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夢のカフェを開いたものの、店はJKたちのたまり場になるようです  作者: 春野 安芸
第2章

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043.自然体

「お騒がせして……すみません…………」


 いつもの場所にてテーブルを囲んだ奈々未ちゃんが申し訳無さそうな顔をする。


 それは考えていた事の頓挫。始まる前から始めることのできない無情な通達。


 彼女はアイドルとして働いているといえどもまだ中学生。その年齢はアルバイトとして働くことのできないものだ。

 郵便局など、ある程度の場所ではできるらしいのだが、少なくともこの店では無理だ。そんな届け出なんて出していない。


 俺も年齢の問題なんてすっかり失念していた。

 奈々未ちゃんって落ち着いているからか大人びて見えるし、特殊な業界とはいえ働いているからつい……。


「ううんっ!アタシこそごめんねナミルン!早とちりしちゃって!!」

「いえっ……ありがとう……ございます。 嬉し……かったです」


 感情豊かでついつい暴走しがちな遥。それでも素直に謝れることができるのは凄い長所だ。


 ちなみに奈々未だから『ナナミン』じゃないのかと聞くと、『レミミン』と被るから今の呼び方にしたらしい。案外考えてるんだな。


「奈々未ちゃん。おじいさんとおばあさんと話はしたの?」

「いえっ……全然……。一人で考えていたことだ……ので……」


 灯が敬語じゃないとこなんて初めて見たが、そうか年下か。


 なるほど、やはり相談していなかったか。

 何も考えず了承しなくてよかった。していたら更に面倒なことになっていただろう。


「ならまず話さないとね。それから働くとしても……来年度になってから……になるんですか?マスター」

「そうだな。 その時まで考えが変わってなければだけど……」


 ふと聞いてくる灯の言葉に同意する。

 まだ来年度まで半年以上。学生換算ではまだ1学期が終わったばかりだ。

 それだけの時間があれば考えの変化など起こりうることだろう。


 それでも考えが変わらなければ…………許可が得られれば、かな?


「もし働くことになったら……お願いします。 えっと…………お名前は……」

「俺?俺は大――――」

「マスターです」

「…………えっ?」

「この方ですよね? マスターです」


 え、またこのパターン?


 いつかの時と同じ、伶実ちゃんによる名乗りキャンセル。

 別に名前で呼んでほしいってわけじゃないんだけどね。でもなぜここまでブロックするのだろう。


「あっ! アタシ知ってるよ!ママが言ってた!大牧……大牧……なんだっけ?」

「ちょっ……!遥さん…………!」

「大牧 総だ。今更名前で呼ばれても違和感しかないけどな」


 もはや最近、名字を含めて名前で呼んでくれる人なんて遥の母親か、ウチの親か、アイツくらいしか無くなった。

 むしろ彼女らにはマスターで呼ばれたほうが馴染みがある。


「じゃあ……マスターさんで。えっと、お願い……します」

「……おう」

「ほっ……」


 ペコリとこちらにお辞儀をする姿を見て思わず詰まってしまう。

 真っ白な髪から覗かせる蒼色の瞳。その見た目からさることながら、アイドルとしてのオーラというのだろうか。

 プライベートモードでオドオドとしていても、そのオーラは未だ健在。改まってこちらをまっすぐ見つめられると、思わずたじろんでしまう。


 あと伶実ちゃん、ホッとしたような顔をしてどうしたの?



「ねぇ奈々未ちゃん。思ったんだけど……話し方無理してない?」

「えっ……?」


 ふと、ジーッと奈々未ちゃんを見ていた灯が、思いついたように小さく呟く。

 問いかけられた彼女も心当たりが無いようだ。伶実ちゃん遥と同様に頭に疑問符が浮かんでいる。


「なんだかクラスの秋穂さんみたいな違和感が……」

「違和感?」

「はい。喋りをすごくを無理してる感じで」


 ……秋穂さんというのは覚えがある。秋日和の一人で、真っ先に灯へ話しかけてきた子だ。

 確かに彼女はお嬢様口調で、階段で陰口を来た時と言い方がかなり違っていた。そこに違和感を覚えたのだろうか。


「灯さん、もしかして……奈々未さんは敬語が苦手なんじゃないでしょうか。仕事外じゃ年上と接する機会は少なさそうですし」

「そう?奈々未ちゃん」

「仕事じゃいつも……おじいちゃんが立ってくれて……ますが……。どう、でしょう……わかりません……」


 伶実ちゃんの予想にもイマイチピンと来ていない様子。

 俺も全然わかんない。


「ナミルン、おじいさんやおばあさんと話してる時はすっごい自然体だったもんね!敬語なんて気にしなくていいよっ!ねっ!?」

「そうですね。敬語の無い形がいいと思います。 もちろん、奈々未さんの楽な方でいいんですよ?」


 遥の提案に同調する形で口を開いた伶実ちゃんに続いて俺と灯も頷く。

 学校行ってないもんなぁ…………仕事でないならもう話す機会なんて本当に限られてくる。


「レミミンもそうしてもらっていいんだよ?」

「いえ、私はこのほうが言いやすいので」

「わっ、私もっ!遥先輩はもちろん、伶実先輩も尊敬してますのでっ!!」


 どうやら伶実ちゃんも灯も、敬語が自然体みたいだ。

 そういえば伶実ちゃんの敬語ナシって聞いたことないな。ちょっと気になるかも。


「じゃあ……その…………わかっ……た」

「うんっ! いつかおじいちゃんやおばあさんみたいに、自然体になれるといいねっ!」

「うん……ガンバ……る……ね?」


 奈々未ちゃんの正面でニッコリと微笑む遥につられるよう、奈々未ちゃんもフッとその表情を柔らかくさせる。

 笑みというより微笑に近い、薄く微笑むだけのもの。しかしそれが逆に彼女の神秘性を高めているようで―――――


「~~~~!! やっぱり可愛いよ~!ナミルン大好き!! ファンとしても友達としても応援してるからねっ!!」

「わっ……! ありがと……遥」


 突然に。

 突然奈々未ちゃんの微笑を見た遥が、バッと手を大きく広げてその体躯を思い切り抱きしめた。

 いきなりの包容を受けた奈々未ちゃんは一瞬目をパチクリさせたものの、すぐにギュッとする遥を受け入れて彼女の背中に手を回す。


「は……遥先輩っ! 私も遥先輩のことが大好きですからねっ!!」


 しかし、更にそれを看過できなかったのか、灯も慌てたように遥を背中側から抱きしめてなんとも言えない図に……。

 灯……ホント、遥のこと好きだね。


「…………? 伶実ちゃん?」


 そんな3人娘の様子を眺めていると、ふと隣に寄ってくる伶実ちゃんが。

 彼女はピタッと俺の腕に肩を触れさせるほどの距離で、何も言うわけでもなく近寄ってきた。


「マスターが少し寂しそうな顔をしてましたので。 ……なんでしたら私が抱きしめましょうか?……兄さん?」

「――――っ!! ほ……ほらっ!遥が呼んでるぞ!混ざらないのかって!」

「あら。 それでは私も行ってきますね。……ふふっ」


 いつも以上に妖艶な笑みを向けてくる妹モードの伶実ちゃんを、俺はタイミングよく呼んでくれていた遥の元へと向かわせる。

 そして彼女の混ざって4人で抱きしめあっている少女たち。


 …………やっぱり、妹モードは反則だよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 妹モードって言うより『正妻の座は渡しませんよ?』ってマウントに見えた!(笑)
[一言] >アイツくらいしか無くなった。 とても気になるこのワード。
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