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037.ナナ


 ナナ――――


 性別は女性、本名は未公開。

 年は15歳の中3で、体型は灯より小さく、痩せ型。

 運動は得意ではなく趣味は読書、それも3度の飯より読書が好きな程。


 経歴はネットで一部界隈が話題になるところから始まり、それを嗅ぎつけたネットメディアやテレビが取り上げてたちまち有名になったらしい。

 その実力は人目を惹く淡麗な容姿なのはもちろん、透き通るような歌声が聴く者すべてを魅了させ、どんな都会の喧騒真っ只中でも、一瞬で心地よい空間に誘われる程。

 バラード調の曲が多く、いつだって憂いの表情を浮かべている、ちょっと変わったアイドルだ。


 そんな、またたく間に有名になった彼女が先日、初ながらも大きな会場を貸し切ってライブを行うとそれはもう大盛況。

 チケットの倍率も相当なもので、かなりの争奪戦だったらしい。

 メディアも当然大々的にライブのことを取り上げ、噂が噂を呼んでブーストにブーストがかかった彼女は、一気に超人気アイドルへと駆け上ったのだ。

 


 そして最後に特筆すべきはその容姿。

 人目を惹くほどの美しい容姿なのは先述したが、付け加えるなら日本人離れしているものの、日本人受けは間違いない整った容姿。

 風の噂レベルではハーフかクォーターとのこと。


 そして他にはない特徴として、彼女は白いのだ。

 肌はもちろん、その髪の毛まで真っ白だ。

 少しの色味も無い、淀みない白髪。そして瞳の色は蒼色。


 どうやら彼女はアルビノという、生まれ持って色素が少ない体質らしい。

 光に弱く、人によっては視力にまで影響を及ぼす者も居るだとか。

 彼女がそれについてどれだけの悩みを持っているのかわからないが、少なくとも自らの足で歩いている以上、全く見えないというわけではない。


 

 ――――と、ここまではネットで調べて判明したこと。

 どうやら本当に人気があるらしく、【ナナ】と検索するだけでトップに来るほどだから驚いた。ついでに俺の疎さにも絶望した。




 ざっと調べ終わった俺はスマホを置いて辺りを見渡す。

 カウンター近くには、タブレットで待ちかねていたライブを視聴することを忘れ、反対側を見つめている3人の少女たちが。

 そして視線の先……店の中央を通り過ぎてもう少し奥へいった、以前遥を寝かしたソファーが置いてある席には、2人の老夫婦と1人の少女がデザートやコーヒーを堪能していた。


 その少女こそ、さっきまで調べていたナナにほかならない。

 さっき聞こえてきた声、そして滅多にいない白さとその容姿は間違いない。

 おそらく店に来た時に身を包んでいた黒い服は、身バレを防ぐとともに彼女の肌を守る役割があるのだろう。

 しかしここは店内、おじいさんにたしなめられた事もあってか、その服一式は綺麗に折りたたまれて少女の隣に置かれている。


「ななみや、このチーズケーキ美味しいよ。食べてみなさい」

「ななみ、パフェもなかなかだよ。さ、お食べ」


 ふと3人と同じように遠巻きに様子を伺っていると、穏やかな老夫婦の声が聞こえてくる。

 ななみ…………それは少女の名前だろうか。


 呼ばれたであろう少女は、自ら口にしていたブラックのコーヒーをテーブルに置いて困ったような笑みを浮かべる。


「おじいちゃんにおばあちゃん……嬉しいけど、私そういうの制限されてるから……ね?」

「大事な孫の喜ぶ顔に比べたら制限なんて大したこと無いよ。ほらお食べ。あ~ん」

「もうっ……仕方ないなぁ……。 あ~ん……んっ、美味しい」

「でしょう?思わぬ見つけものだわねぇ」


 少女は困ったように眉をひそめながらも、心から嬉しそうな表情を浮かべていた。

 少なくとも、ネットで見たような憂いの表情なんてどこにもない、心から楽しそうな様子だ。


「ねぇねぇ マスター」


 ふと、そんな心洗われるハートフルな様子を見ていると、遥が小声で話しかけて来ていることに気がつく。

 彼女は忍んでいるように腰を曲げ、忍者のように足音なく近づくと俺の服を何度か引っ張ってきていた。


「サインとか……貰っていっちゃダメかな?どう思う?」

「ダメですよ遥さん!今はプライベートでしょうし、団らんの時なんですからっ!」


 遥の小声は向こうには聞こえていたようで、伶実ちゃんが声を潜めながら告げてくる。

 そうだなぁ……サインは難しい……かもしれないな。


「でも、私も驚きました……。まさか、私達以外のお客さんがこの店に来てくれるだなんて……」


 灯、小声でもしっかり俺には聞こえてるからね。

 一応何人か来てくれてるから!数えるほどだけど!!


「マスターさん、マスターさん、ちょっと良いですか?」

「あ、はい! ただいま!!」


 ふと気づけば、離れた位置に座るおばあさんが俺に手招きしているのを見て慌ててテーブルまで駆け寄る。

 ザッとテーブルを見渡せば提供していたものはあらかた食べ終わっていた。そろそろ会計かな?


「お話中にごめんなさいね。追加で注文を頼みたいのだけれど…………」

「いえ、何にいたしましょう?」

「これとこれと――――。」


 会計かと思われたが、どうやら再注文のようだ。

 きっと遥たちの話声は聞こえていなかったのだろう。聞こえてたら気を悪くさせていたかもしれない。


 俺は注文を復唱し、間違いが無いことを確認する。


「お願いしますね。……あと聞こえてきてしまったのだけれど、サインが欲しいんですって?」

「えっ……いや、それは……」


 まずい。小声でもここまで聞こえてしまっていたのか。

 怒らせちゃったかな…………。


「すみません。プライベートな時間に気分を害すようなことを言って……」

「いえいえ、怒ってるわけじゃありません。 よろしければお書きしますよ。ねぇ、ななみ」

「…………はい。 いい……です……よ」


 途切れ途切れになりつつも、小さく呟くような彼女の言葉に思わず目を丸くする。

 まさか受け入れてもらえるとは。頭下げる気でいたのに。


「あの子……ですよね? ねぇねぇあなた、少しよろしくて?」

「えっ……。アタシ……ですか?」

「そうそうあなた。サインするからこっちいらっしゃい?」

「!! は……はいっ!!」


 遥も了承されるとは思っていなかったのだろう。

 まさかの言葉に身を震わせて驚いた彼女は、慌ててバッグを漁ってペンと紙を探していく。


「そこのお二人も、よければお話しません? ……それではマスターさん、注文、よろしくおねがいしますね?」

「は……はい。 ありがとうございます」

「いえいえ。お礼はこの子に。 ずっと彼女たちのことを気にしてましたから」

「お……おばあちゃん! 言わないでってばぁ……!」


 ふふふ……。と微笑むおばあさんに、慌てたような様子を見せるななみと呼ばれた少女。

 その海より深い心に感謝しつつ、俺は3人とすれ違うようにカウンターへと向かっていく。


「えっと……その……ナナさんですよね!?アイドルの! サイン……もらえませんか!?」

「ぇ……ぁ…………はい…………」


 静寂が包む室内に、小さく、本当に小さな声で返答した少女は、遥の差し出す紙とペンを受け取ってサラサラと滑らしていく。


 思いもよらぬ降って湧いた出来事に、サインを受け取った遥はもはや感涙の域。

 微笑ましい家族の団らんから、3人を加えた明るい空間へと変貌したテーブルを見つめながら、俺は自らの作業に取り掛かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 三十「七」話でナナ?w ごめんなさいつまらなかったですw ーーーーーーーーーーーーーーーー 最近のたのしみになってます これからもがんばって下さい!
[一言] 案外和やかムード。 やっぱりじいちゃんばあちゃんと一緒だからかね?
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