ウデ・クツシターVSアシ・グンテー 6回戦
この小説を開いてしまったあなたは近いうちにインド人になるだろう。それも普通のインド人ではなく、常人の3倍以上のインド人となるだろう。心からナマステ申し上げる。
さて話は変わるが、あなたは家に防犯カメラを設置しているだろうか。え、していない?
⋯⋯していないだと?
そうかそうか。そういうパターンか。ならば私からひとつ提案だ。
蛾と寝ろ。
目を擦って2度見しているだろうか。安心してくれ、見間違いではない。あなたは蛾と寝るんだ。私の頭脳が導き出した計算結果によると、蛾と寝ることによって防犯カメラを設置した場合と同等の結果を得ることが出来るはずなのだ。
先日蛾と寝ていた友人から相談を受けたのだが、防犯カメラに写ってはいけないものが写っていたそうなのだ。いわゆる心霊映像というやつだ。
その日友人は防犯カメラを片手に同窓会に向かっていた。幹事から指定された場所に到着し店の中に入ると、誰もいなかったそうだ。店に入ってしまった以上出るわけにはいかないということで、とりあえず1人で席に向かったという。
「いらっしゃいませ〜、16名様ですか?」
友人は確かに1人で店に入ったはずだった。しかし、店員は16人だと言っている。友人はその時背筋が凍ったそうだ。彼を含めた同窓生の人数とピタリと一致していたからである。
「はい、16人です」
そう言って彼は2人がけの席についた。待っている間、彼はずっと防犯カメラで自撮りをしていた。
「こちらお冷でございます。ご注文お決まりになりましたら、そちらのベルでお呼びください」
店員は机に水を16杯置くと、そそくさと厨房の方へ戻っていった。
シャキシャキ
シャキシャキ
友人は食感の良い鼻くそを食べながら同窓生を待つことにした。しかし、10分経っても、1日経っても、1年経っても誰も来ない。
仕方がないので自分の分だけパスタを注文したそうだ。その時厨房からこんな話が聞こえたそうだ。
「あそこの2人がけの席、16人座ってるんだけどパスタ1つ頼んだだけなんだよ」
「16等分するのかな? ていうか、1年に1回しか食事しないのかなあいつら」
友人は自分のことを言われているとすぐに分かったと言っていたが、大人なのでグッとこらえてパスタを待ったそうだ。
「お待たせいたしました〜」
おちょこサイズの皿に入ったパスタが16個出てきたそうだ。16皿を16口で食べ、お会計を済ませ、帰宅して防犯カメラをチェックしていると、そこには自分以外の人間が写り込んでいたという。
再生してみると、家を出た時は彼しか写っていなかったが徐々に人数が増えていき、同窓会会場に着いた頃には16人になっていたというのだ。
恐ろしいことに、彼以外の15人は半透明の姿をしていた。さらに恐ろしいことに、その15人は彼と全く同じ顔をしていた。さらにさらに恐ろしいことに、現在その15人は町に散らばって詐欺や暴行、万引きなどを繰り返しているという。
「なりすましほど怖いものはない」と彼は言い残しこの世を去った。あの世からたまに会いに来てくれるが、私は怖がりなので正直やめて欲しいと思っていることは彼には黙っておこう。
さて、あなたはこの小説のタイトルを覚えているだろうか。『ウデ・クツシターVSアシ・グンテー6回戦』である。6回戦ということは、当然1〜5回戦も存在する。そして、それぞれ別の作者が書いている。これはリレー小説なのだ。
ウデVSアシ⋯⋯なんともそそるタイトルである。しかし残念なことに、この小説は腕に靴下をつけた男と足に手袋を履いた男との対決ではない。なぜか過去のリレー参加者によってタイトル通りの内容を書くことを禁止されているのだ。
さて前置きはこのあたりでやめにして、本編を開始するとしよう。アーユーレディ? 蛾と寝る準備は出来たか? この戦いを見逃すな! めっちゃ見ろ! それでは、よーい、ナマステーーーーーー!!!!!!
ウデ・クツシター。彼は地球上で最も弱い人間であり、その正体は桃太郎に登場するババアが愛用していたとされるももひきである。というか昔話に出てくる全てのババアのももひきである。最近目玉が4つになったこと以外はごく普通の男子高校生だという噂だ。チャームポイントは後頭部に彫られた「釦」という字のタトゥーだ。彼はたまに発光しながら浮遊しているところを目撃される。
対するアシ・グンテーはシジミのような黒い見た目の貝を履いた黒い網タイツである。生まれはエジプト、今年で4歳になる。チャームポイントは鼻の穴いっぱいに詰め込まれた紅しょうがだ。ちなみにこの紅しょうがは1本1本意思を持っている上にめちゃくちゃ大声で喋る。紅しょうがのせいで村八分にされたこともある。大好物は紅しょうがだそうだ。
まずは大食い対決からだ。今回は回転寿司で食べた貫数を競う。制限時間は3ヶ月だ。ウデとアシが司会の前で睨み合う。
「あ?」
「あ?」
「みゃ?」
「みゃ〜」
「にゃ〜」
「マーォ」
「ナーォ」
「こんちは」
「マーーーーオ」
「ニャーーーーゴ!」
「マーーーーーーーーーーーーーオ!!!」
狂った独り言を並べる司会に2人は戦慄し、言葉を失った。叫び狂う司会の隣では大量のポップコーンが弾けていた。塩を振る者、溶かしたキャラメルを絡める者、溶かしバターを絡める者など楽しみ方はそれぞれであったのだがちょっと捻りがないななんて思ったり思わなかったり。
まずウデがマグロの皿に手を伸ばした。そしてネタをちょんちょんと触り、手を引っ込めた。隣の席に座っているアシも同じ皿に手を伸ばした。机に取り、醤油をかけようとしたその時、
「ん? なんだこの緑色の物体はぁ!?」
アシの目線の先には、マグロの上に乗った小さな緑色のツヤのある小さな物体が乗っていた。そう、ツヤのある小さな緑色のツヤのある物体が乗っていたのだ。アシは戸惑いながらも醤油をドバドバとかけ、寿司を口へと運んだ。
「むむ、こりゃ鼻くそだぁ!」
今年1番の笑顔を見せるアシ。よほど嬉しかったのだろう。タッチパネルを手に取り、注文を始めるアシ。
一方で、鼻から緑色のツヤのある小さな物体を量産し続けるウデ。イクラ軍艦のイクラだけを爪楊枝で1つずつ食べ尽くし、代わりに鼻くそを乗せていく。あっという間に鼻くそ軍艦の完成だ。
「うふふ、あの人喜んでくれるかしら」
ウデは誰かにこれをプレゼントするつもりのようだ。ここで筆者はバレンタインを思い出した。2組のうすら君に手作りチョコあげたっけなぁ。懐かしいなぁ。釣り餌にされたけど⋯⋯
鼻くそ軍艦をレーンに戻すウデ。隣の席のアシはなんの迷いもなくその皿へ手を伸ばす。2貫のうち1貫を手に取り、上下左右からジロジロと見てひと通り訝しんだあと、口の中へ放り込んだ。
「むむ、こりゃ鼻くそだぁ!」
今人生1番の笑顔を見せるアシ。彼は生まれた時から鼻の穴に例の紅しょうがが詰まっていたため、1度も鼻くそをほじったことがないのだ。
ではなぜ、鼻くその味だと分かったのか。実は彼は以前仲間たち数人と無人島へ漂流し、ウミガメのスープと言われ鼻くそを出されたことがあったのだ。後から種明かしされたのだが、その時アシはこう言っていた。
「布団が吹っ飛ぶんなら軽いタイプのラーメンはもっと吹っ飛ぶよな。まぁ、いなり寿司のほうが軽いわな。悲っし!」
それからアシは他人の鼻くそを好むようになった。過去の女性関係の破局の原因は全て鼻くそによるものだった。
「鼻くそ食べさせて」
「いいよ」
「まっず! お前はクビだ!」
といったように、鼻くそが不味いと彼女たちはクビにされてしまうのだ。
「大将! ブリちょうだい!」
「あいよ!」
ウデが次々に注文をしてゆく。タッチパネル式だっつってんだろうが。
「へいお待ち!」
「あざす!」
とは言ったものの、回転寿司なのでレーンに乗せて届ける。新幹線ではなく、席の色のカップに乗せて届けるタイプだ。
「ん? なんだこれ」
ウデの席の色のカップに乗っている寿司を見てみると、シャリの上に白くて四角くて薄いものが乗っている。
「イカじゃねーか! ブリ頼んだだろうが!」
怒りはするが、ウデは基本的に好き嫌いはしないタイプなのでその皿も自分の机に取った。
「いただきます」
手を合わせて食事開始の挨拶をするウデ。さっきまでしてなかっただろうが。いきなり始めるなよ。
「パクッ⋯⋯ん、これ湿布じゃねーか! イカ頼んだだろうが!」
怒りはするが、ウデは基本的に好き嫌いはしないタイプなので2貫目ともちゃんと平らげた。
「イカなんか頼まれてねぇよ!」
ワンテンポ遅れた大将のツッコミが炸裂する。
カンカンカンカン!
ここで3ヶ月のタイマーが鳴った。
「優勝は大将です!!!!!!」
野良キリンと野良熊と睨み合いをしていた司会が小さな声でボソッと呟いた。
「大将には優勝賞品が授与されます!!!!」
見たことのない長細い何かを持って大将のもとへ歩み寄る司会。
「よくやった勇者よ。褒美にこの杖を授けよう」
「ははっ」
「あ? なに笑ってんだ」
グシャリ
司会の機嫌を損ねてしまった大将はグシャグシャのビリビリにされてしまった。後に彼は転生することとなる。なろう小説のように。
「フン、どいつもこいつも骨のねぇ奴らだぜ」
司会の隣でポップコーンを食べていた黒屋の息子が言った。彼はこの世のあらゆる黒を売っている『黒屋』のひとり息子であり、自身も真っ黒に染まっている。兄は松崎しげるである。
「よっこいしょ」
特に体勢を変えたわけでもない黒屋の息子はウデとアシのいる方向へスタスタと歩き出した。その時、この公園に雷が落ちた。
ドゴーーーーーーーーン! ゴロ
雷は公園の真ん中に生えていたぶっとい木に落ちた。その木は裂け、中からそれはそれは可愛くない赤ん坊が生まれてきた。ウデとアシはたいそう喜んだ。
「可愛いのう」
「おお、ほんに可愛いのう」
2人は赤ん坊をデンプンと名付け、この上ない愛情を注いで育てた。時には鶏肉に纏わせて揚げたり、時にはヨウ素液を垂らして青紫色に変化させたり、本当の娘のように育て上げた。
「おじいさん、おばあさん、今から鬼退治に行ってきます」
デンプンが強い眼差しをおばあさん(ウデ)に向けた。おそらく麻薬の入ったダンゴをねだっているつもりだろう。
「⋯⋯⋯⋯」
「あ、間違えた! 今から薬局に行ってきます。何か欲しいものある?」
最近の薬局はなんでも売っている。大トロが売っていることもあるという。
「人工芝」
「ベンツ」
本当に欲しいものを答える2人。
「あいよ!」
デンプンは歩いた。ひたすらに歩いた。ちょうど日本を1周した頃、尻に挟んでいた携帯電話が鳴った。
「もしもし」
『ベンツまだ?』
おじいさん(アシ)からである。娘が3日も帰ってこないので心配しているのだろう。娘からしたら鬱陶しいこと極まりない。
「もうすぐだから、切るね」
電話を終えたデンプンはめいっぱい身体をひねり、めいっぱい手を伸ばし、背伸びをした。
「うにゃああああああああああ」
脇腹がつってしまったようである。
「助けて、神様助けて⋯⋯!」
普段は無神論者なのにもかかわらず、こういう時だけ神頼みをする、愚かな人間である。
脇腹が治りかけた頃に、天から羽根の生えた面白い顔のゆるキャラが舞い降りてきた。
「私は知の天使アホエル。お困りかね」
ゆるキャラではなく天使だったようだ。
「唸るほど金を稼ぎたいです」
デンプンは本当の欲望を伝えてしまった。神に対してこのようなことをお願いするのは愚かな行為なのである。
「まんまるでプルプルでツルツルですべすべ、今日のきんたまかわいいかも。でもなんで今日だけ?」
それだけ言ってアホエルは天に帰っていった。デンプンは口を開け、ぽかんとしている。歩行者用信号の青が輪切りのキュウリに見えてきた所で彼女の記憶は途絶えている。
次に彼女が目覚めたのは、闇の中だった。
とうとうウデ・クツシターVSアシ・グンテーのリレーも第6弾まで来た。そもそもこういうのがアリなのかどうかすら分からないが、楽しいのでアリとしようじゃないか。
事の発端は猫大長老七宝というユーザー(世界一の美少年。般若の面に似ている。4ヶ月前までは金メダルそっくりだった)が当時書いていたウデVSアシに飽きてしまった(めんどくさくなった)ことである。飽きたので途中でやめようとしたが、文量も少ないし山場もないしで、どうしよう⋯⋯と思う暇もなく右手が勝手にリレーにすると書いていた。
まさか4人も書いてくれるとは思っていなかったので、とても嬉しかったし楽しかった。またみんなで何かやりたいね! 今度わんこ蕎麦ごっこしよっか!
このウデVSアシリレーは私の感想解説ツッコミによって完成を迎えると言われているが、自作品には感想を書けないので、ここに書くことにしよう。
と思ったけど忙しいしめんどくさいし、もうやめよう。おしっこもしたいし。おやすみ。次第7回ね。あ、7弾か。なんか違うな。7回戦か。