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夢のカフェを開いたものの、店はJKたちのたまり場になるようです  作者: 春野 安芸
第2章

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067.幕間1.5


「総ちゃんだっけ…………遊んでくれた子は。今日も居ないわねぇ…………」


 上からする声に見上げれば、私と手をつないだママが辺りを見渡しながら呟いている。

 見渡した先は誰も居ない空間。ポッカリとあいた空間に、ただただ木々や茂みなどが囲まれている。


「本当に約束したのかしら……もしかしたら忘れてるってことも――――」

「そんなこと…………ないもん…………」


 その言葉に私は繋がれた手を固く握りしめる。


 そう、そんなことはない。そんなはずはない。

 あの時ちゃんと、私と約束してくれたのだ。

 お盆が終わったらまた遊んでくれるって。だから、そんなことは絶対に……ない。


「でも居ないものは仕方ないわねぇ。 今日もママと一緒に遊ぼっか」

「…………うん」


 優しく微笑みかけるママに私は暗い気持ちを押し殺しながら小さく頷く。

 ママはそんな私を励まそうと、「それぇっ!」と声を上げながら、私を勢いよく抱っこし、公園へと走り出していった。





 そんな日々が、長く、長く続いた。


 あれから私は毎日のように家から少し離れた公園へと足を運び、毎日のように彼の姿がないとわかるや落胆する。

 毎日、毎日、毎日、毎日。


 それをずっと、幼い私にとって長い期間それを繰り返し続けてきた。

 夏が終わり、涼しい秋がやってきて、寒い寒い冬を迎える。

 けれど一向に、あの公園へと彼がやって来ることはなかった。


 私は、あの迷子になった日を境に変わってしまった。

 あれからずっと彼に執着し、あの公園へと毎日通うようになってこれまで以上に内向的になってしまったのだ。

 友達と放課後遊ぶようなことはなく、一日が終われば彼の姿を探しに。それをもはやルーチンワークになるほどまでに繰り返し続けてきた。


 一方で悪いことばかりでもない。

 あの日を境にママは仕事を変え、私との時間を作りやすいような仕事へと転職した。

 週一で遊んでいた公園があの公園へと変わり、ママにとっては毎日の散歩代わりと言わんばかりの様子で私のわがままに付き合ってくれたのだ。


 ちなみに私が迷子になった公園。

 あの後すぐにわかったことだが、家からそんなに離れていなかったらしい。

 片道10分もかからない。ただ普段使う道とは違い、方角も真逆なものだから私が迷子になるのも仕方なかったようだ。







 彼に会いたい……でも会えない。ずっと諦めきれぬ気持ちを抱えたまま、11年の時が過ぎた。

 当時幼稚園児だった私も気づけば高校に上がり、大きな怪我や病気などもなく健やかに成長した。


 高校生活を送るのは中学から通う、心月高校。

 ここらにはあまりない女子校で、なおかつママの母校だ。


 私はずっとあの日から、心に彩りが加わったと同時に、ポッカリとした虚無感が胸の内をくすぶっていた。

 仕事の忙しかったママと、それを家で待つ私。そんな日常をいともたやすく変えてみせた、あの人との楽しい時間。

 まさに夢のようだった。それからは環境も変わって私も自分を少しづつ出すようになったし、真っ白の心に彩りを加えられた気分だった。


 しかし果たされなかった約束。何度行っても二度と会うことのできなかった彼に、私は心に大きな穴が空いたのを感じ続けていた。



 それでも日々というのは過ぎ去っていく。

 心月高校は、大学進学率の高い進学校。

 生徒に様々な道を示すことを重視しているから、高校1年の段階で授業での大学見学やオープンキャンパスに行くことを是とされている。

 私も、そんな風土に従って高校に入学して最初の夏前には大学を訪問するようになっていた。



 そんなある日のことだった。

 私はいつものように支度をして大学のサイトを見る。

 そこには今日予定していたオープンキャンパスの特設ぺージが大きく画面を彩っていた。

 様々な言葉で美句麗句を並べ立て、楽しそうに装っている先輩方の笑顔が所狭しと並んでいる。


 正直なところ、今の私にはそこまで楽しめる気にはなれなかった。

 こんな気分はこの11年間、ずっとのこと。

 何をするにも俯瞰で見る自分がいて、心の底から楽しめない感覚。

 だから私には友達がいないのだろう。そう自分で決めつけて、私は自嘲するようにほんの少しだけ口を歪ませる。


 今日訪問する大学は、可もなく不可もない、至って平均的な大学だった。

 ほんの少しだけ理数が強いらしいのだが、これといった特徴もない普通の大学。

 ただ選択肢を増やすために行くだけだ。私はいつものように荷物を持って家を出ていく。



 たどり着いた大学は、やはりいつものように見学者を迎える声で活気づいていた。

 きっとその内にはそれぞれ様々な思惑があるのだろう。私はいつものように受付を済ませ、大学内を見て回る。

 目標がない私にとってあまり大学には興味はないのだが、それでも図書館だけは絶対に見ることにしていた。


 本はいい。

 静かな空間で1人、様々な知識に触れられる。

 たとえ静かでなくでもひとたび本の世界に入り込んでしまえば同じこと。

 私は大学に、図書館だけを求めて足を運んでいた。


 さて、今回の図書館はどんな感じかなぁ――――


「きゃっ!!」

「あっ、ごめん!」


 私は今回の魅惑の地はどんな感じかと、意気揚々といった気持ちで扉を開けた途端、向かい側から何者かが出てくるのに驚いて思わず声を上げてしまう。

 幸いぶつかりはしなかったものの、相手は何やら急いでいる様子で私に謝りつつも視線はチラチラと前ばかり気にしている。


「大丈夫?怪我してない?」

「は……はい……大丈夫です……」


 少しよろめきかけたものの何ともない。むしろ相手の人は何やら急いでいるようだ。私は入りかけていた身体を避けて道を譲る。


「ど、どうぞ……」

「ホントごめんね! …………まったく、何が『総ならできる』よ。優佳は無茶な課題を押し付けて…………」

「ぇっ…………」


 小さく呟きながら外に出る声に思わず顔を上げて、今まで見てもいなかった相手の顔をその目に捉える。


 ――――それは、私がこれまでずっと追い求めていた、彼の姿だった。

 多少……ううん、随分と成長しているが私の目に間違いはない。彼…………総さんだ。

 そんな彼は驚く私に気づくことなく早足にその場を後にしていく。



 それが、私と彼との11年ぶりの再会だった。

 もう向こうはすっかり忘れているかもしれない。けれど毎日会いたくてたまらなかった、愛しの彼。

 そう認識した瞬間、私のポッカリと空いた心に突然何かが埋まっていくような感覚を覚えた。

 何が埋まっているのか…………そう、愛だ。愛しかない。私はあの公園で彼に一目惚れし、そして今日、再び一目惚れしたのだ。





 それからの私は、機会があればその大学に足繁く通うようになった。

 向こうに行くたび探す彼の姿。

 残念ながらなかなか見つけることができなかったものの、見つけた時には積極的にそのあとを追い、今何しているかをずっと伺ってきた。


 そうしてふと聞こえて来た会話の中で知る、喫茶店の開業計画。

 まさか大学に通いながら喫茶店も経営するなんてと驚きもしたが、愛しの彼ならきっとできるだろう。

 私は彼に悟られないように情報収集し、時には大学外でもその後ろ姿を追っていき、ついには店の場所と開店日時を入手することができた。



 そこで私はとある計画を思いつく。

 きっと彼は私の事を忘れているだろう。約束が果たされなかった時点でそれは明白だ。

 ならどうやって近づくか…………そうだ。アルバイトの希望者になろう。

 幸い開くらしい喫茶店は彼1人で運営する。そこで無理を通すことになるが、もし入れれはずっと彼と2人きりの時間を過ごすことができる。


 これなら問題なく彼とともに仕事をし、次第に愛を育むことができるはず。

 私は頑張ってママの許可を得、学校の届け出を出した。

 これで後は開店の日を待つだけ。私はそれから毎日眠れぬ日々を過ごすこととなる。




「ふぅ……………」


 それから数日。

 私は喫茶店の開店の日に、件の店の前へとやってきていた。

 片手には履歴書が入ったバッグ。後は彼に見せて雇ってもらうだけ。

 でももし雇ってもらえなければ…………いや、そんな事考えちゃダメだ。これからの日々のため、私はもう頑張るしかない。



「…………よしっ!!」


 春の陽気が涼しいこの季節、私はグッと力を込めて扉を開いてく。

 果たされなかったあの日の約束を、この春、再度果たしに行こうじゃないか。

 私はこれまで何度も脳内でシミュレーションしてきた内容を思い出しながら彼に向かって声をかける。


「あのっ……私を……私をここで雇ってくださいっ!!!!」


 その先に輝かしい未来があることを信じながら――――

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― 新着の感想 ―
[一言] レミミン…拗らせっ娘だったか…(笑) …重いね!(笑)
[一言] 普通にストーカー案件じゃんw まぁ美男美女は除かれるけども
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