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031.イタズラ心


「マ…………マスターがアタシと恋人に!? なんで!?どうして!?」


 店の外にまで響きかねない絶叫を発した遥は、驚きを隠せないのを行動で表すかのように席を立って俺との距離を数歩空ける。

 その瞳はまんまるに開いていて、口はあんぐりと。そして真っ白だったその肌は、名残もないほど真っ赤になってしまっていた。

 同じく伶実ちゃんや高芝も、遥ほどではないが驚きの表情を浮かべている。


「ダメか?」

「ダメ…………!……っていうかぁ……なんというか……そーいうのはもっとこう……雰囲気を大事にしてからどちらからともなくっていうかぁ……」

「……? ってことはいいのか?」

「それはぁ……そのぅ…………」


 手を胸元まで持っていき、モジモジとしきりに動かして要領を得ない遥。

 手に加えて膝まで動かしている。さて、驚いた顔も見たことだし、そろそろ解説でも―――――


「悪いな遥。さっきの意味は――――」

「マスター!!」

「――――うぉ!? ……伶実……ちゃん?」


 緩みかけた場を更に和ませようと、ちょっとしたイタズラ心で言葉足らずに話したが、そろそろネタバラシでもと口を開いたところで、唐突に詰め寄るはさっきまで座っていた伶実ちゃん。

 彼女は突然立ち上がって俺の両肩を掴み、逃さないと言うようにギュウッと力を込めて俺を真正面から覗き込んでくる。


「さっきの…………遥さんと付き合うって本当ですか!? なんでいきなりなんです!?」

「…………あれ?」


 あれ?

 おっかしいなぁ。頭のいい伶実ちゃんと高芝のことだ。さっきの一言で俺が何を言いたいのか理解してくれると思ったんだけど。


「なんで……なんで遥さんなんです!? どうして私じゃ……私じゃダメなんですか!?」


 …………あぁ、なるほど。

 そういうことか。遥じゃ色々と不安だから自分が立候補してくれると。


 俺も正直そこが怖かったんだけどね。でもノリの良さを考えて遥にしたんだけど、伶実ちゃんがそう言ってくれるなら。


「あ、じゃあ、遥じゃなくて伶実ちゃんが俺と付き合う?」

「えぇ!?」


 軽い気持ちで対象相手を伶実ちゃんに切り替えると、今度はさっきまでモジモジしていた遥が驚いたような声を上げてくる。


「マスター! さっきまでアタシと付き合うって言ったよね!?ちょっと言われただけでもう乗り換えちゃうの!?」

「だって、遥乗り気じゃない感じだし……ねぇ。それなら乗り気の伶実ちゃんのほうが……」

「乗り気だよっ! アタシは超乗り気だよっ!!」


 ズカズカと俺と距離を詰めてきた遥は、フンスと胸を張るように腰に手を当て背中を軽く反らす。

 目の前でやられたせいで俺の視界に入るは彼女の一際大きな揺れる胸。…………伶実ちゃん、ステイ。視線がとんでもないことになってるよ。


「じゃあ……遥、やる?」

「うっ……うん……………。アタシってば初めてだから……その……リードしてくれるなら……」

「ちょっと待って下さい!」


 控えめになりながらもゆっくりと頷く彼女は俺の手を求めるように手を伸ばす。

 しかし、その間に入ってきたのは今さっきまで詰め寄っていた伶実ちゃん。彼女は俺に変わって遥の手を取り、ニッコリと彼女に向かって笑みを浮かべる。


「遥さん、一度拒否したのですしやっぱりっていうのはどうかと思いますよ?」

「アタシは驚いただけで嫌なんて一言も言ってないもん。レミミンこそ最初に言われなかったんだからアタシに譲るべきじゃないの?」

「でも遥さんってリードをお願いしましたよね? 本当にその気があるなら、初めてでも頑張ってマスターをリードするって言うべきでは?」

「ムッ……別にアタシだってそういう知識はあるもん。 お願いされたらアタシにだってできるもん……!」


 …………あれ?

 なんか流れおかしくない?リードってなに?犬?


 それに伶実ちゃんは……分かってるんだよね?俺の言ってること。


 俺は不穏過ぎる笑顔を向け合う2人に嫌な汗を流しながら、コッソリコッソリ高芝の近くへと歩いていく。


「なぁ高芝……俺の提案した意味、分かってるよな?」

「意味って、私が相談してる最中にあなたが空気読めない告白して修羅場にしたってことですか?」

「まじか……」


 さっきまで落ち込んでいた彼女も、すっかり毒気を抜かれたのか冷たい目をこちらに向けてくる。

 もしかして、俺の説明少なすぎた?頭のいい2人なら分かってくれるとおもったんだがなぁ。


「「マスター!!」」

「うぁはいっ!!」


 冷たい高芝の言葉に人知れずため息を付いていると、突然今まで睨み合っていた両者が同時にこちらに呼びかける。

 変な声になったが、それを指摘する余裕もないほど俺は背筋を伸ばして彼女らの次の言葉を待つ。


「マスターはアタシと付き合うんだよねっ!?」

「いえっ! 私ですよね!?マスター!」

「えっとね…………2人とも落ち着いて聞いてほしいんだけど…………」


 二人して詰め寄ってくるさまにたじろぎながらも、俺は笑顔を取り繕って両者の肩に手を乗せる。

 乗せた瞬間驚くようにビクンと肩を震わせたが、指摘することもなく言葉を続けた。


「恋人になるっていうのはいわゆる一時的……というか演技で、それを利用して高芝にはクラスに溶け込んでほしいっていう計画なんだけど…………」

「「…………はい?」」



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



「つまり、今日の一件で私と先輩が二股掛けられてたことが発覚し、破局。その後みんなの同情を買おうって計画ですか?」


 あれから俺は、混乱したり感情的になったり、色々とカオスだった空間をなんとか抑えて彼女らに事の計画を伝えた。

 色々と拙い話し方ではあったものの、さすがは頭のいい高芝。すぐにその要点を得たようだ。


「なぁ~んだ! てっきり本気でマスターがアタシたちを口説いてるかと思ったよ~!」

「ゴメンゴメン。まぁ遥は騙す気けっこうあったけど、伶実ちゃんまで気づかないとは計画外で」


 それを聞いて真っ先に明るい声を出したのは遥だった。

 彼女は頬に赤みを残しながらも、一安心といったように自らの髪を梳く。


「ちょっとマスター! アタシはそういうのがわからない子だっていうの~!?」

「すみませんマスター……。私もちょっと、驚いて視界が狭まってしまって…………」

「いや、俺こそゴメン。普通に言うべきだったね」


 ――――俺も、普通に伝えればよかった。

 緩みかけた雰囲気を緩和させようと考えたが、まさかあそこまで驚かれるなんて。

 今日一日で色々あったし、疲れてるのかな……。


 そして何やら抗議をしてくる遥についてはスルー。

 俺は恥ずかしさと申し訳無さが混じった彼女らへ頭を下げた。


「いえっ!ちょっと考えれば分かることでしたので……!はぁ……」

「? まぁ、そういうわけで2人のどちらかに計画をお願いしたいんだけど…………ダメ元だけど、良いって言ってくれる人は――――」


「私が!!」

「アタシが!!」


 謎のため息に疑問を持ちながらも、今度こそすべてを伝えた上で問いかけるとまたも2人の声がかぶってしまった。


「「ム~~!!」」


 同時にまたもにらみ合う伶実ちゃんと遥。

 結局その結論が出るまで、更に10分ほどの時間を要すのであった。

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