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生徒会長 その2

『どうしやした? おやぶん?』


 思い出にふける俺を、タブレットの通知音が入学式へと引き戻した。


『いや、デコが約束だなんて言うから思い出してたんだよ。デコ、あの頃の雑誌まだ持ってるのか』


『……すいません、おやぶん。流石にもう持ってないでヤンスよ。千切れてボロボロになったでヤンス』


 そりゃそうだ。

 ただ、デコだったらもしかして……とちょっと残念に思う。


 あれからもかわいい子分はずっと、俺が託した宝物を大事に持ってる。

 そんなデコであり続けて欲しかったというのは、あまりに贅沢だろう。

 それでも、約束を覚えていて何か代わりを用意してくれていたのだ。

 それで十分だ。


『それでデコ。もちろん俺の趣味は覚えているんだろうな?』


 願いというのは口に出すことで叶うとも言う。

 強い思いは現実となるのだ。


 あれからずっと清楚知的系クール処女ビッチが大好きだと言い続けた俺。

 その努力……努力?

 まぁ努力が実って俺は、本当に清楚知的系クール処女ビッチが大好きになっていたのだ。

 そして、その理想はズバリあの袋とじである。


 あれから俺は、あちこちのブックオフへ行き、錆びた無人ビニ本自販機を漁りあの袋とじの雑誌を探し続けた。

 もちろん、同じ様な清楚知的系クール処女ビッチお姉さんを見つける事はできたが、思い出補正でブーストされたあの清楚知的系クール処女ビッチには及ばなかったのだ。

 デコがあの袋とじを保管しているのではと期待していたが、それは叶わなかった。


『袋とじの清楚知的系クール処女ビッチ年上バブみでヤンスね?……もちろん、覚えてますよ』


『流石はデコだぜ』


 なんか増えてる気がするが、むしろそれが良い。


『よし、さっそく見せてくれよ。どこで会える?』


 デコのチョイスなら、長年探し続けたあの袋とじに匹敵するかもしれない。

 もちろん、俺は大人なので期待外れでも喜んでみせるさ。

 ……再会してみたら、デコのほうがずっと身長が伸びてた。なんて事もあるかもしれないからな。


『待ち切れないのでヤンスね?』


『そうだよ、良いだろう。あれか? デジタル版か? 流石に学校のアプリが入ったタブレットは不味いよな』


『ふふふ、そのまさかでヤンス、タブレットの画面を見るでヤンスよ』



 デコにうながされて、俺はタブレットに視線を戻す。

 いつの間にか校長が居ない。

 おや? 入学式やっと終わった?

 それなら、デコが何を送ってきたのか確認しようと、タブレットのホームボタンに指を伸ばしたそのとき。


「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。鳥二(とりふた)()()()()()()、生徒会長の志村ハルカです」


 俺の心臓が跳ね上がった!!

 凄い美人が画面に現れたのだ。

 俺が着ている共学校の制服とは違う、ワンピース型の制服。

 連理(れんり)女学院高等学校、通称「連女(れんじょ)」の制服である。

 生徒会長さん? すごい美人の先輩だ、いやそれよりも、この人はまるで……


『デコ、デコ、デコ! すまないデコ! まだ俺の入学式は終わってなかったようだ』


『いかがでヤンスか?』


『……清楚知的系クール美人だ』


『清楚系知的クール処女ビッチでヤンスよ』


 なるほど、デコが俺に見せたかったのはこの美人生徒会長さんか。

 って、いやいや! 後半のビッチは判断のしようが無いだろう!?


「まん延防止のため、私たち学生の生活も大きく変わりました」


 あぁ、理想の清楚系知的クール美人は声も美しい。


 女子校の生徒会長さんかぁ。

 え? 俺? 100パー男ですが?



 まん延防止の最中、電車通学が欠かせないこの鳥二(とりふた)町のベッドタウン。

 スクールライフを諦めかけていたとき、校舎の共用を申し出てくれた学校があった。

 ベッドタウンから徒歩で通えるその学び舎の名は「私立連理女学院高等学校」

 大きな連理の木、二本の木が途中でくっつく変な木が特徴の女子校だ。

 校風である『生涯のパートナーを見つけてほしい』と申し出たのだ。

 あれ? 女子校で生涯のパートナー?


 これにより鳥二(とりふた)町ベッドタウンに住む高校生は、本来の所属高校に関係なくこの連女に通学する事になったのだ。

 ありがとう連女の偉い人! これで俺のバラ色の青春が失われずに済む。

 ベッドタウンに感染者が出るまで限定の青春ではあるが。



 話を戻そう。

 その、生徒会長さんであるが、時折カメラから視線を外す。

 手元に原稿があるのだろう。

 ただ、一瞬だけ視線を落としはするがすぐに画面ごしにこちらを見つめてくる。

 校長と比べると断然好印象だ。


『年上のお姉さんで、バブみのおまけ付きでヤンス』


 俺は興奮しながら返信する。

 興奮しすぎてフリックが荒ぶるくらいだ。


『すごいよデコ、この人は俺が長年探し求めていた清楚知的系クール処女ビッチだ』


『それほどでも。もっと褒めてくれても良いでヤンスよ』


『どれだけでも褒めてやるデコ! お前は最高だ!』


 挨拶を続ける生徒会長さんが、少しだけ笑った。

 クールビューティーの微笑みとかやばいな、破壊力抜群だ。


『いやまて、よく考えたら生徒会長さんが俺の理想なのは、別にデコの手柄ではないぞ。たまたま先輩に清楚知的系クール美人が居ただけじゃないか』


 画面の中の生徒会長さんが少し眉をひそめる。

 何かご不満なのだろうか?

 そんな表情も魅力的だ。


 ところで、さっきから生徒会長さんの手元を見る頻度が上がっている気がする。


『はぁ? そんな事ないでヤンスよ! デコはすっごい努力したでヤンス!』


 いや、デコよ。お前がどんな努力をしたら生徒会長に関係するというのか?

 お前は生徒会長の親か何かか?


『はいはい。そういう事にしておいてやるよ』


 しかし、次のメッセージに、俺は驚愕した。


『おやぶん、信用して居ないっスね。この女はおやぶんに献上するため、既においらが処女ビッチに調教してあるっすよ』


 調教!?

 これはまた、すごい設定盛ってきたな。

 デコは見栄とか張らないタイプだと思ってた。

 そうか、高校生にもなれば変わるもんなんだな。


『へー、それは凄いねー、感動したー』


『むきぃ! おやぶんなにかこの女に命令して欲しいでヤンス」


 なんだ? 随分とこのネタで引っ張るな。

 まぁ、乗るけどね。


『よし、そうだな……鼻を触らせてみろ』


 新入生歓迎の挨拶中。こんな美人がそんな仕草はしないだろう。

 しかも、クールビューティーだ。

 ところが……


『どうでヤンス?』


 生徒会長さんは軽くだったが鼻に触れたのだ。

 おいおい、マジかよ。どんな仕掛けだ?


『鼻にさわるくらいは偶然でもあるさ。じゃぁ、ウインクさせてみろ』


『わかったでヤンス』


 やった。

 間違いなくウインクしたぞ。

 なんか、話の流れを変えて生徒会のボランティアに参加してねって流れからウインクをした。

 多少強引だが、それほど違和感は無かったと思う。


『どやー、次は逆立ちでもさせやしょうか?』


『待て待て、どんなトリックかは知らないが。それは生徒会長さんが気の毒だ』


『調教済みの雌豚でヤンスよ、おやぶんが命じれば喜んでやるでヤンス』


 俺は今起きている事を理解しようと考える。


『ドッキリだろ? そうだろ?』


 デコが、この美人生徒会長さんを調教してるだって!?

 そんなことが信じられるわけ無いだろ!


『まぁまぁおやぶん。その話はまた改めていたしやしょう。生徒会長のスピーチも終わったようでヤンス』


 タブレットに視線を戻せば、もう入学式の配信は終わっていた。


『ではおやぶん。後日、志村生徒会長と引き合わせしますので。楽しみにしていてください』


『おい、デコ。まてまだ聞きたいことがある』


 しかし、そこからは既読もつかなくなってしまった。



 放送室。

 無事に挨拶を終えた彼女は、ようやく緊張を解いた。

 深緑のワンピースに丈の短いボレロジャケット。

 地元で有名なお嬢様学校、連女の制服に身を包んだ、ロングヘアの女生徒。


「志村生徒会長。おつかれさまでした」


 素晴らしい挨拶でしたと、放送部員たちが称賛の言葉をかけてくる。

 その目には薄っすらと涙すら浮かんでいた。


「ありがとう。みんなのお陰よ」


 微笑みで返せば、放送部の少女たちはうっとりと彼女を見つめた。

 自他共に認める才色兼備。

 ここまで仕上げるのには、それなりに努力もした。

 臨時生徒会長、志村春花。


 微笑みで部員たちを労っていたものの、挨拶の間に起きたことを思いだすと、興奮が押し隠せなくなりそうだった。

 いやいや、クール系はこの程度で微笑みを崩したりはしない。

 小さく咳払いをするふりをして口元を隠した。

 

「ぐふぅ」


 もれた。

 この美人生徒会長が「ぐふぅ」などと下品な笑い方をするはずがない。

 放送部員たちは志村が咳き込んだと思い心配をする。


「ごめんなさい。それでは私は失礼するわ」


 賛美の言葉を背に、生徒会長志村は放送室を後にする。

 まん延防止中の校内、廊下にはまだ誰も居なかった。

 それだけではない。

 町の外に住む生徒は登校していない。その大半がリモートでの授業だ。

 鳥二(とりふた)町に住む他校の生徒を加えても、本来の生徒数の半数といったところだ。


 誰も居ない廊下でそっと手元のスマホを眺める。

 才色兼備の生徒会長。

 全校生徒、さらに教員に来賓が注視する挨拶中に、アドリブでウインクまでしてみせたのだ。

 挨拶の内容くらいは、とうぜん原稿など読まずとも完璧に覚えている。

 スマホの画面を見直すと、にやりと隠しきれない笑みがこぼれた。


「ふふふ、おやぶん。ほんとうに楽しみで()()


 これでは折角築き上げたクールビューティーのイメージが台無しになる。

 笑みを堪えきれない生徒会長は保健室に向かうことにした。

 保険医は感染予防で巡回中、いまなら誰も居ないはずだ。


 これは、とあるちょっと歪んだ親分と()()()()の物語。


続いた

ブックマークと評価をしない奴には、袋とじを送りつけるでヤンス!

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