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27食

 あんなことがあった後の城からの帰り道は、私もギルバートもへろへろだった。

 それでも、レオが一歩先をスタスタ歩くのに頑張ってついて行こうと、私がギルバートの怪我をしていない方の手を引いて歩く。ギルバートは大人しく手を握り返してきて、大人しく私の隣を歩いた。そして、俯きながら小さな声でポツリと言った。


「2人とも……ごめん」

「何に謝ってるのよ」

「ギルバート・ドライスタクラートに謝罪される理由はない」


 私たちの言葉に、がばっとギルバートが顔を上げる。その整った顔は泣きそうに歪んでいて、恐ろしく残念だった。


「だって!! 2人とも立場が!! しかもイザベルは怪我させたし!! レオは親父さんに向かって剣を抜かせたんだぞ!?」


 やっぱり騒がしくなってきたギルバートの手を、ぎゅと握る。少し大人しくなった。


「別に、鼻血ぐらい出るわよ。人間だもの」

「ウィリアム・アインツェーデルと剣を交えたのは初めてでは無い」

「でも、俺のせいで!」

「うっさいわね。私もレオも、自分で決めて城に行ったのよ。あんたの為じゃないわ」

「私に店番は不可能だったと、イザベルに伝えに向かった」

「2人とも……!!」


 感動的な空気になったが、ちょっと待て。


「れ、レオ。店番が不可能だったって……」

「皿が全て割れた」


 思わず天を仰いだ。隣でギルバートがあわあわと慌て出す。レオはビシッと腰を折った。


「謝罪する、イザベル」

「いいのよ……私が頼んだんだもの」


 新調したばかりの皿ぐらいでどうこう言うな、私。さっきレオが助けてくれなければ私は首をはねられて死んでいたし、ギルバートもここにはいなかっただろう。そしてドライスタクラートはクーデターを起こし最悪の結末だったに違いない。皿など何枚割られようが帳消しになる働きだ。


「レオ、しばらくは毎日あんたの食べたいものをおやつにリクエストしていいわよ。ギルバートがつくるから」

「おやつをリクエスト」


 作るの俺かよ、などとまた騒ぐかな、と見ていたギルバートは黙って俯いていた。騒がしくするのかしないのか、ハッキリしなさいあほバート。

 また、ぽつりと小さな声が落ちる。


「……2人とも、これからどうするんだ?」

「どうするも何も今まで通りよ。私は店主だもの」

「おやつが食べたい」

「……そうか」


 下ばかり見て、こちらを見ないギルバート。

 それに、無性にイライラしてきた。


「レオ、ちょっと目瞑ってなさい」

「承知した」


 繋いでいた手を離して、下ばかり見ているギルバート頬を、ぎゅむ、と挟んで上げさせた。驚いたような銀の瞳に、真っ赤な私が写った。

 髪も瞳も、顔もつむじも真っ赤な、私が。


「ギルバート! よく聞きなさい!」

「え、イザベル、え?」

「あんたは知らないでしょうけど! 私、あんたの未来を見たの! あんたが殺される未来を見たの! 0歳の時に見たから、人生ずっとあんたのこと考えてたの!」

「え……本当に、イザベルも?」

「ええ。私、前はイトシゴで、今も未来が大嫌いなの。 だから、変えてやることにしたのよ。……あんたは絶対死なせない。私のために、あんたは死なせないの」


 ギルバートの目がゆらゆらと揺れる。眉が八の字に寄せられ、形の良い唇がへの字に曲がる。いつもの残念な顔はいいけれど、そんな面白く表情は二度とするんじゃないわよあバート。


「ごめん、イザベル……そんな、そんな未来見せて。ずっと、ずっと嫌な思いさせた」

「あほバート! 違うわ! 私が未来が嫌いになったのは!」


 私が見た未来は4つ。

 1つは3歳の誕生日パーティの未来。

 2つ目はお嬢様学校の制服で家族とお茶を飲む未来。

 3つ目は、ギルバートが殺される未来。


 そして、4つ目は。


「私、好きってことは自分から言うわ!」

「……は、」


 あんなに、あんなに愛おしそうな顔で。

 私の頬に手をやって、暖かそうな光を髪に透かして。

 アイシテル、未来で私にそう言って、私を遺して勝手に殺されるどっかのあほのせいで、私は未来が嫌いになったのだ。


「え、ま、待って、待ってイザベル、え?」

「だから、いい、よく聞きなさい。ふう、言うわよ、今から言うわよ、私、言うわよ」


 未来が嫌いだ。

 だから、変えてやる。嫌いなものに良いようにされるなんて、嫌いなものに負けて何も出来ないなんて、絶対許せない。


 未来であほバートから言ったアイシテル、今は私から言ってやる。


「待ってイザベル! 待って! 俺が言う! 俺から言うから! 俺も見たんだ!! イザベルから言ってもらう未来、見たんだ!!」

「黙って聞きなさいあほバート! いい、私はあんたのこと!!」

「ああああ!! 待ってえぇぇ!!」


 真っ赤になったギルバートが、慌てて叫ぶ。

 それを無視して、息を吸った。


「ギルバート! 私、あなたをっっ!!」


 がぶ、と。

 口を、何か暖かいものが覆った。目の前には銀色ばかりが広がって、背中には大きな手が回って。


「……なあ、ソレ、また今度、仕切り直さないか?」


 唇を離したギルバートが、私の顔の目の前で頬を桃色に染めて、私の真っ赤な顔を瞳に写して、とびっきり残念な表情で、そう言った。


「あ、あ、あほ、あほバート……!!」


 おかしくなった私の喉からは変な声しか出なかったし、殴ろうと握りしめた拳は、ただ無意味に震えただけだった。


「なあ、イザベル。これから俺のせいで色々ゴタゴタすると思うけど」


 いつの間にか目を開けて寄ってきていたレオが、震える私の拳にハンカチを握らせた。それからスタスタと店の方へ歩き出す。

 一方私の手を取ったギルバートは、整った顔を残念に歪めて、本当に、本当に嬉しそうに歪めて。


「未来も一緒にいてくれるか?」


 嫌いなものが3つある。

 それから、好きなものも3つある。


「……その未来は、変えたら許さないわよ」

「うん。イザベルに許されないのは嫌だから、変えない」


 私の好きなもの。

 まず、人間。一緒にご飯を食べてくれる人。

 2つ目は満腹。好きな人とお腹いっぱい食べること。


「これからも一緒に。ご飯、食べましょう?」


 そして3つ目が、『未来』だ。







【完食】


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― 新着の感想 ―
[良い点] あ、最後の未来はギルバートに告白される未来だったんですね。確かに、ほぼ百パー関係ないだろうな。 [一言] ふぅ……終わった。 怒涛の展開だったなぁ……。 まさか、割とどうしようもなくなって…
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