

「何だ? また人間がやって来たのか」

 その声は肉塊から発せられたと思ったが、すぐにその奥にあったベッドから起き上がった人物が発したものであると理解した。

「折角眠っていたのに……。まあ、おおかた通電しているとは思わなかったのだろう?」

 その人物はベッドの脇に掛けてあった白衣に腕を通しながら言った。身長は百七十に満たないくらい、長い銀髪を結い、その顔は明らかに日本人ではなく、中性的な顔立ちで性別は分からなかった。

「あ、あの、あなたは……。それと、これは何ですか」

 私は部屋の中心にある肉塊を一瞥して言った。

「ん? ああ。混乱するのも分かるが、何かを聞くときはまず自分から名乗るのが礼儀じゃないか?」

「え? あ、はい。私は望月小夜。近くの高校に通う学生です」

 その人物は満足げに頷くと、振り返り、棚からメスを取り出すと、肉塊にその刃を入れた。

「あの、質問には?」

「ああ、すまない、残りの作業をしながら答えようと思ってね、まず、私はアーティ。医者とも学者とも受け散れる事を生業としている」

「医者? 学者?」

「好きな方で捉えてくれて構わないよ。次に、今私がメスを入れているこれだが、死者蘇生の研究の一環で、失敗作を解体している」

 医者? 学者? 死者蘇生? 失敗作? 疑問詞ばかりが頭に浮かぶ。いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。雲雀のことについて聞かないと。スマートフォンを取り出し、画面に雲雀の写真を表示させ、アーティと名乗った人物の方へ向ける。

「あの、この子がこの屋敷に来ませんでした?」

 アーティさんは画面をジッと見ると、すぐに肉塊の方に視線を落としながら

「ああ、来たよ」と言った。

「本当ですか!? じゃあ、今どこに居るか分かりますか!?」

「今はアルの所じゃないかな」

「アル? それはいったい……」

 アーティさんは壁の方を指差しながら言った

「隣の部屋」

「ありがとうございます!」

 それだけ聞くと私はアーティさんのいる部屋を飛び出した。幸い地下の廊下はアーティさんの部屋から漏れる明りで隣の部屋の扉が確認できた。

「雲雀!」

 隣の部屋の扉を勢いよく開ける。薄明りでよく見えないが、誰かが床に倒れている。私はすぐに駆け寄った。

「小夜……?」

 確かにこれは雲雀の声だ! 人影を抱え起こすと、眠っている雲雀だった。

「雲雀……。良かった」

 雲雀を抱きとめて安堵するも、すぐに違和感に気が付く。雲雀は意識を失っている。じゃあ、さっき私の言葉に答えた声は……?

「小夜! 早く私を抱えて! ここから出よう?」

 雲雀の口元を見る。彼女の口は動いていない。

「小夜! 小夜! なーんて、もうバレてるか。ハハハ」

 いつの間に近づいたのか、長身の男性が私たちのすぐ近くに立っている。その口からは雲雀の声色で言葉を発している。

「まあ、逃げた方が良いのは本当さ。早く逃げないと君たちの匂いを嗅ぎつけたこわーいオオカミが……」

 背中に生暖かい息を感じる。これって、噂の……? 恐る恐る振り向くと狼の顔をした小柄な人間のようなものがよだれを垂らして立っている。それは私たちに飛びかかって来た!

「雲雀!」

 私は反射的に雲雀を庇う様にして自分の腕を盾のように突き出す。その腕はそれに噛まれてしまった。

「痛い!」

 牙が腕に食い込む。腕からは血が流れる。

「ライカ。お客さんだ。誰彼構わず噛み付いてはいけないと教えてあるはずだよ?」

 その声色は男性のものになっていた。それを聞いて、狼頭は私の腕から口を離す。

「ごめん、アル」

「……やはりこうなったか」

 いつの間にかアーティさんが扉の前に立っている。アーティさん、アルと呼ばれた男、ライカと呼ばれた狼頭は私の方を見下ろしている。どうやら私の言葉を待っているようだ。

「あなたたちは、何者なの……?」

「私はアーティ。動く死体だ」

「僕はアル。人の生気を食らう者」

「ライカは狼だ」

 私が目の前で起こっていることを信じられないでいると、アルというひとが口を開いた。

「ここは噂の通り、化け物の住む家さ」

思い付きで書きました。

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