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クラス委員長 その1

1話と2話に短編からの変更があります。

似たような話なんて、読んでられないよ! という人のために要約です。


その1 登場人物に名前が付きました。 主人公・碇矢哲長 生徒会長・志村春花

その2 学校は近隣の生徒が集められた臨時合同校舎です。生徒会長は女子校の生徒です。

その3 ラストに出てきたインハイ出場女子は世界線の狭間に消えました。

その4 漏れてるかもしれないので、読んで欲しいでヤンス。 


 入学式直後の音楽室は静まりかえっていた。

 もっとも、生徒は分散され広い音楽室にたった10人ほどだ。

 生徒の間隔は2メートルもあるので、騒ぎようも無い。

 俺はそんな静寂の中、机に突っ伏して今起きた事をどう捉えるべきか、スマホのメモアプリで整理していた。


 鳥二(とりふた)町で俺が作った名も無い子供だけのグループ。

 仮に鳥二(とりふた)ズとしよう。


 指先で、スマホに「鳥二(とりふた)ズ」と書き込む。

 そこから線を一本下ろす。

 親分(碇矢)、これが俺。

 そこからさらに線を下ろす。

 子分と書いて、デコ、デッパ、ブー、覚えている子分のあだ名を書き連ねた。

 デコ(   )

 あれ?

 デコって本名なんだ?

 デッパ(   )

 あれれ?

 ダメだこりゃ、誰一人覚えていない。

 いや、そもそも知らないんだ。


 なんでデコは俺の名前を知っていたんだろう?

 そうか、引っ越した家の名前なら大人に聞けば分かるか。


 デコから下に棒を引く。

 生徒会長(性奴……れい)

 すまないね。手書きで奴隷は書けなかったよ。

 そこに「俺の」と追記して、すぐに消した。

 生徒会長(志村先輩)


 スカスカのメモを見ながら、生徒会長の姿を思い出す。

 デコに言えば、あの人が俺の言うことを何でも聞く。

 もにょっともするし、それ以上にぞわっともする。


 でもほら、俺が駄目って言ってもデコが勝手に(エッチな)命令しちゃったら断れないよな。


――おやぶんさん、私を好きにしていいのよ


――いや、だめですよ会長さん! そんな奴隷とか良くないです! ほら、基本的人権とか国会とかが駄目って言います。


――じゃ、裁判所に認めてもらいましょ


――そうですね、裁判所が良いって言うなら、良いかもしれません! 法律ですから。明日早速、裁判しましょう!


 いや、駄目だ!

 裁判所に逮捕される!!



 ひとり悶々としていると、タブレットから通知音が鳴った。

 やばい、クラス別の説明会が始まる時間だ。

 通知に従ってビデオ通話アプリを接続する。


 ……あれ? まっ黒画面に無音だぞ?


『え? 聞こえてませんでした? もしもしー?』


 女の人の声が聞こえてきた。


『もしもーし? 聞こえてますか?』


 返事を返さないのも可愛そうだと思い、チャット欄で聞こえていると書き込んでみた。

 俺の他にも数名が書き込んでいる。


『えー、これどうしたらいいの?』


 こんなとき、余計なことをするのが俺の悪い癖だ。

 俺はマイクをONにする。


「聞こえてますよ」


 そして、俺は余計なお世話を後悔しない主義なのだ。


『あ、よかった~ 皆さん、こんにちは。担任の坂本先生ですよ』


「先生。画面が見えてません」


 こんな事で出しゃばると、生意気だとか目立ちたがり屋だとか思われるだろうか?


『えー、そうなんですか? ちょっと待ってくださいね』


 すると画面が切り替わる。

 そこにマス目状に並んだのは学生の顔だった。

 写真では無い、動いている。


 切り替わった画面に手を振って喜ぶ生徒、顔をそらす生徒、興味なさげな生徒、画面を見てない生徒。

 いろんな制服の(・・・・・・・・)、いろんな奴らが居る。


 それが、俺のクラスメイトだった。



『えーと、先生の話はどこから聞こえてましたか?』


 俺は一拍だけ間をおいてから応えた。

 俺は別に目立ちたいわけでは無い。

 他のだれかが応えるなら、そいつに任せたかった。


「全然何も聞こえていませんでした」


『あららー、丁寧にわかりやすくお話ししてたんですよ。先生ってば一人で話してたんですね』


「残念ですが、そうですね」


『じゃあ、時間も無いので要点だけ言いますね』

『おほん。えー、この国はすっかり新型感染症が蔓延してしまいました。そこで今日はみなさんに、とりあえずクラス委員長だけを決めてもらいます』


 ようやく雰囲気に馴れ始めたのか、コメントがちらほらと増えてきた。

 でも、肝心の先生はコメントに反応しない。

 書き込みが見えていないのか、気づいていないのか。

 誰も音声に参加してこないから、俺がコメントを読み上げる。


「他の委員はどうするのですか?」


『今はほとんどの委員会が活動休止中なの。人数的にも連女の生徒さんだけで足りてるのよ。活動が無いのに決めるのも何だから、再開してから改めてちゃんと決めます』


 うおぉ、代わりに俺が読み上げると知って書き込みが増えた。

 自分で言わないからって、悪ふざけを始めた者もいる。

 よく分からない書き込みが多い。

 お前ら自分で話せよ。

 くだらない書き込みは無視だ。


「わかりました。それで、どうやって決めますか?」


『そうですねー。タブレットの投票機能でも良いのですが、まずは立候補者を募ります。だれか、クラス委員に立候補しませんか? 推薦でも良いですよ?』



 ピタリと書き込みが止まった。

 コメントを書き込めば、書き込んだ生徒の名前が表示される。

 ここで目立っては推薦されかねないと、皆が思ったのだろう。

 

 これは長期戦か?

 どうせこのまま他薦になれば、場を仕切ってしまったお節介者の名が上がるだろう。もちろん俺のことだ。


 こんなとき、俺はルールを決める。

 これは鳥二(とりふた)ズで使っていた方法だ。

 意見が割れたり、困ったりしたらその場でルールを決める。

 今、俺はこんなルールを俺自身に定めた。


 ①一分たっても誰も動かなければ、立候補する

 ②他薦で無理やり嫌がるやつの名が出たら、立候補する


 よし。

 当時は俺の名前、哲長から取って「テツの掟」と呼んでいた。


 さあ、そろそろ一分たったし立候補するか。

 コミュ力のある陽キャだからではない。

 「テツの掟」だからな。


 マイクを再びONにしようとした矢先、画面に手を挙げた絵が表示された。

 挙手のアイコンだ。

 立候補だったら良いが、さてどうだ?

 コメントが書き込まれる。


 【荒井チユキ】『立候補します』


 良かった。

 俺はマス目状に映っているクラスメイトから荒井さんを探す。

 チユキ。男子でも女子でも通用しそうな名前だが、なんとなく女子から探し始める。

 あった。

 前髪が長めで、伏し目がちな女子だ。

 そして、顔が……真っ赤だ。

 前髪で目を隠した娘が、真っ赤な顔をしてまでクラス委員に立候補するだろうか?


「おれも、立候補します」


 「テツの掟」は絶対だ。

 ②他薦で無理やり嫌がるやつの名が出たら、立候補する

 正義感とか立派なものじゃない。

 一度決めたなら、俺も逆らうことが出来ない掟なのだ。


 ところが、俺は失敗した。


 ガタン。

 背後で椅子の音がしたので、何事かと俺は振り返る。


 ん? タブレットしか無い空き机?

 違う。

 タブレットで顔を隠している小柄な生徒がいる。

 タブレット越しに俺を睨み付けるその顔は、今さっき見たばかりの顔。

 荒井さんだ。


 荒井さんは真っ赤な顔で、長い前髪越しにぷるぷると俺を睨み付ける。

 これは、本当に自分の意思で立候補した?

 あちゃー、俺はやってしまったかもしれない。


 よし、立候補は取り下げよう。


『はーい。それじゃクラス委員は荒井さんと、碇矢くんね』


 あぁ、男女ひとりづつか。

 考えてみたら当然じゃ無いか。

 これは助かった。

 荒井さんもこれで大満足、俺をにらむ理由はもう無くなったのだ。


『それじゃ、お昼休みの後は配布物を渡します。教科書も全部がデジタル化しているわけじゃありません。受け取り忘れの無いように気をつけて下さいね』


 これにて一時解散となった。

 俺は、これからヨロシクの意味を込めて、再び荒井さんに振り向く。


 ぷるぷるぷるぷる。


 なんだ?

 今度は俺と目を合わさずに、ぷるってるぞ。

 顔は相変わらず真っ赤だった。

 寒いのか?

 顔が赤いのも熱があるのかもしれない。

 おいおい、新型感染症じゃないだろうな。



 俺は広げていたタブレットを二つに折りたたむと、上着の胸ポケットにしまう。

 立ち上がると、さっそく荒井さんの元へ向かった。


 これから一年間、おなじクラス委員だ。

 挨拶くらいはしておかないとな。


「よろしく荒井さん。俺は碇矢」


 俺は荒井さんにむけて右手を延ばす。

 転校を繰り返した俺の処世術。

 日本人なのに笑顔で握手をもとめる、ちょっと変な奴作戦だ。


「ひゃ!」


 しかし、荒井さんは慌てて俺から身を守る。

 そりゃそうだ、初対面の男子に警戒するのはあたりまえだ。

 これは男子専用だった。

 しかも今は、まん延防止対策中なのだ。


 でもなんだろう? なぜか自然に手が伸びてしまった。

 これは、俺が悪い。


「ごめん。ついうっかりしてたよ」


 しかし、荒井さんや?

 なぜにお前さんは両手でおでこ(・・・)をガードしている?

 防御態勢をとるレッサーパンダが居たらこんな感じだろう。

 首をかしげる俺の疑問に、荒井さんは気づいたようだ。


「あ、その。ちょっとおでこ(・・・)は弱いので」

「いや、弱点でなくとも女子のおでこ(・・・)なんて狙わないよ。それより荒井さん、顔が真っ赤だぞ?」


 体温だけ計っとくか。

 俺は音楽室に備えてあった体温計を取ってくる。

 おもちゃの銃みたいな形で、相手に向けて引き金を引くと体温が計れるタイプだ。

 軽く取説に目を通す。

 なるほど、使い方は簡単だな。

 一通り使い方を確認した俺は、その取説を荒井さんに渡した。

 取説を眺める荒井さんの顔がみるみる青ざめる。

 うーん、やっぱり体調わるそうだな。これは体温を測らねば。


「じゃあ、荒井さん。おでこ(・・・)出して」



 微笑む俺。


「ひぃぃ」


 怯える荒井さん。


 俺は怯えるレッサーパンダこと荒井さんに優しく語りかけた。

 野生動物の警戒心は強い。

 右手に握った体温計のトリガーを押すと、カチカチと音がなった。


 カチカチカチカチ。


 なんでこう、クリック音というのは心地が良いのだろう。

 パン屋でトングを鳴らすあの威嚇音の心地よさを思い起こす。


「碇矢くん、わたしおでこが弱くて」

「大丈夫、これは非接触式だからおでこには触れないよ?」

「わたし、熱なんてないから」

「それを確認するためだよ」


 うーっと小さなうなり声を上げるレッサーパンダ荒井さん。

 観念したのか、両の手で前髪をほんの少しだけかきわける。

 頑なに隠していたおでこの露出に、今度はおれがモニョモニョとした。

 上目遣いで俺をにらむ荒井さんは、ちょっと涙目だ。

 額に体温計を向ければ、俺までなぜか緊張してきた。

 俺はおでこに、体温計を近づけた。


「ひゃ、やっぱり無理です!」


 荒井さんはまたしても、細く小さな両の手でおでこを隠した。


「どうしたの?」

「なんかこう、ぞわっとします」


 えー、女の子からぞわっとするとか言われるとショックだわ。

 荒井さん、俺のこと苦手なのかな?


「他の測り方を調べます」


 荒井さんは、机の上にあったタブレットで検索をはじめる。


「ありました。おでこ以外でも正確に測れるそうです」


 あぁ、そう。

 手の甲とか? 荒井さん俺が苦手でも手の甲くらいは計らせてくれる?

 入学早々、クラスの可愛い女子に避けられた俺の心は傷ついたよ。


「じゃ、お願いします」


 え?


「あーん」


 ええ??


 瞳を閉じた荒井さんは、俺の目の前で小さな口を精一杯あける。

 やわらかそうな唇、白い歯。

 そして、きれいなピンク色で、唾液でぬるっとした小さな舌。

 おでこだけは小さな手で隠している。


 でも、おでこは見えないけど。

 女の子の口の中って見ていいものなのか?

 戸惑う俺に、荒井さんは片目を開けて聞いてきた。


「どーひましひた?」


 いえ、別に。

 ただ、荒井さんの口に興奮しているだけだから心配しないで。


「な、なんでもない」


 俺は荒井さんの口の中に、体温計を向けてトリガーをクリックした。


「あれ?」

「ふぁん?」

「いや、測定出来なかった。もう一回いいか?」

「ふぁい」


 何か気を利かせてくれたのだろう。

 今度は小さな舌をペロッと出してくれた。

 ありがとう、荒井さん。ありがとう。ありがとう。


「だめだ」


 せっかくサービスしてくれた荒井さんだったが、そのサービスは無駄に終わった。

 いや、俺にとっては大成功ではあったが体温測定としては無駄だったと言うべきだろう。


 俺は測定結果が表示されるはずの小さなモニターを眺めながら、なんどかクリックをしてみたが反応がない。

 荒井さんが手を伸ばしてきたので、体温計を渡す。

 こういうときに自分で試さないと気が済まない女子は珍しいと思う。


 なんどかカチカチとクリックした後に、体温計を俺に向けてきた。

 俺は身をかがめると、荒井さんに向けて口を開けてみせる。

 俺の口の中に向けてクリックしたのちに、あっと声を上げる。

 荒井さんは自分の口を抑えて、固まってしまった。

 うーん。ここは紳士として言葉を選ぶべきだろう。


「喉ちんこまで丸見えだったぞ」


 あ、ぷるぷるしはじめた。


「大丈夫、きれいだった」


 心配ない。俺は気遣いの出来る男だ。


「本当だって。本当に凄く綺麗だったから」


 虫歯の心配なら無用だぞ?



 結局、体温計はどこに向けたところで反応することは無かった。

 本体が壊れているのか、電池が切れているのか。

 こんなとき、どうしたものか?

 それを調べるため、俺たちはタブレットで学校アプリを立ち上げる。


『一般的な質問はこちらへ、質問用BOT』


 文字入力か音声で質問ができるらしい。


「へい、Siri」


 反応が無い、アップルじゃないのか。


「OK、グーグル」


 やはり反応が無い。

 すると、荒井さんがズイと俺に身を寄せてきた。

 両手でメガホンを作り、俺のタブレットに話しかける。


「イア、ハスター」


 俺のタブレットが反応を見せた。

『いまの音声を利用者の一人して登録しますか?』

 それに「はい」を押したのは、細くて小さな手だった。


「体温計の、調子が、わるい、ので教えて」


 大きな声で丁寧に単語を並べる。

 機械にまで気を使うのが、なんだか荒井さんらしいと思った。

 そして問いかけに合成音声が答えてくれた。


『教室に備え付けの体温計の調子がわるいのですね? そんな場合には、保健室で代わりの体温計を受け取って下さい』


「おぉー」


 感心する俺に、荒井さんは満足そうだ。

 長い前髪で表情はわかりにくものの、自慢げに胸を張っている。

 自慢?

 まぁ、大事なのは大きさじゃないからね。


「それじゃ、荒井さん。俺は保健室に行ってくるから。帰ってきたらおでこで体温測ろうね」


 荒井さんは、それまで張っていた背筋を丸めると「ぴゃっ」と鳴いておでこを隠した。


つづけ

碇矢攻めのターン終了でヤンス。

次回は、ナマ生徒会長が登場でヤンスよ(たぶん)


うがい、手洗い、ブックマークと評価を忘れずにでヤンス!


更新は、週一くらいでのんびりまって欲しいでヤンス……。

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― 新着の感想 ―
[一言] あとは高木と仲本と加藤か...
[良い点] 連載版待ってました!ありがとうございます! [気になる点] その3 ラストに出てきたインハイ出場女子は世界線の狭間に消えました。 そんなー!? [一言] しかし最低あと二人いる子分に想い…
[一言] いいぞ!
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