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夢のカフェを開いたものの、店はJKたちのたまり場になるようです  作者: 春野 安芸
第1章

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023.息子の意味とは


 心月女子高等学校。通称シンジョ。

 この辺りでは有名な、私立で偏差値の高い女子校。

 エスカレーター式で、小学校からずっと在籍する者や、中学、または高校から入ってくる者も大勢いる。

 それもあってか当然在校生徒も多く、生徒人数を数えると1000人をゆうに越えるほど。


 その、上から下まで女子のみの環境で育つことから、俺の学生時代は『箱庭』と呼ばれていた。

 ある者は女性だけになるとだらしなくなるという偏見から、教室は酷い惨状になっているだとか。またある者はその神秘性からか、まさしく聖堂のような美しさで「ごきげんよう」という言葉が飛び交うなど、様々な予想が噴出していた。


 なんにせよ最長12年の女子校暮らし、俺も気にならなかったわけではない。

 しかし身内に関係するものはおらず、その真相はベールに包まれていた。

 当時は俺も妄想をしたものだ。「上を見ても下を見ても女子、そんな中に1人体験入学で放り込まれたら~。」なんて水泡のような夢を見たこともある。

 もちろん夢は夢。妄想は妄想。そんなことは実際に起こるわけもなく、ただただ何事もなく我が校を卒業してしまった。



 そんな謎に包まれた女子校……といっても、外部から完全遮断しているわけではない。

 普通に体育祭や文化祭、体験入学など、学校行事では頻繁に外の者を呼び込んでいる。今回の授業参観だってそうだ。父兄の来訪は当然受け入れている。


 しかしセキュリティー意識も相当なもので、先述した行事のほとんどが生徒の身内に限ったものだ。

 さすがに体験入学は違うが、それでも事前申込制。だからこそ身内にシンジョの生徒が居ない俺や、同じく関わりのない元クラスメイトたちの会話からは何も実のある情報は得られなかったのだ。


 ただ外から見ているだけの対象だったシンジョ。それが今日、まさか実際に入れる日が来るなんて思いもしなかった。

 俺は遥の母親の協力を受け、授業参観という形だが内部に入ることができるのだ。




 確かに何故俺がこんな都合よく…………なんてことも思わなくはない。

 事実、提案された時は驚きが勝って流されるままだったが、ふと1人になって冷静になれば「何故春に知り合っただけの行きつけの店の店長を」とか「俺と彼女らの関係って、よくて友人か、アルバイトと雇い主程度なのに」など色々と頭を悩ませたが、結局は好奇心が勝ってしまった。

 だって会話で登場するほどの夢の女子校。そこを見学することができるのだ。色々思うところがあっても気になるだろう。


 だから今日は彼女らに前のめりすぎと笑われようと、来校の許される1時間目から見学する予定だったのだが――――



「なぁんでこんな時に忙しくなるかなぁ~~~!!」


 俺は1人泣き言を言いながら、学校までの道のりを全力で走っていた。




 今日――――それは最近知り合った伶実ちゃんや遥、あと高芝の通う学校の参観日だ。

 俺もそれに備えて早く寝て、朝早々と向かおうとしたその時だった。


 けたましく鳴るのはほとんどオモチャになっているスマホ。鳴らないスマホが鳴っていることに何かと思って電話を取ると、それは父さんから。

 どうも母さんが風邪でダウンしているらしく、仕事に出る父さんが戻って来るまでの看病をお願いしたいとのこと。

 そうして看病に実家の家事など諸々をこなしていると、父さんが帰ってきたのは昼になる頃。俺は入れ替わるように実家を飛び出し、学校へと全力疾走をしていた。


 実家からダッシュで駅に向かい、電車に揺られてから再度ダッシュ。

 何故こんなタイミングで都合よく忙しくなるのか。何故今日に限ってアイツ(・・・)じゃなく俺に頼むのか。

 そうして不幸を嘆きながらひたすら足を動かしていると、件の校門が見えてきた。


「はぁ……はぁ……やっと、見えてきた…………」


 長い塀を沿うように走り続け、ようやく見えてきたのは開かれた校門。そして来訪者を監視するように立つ警備員の姿も目に入ってきた。

 あとは警備員に事情を話せば……って、ん……?何かもう1人見えるような…………。


「あれっ…………遥の…………」

「……こんにちは、大牧さん。思ったよりお早いお着きですね」


 警備員に隣り合うように立っていたのは、以前会った遥の母親その人だった。

 家で会ったときよりも心なしかきらびやかな着物を身に纏い、その凛とした佇まいで俺を迎える。感じる圧や表情はあの日のままだ。

 確かに伶実ちゃんには遅れるって言った。遥が知ってもおかしくない。けれどそこから母親にまで話が行き、こうして迎えにきてくれるとは。


「はぁ……はぁ……。なん……で…………」

「以前、生徒の身内だと偽って校内に入って騒ぎになった者がおりまして。それで疑われるんじゃないかと私が迎えに来たのです」


 あっけらかんと冷静に受け答えする遥の母親。

 そんな事件があったことも驚きだが、だからといって待ってくれているとは。着いてから連絡する形でも全然よかったのに。


「それではこの子が来られたので、入らせてもらいますね。 雑談、ありがとうございました」

「いえいえ~。 ……利発そうな息子さんですね」

「――――えぇ。 自慢の娘婿(むすこ)です」


 息子?

 あぁ、俺が入るにあたってそういう設定になってるんだっけ。


 ………………大丈夫だよね?そういう設定なだけだよね?


「それじゃあ行きましょうか。 大牧さん」

「あ、はい!」


 親子の設定にも関わらず名字呼びでヒヤッとしたが、警備の人もスルーしてる感じだし俺は指摘せず校門の内側へ。

 そこはただっ広い敷地。大きな校舎が3つ並び、その周囲には小さな建物やグラウンド、テニスコートまで見える。


 確かに私立というべきか、俺が通っていた高校より豪勢に見えるが、それでもまだ学校と言える範囲内。俺は辺りを見渡して置いていかれそうになったところを慌てて彼女のもとへと駆け寄っていく。


「あ……あのっ! 待っててくださってありがとうございます」

「いえ。娘が待ちかねてましたから。 何よりあの子が休み時間の度うるさいので」

「…………すみません」


 待ちかねてくれるのは嬉しいが、何を言ってたんだろう。

 俺は先導する彼女の後ろをついていく。正面に見える大きな校舎に入り、靴を履き替え、パンフレットを受け取って階段を上がる。

 さすがに彼女は初めて来たわけじゃないのが見て取れる。動きに淀みがない。


 校舎内も、普通の学校と言えるものだった。

 休み時間なのか生徒や大人が行き交っているものの、生徒に女性しかいないことを除けば母校とそう変わらない。

 変わっていることといえばやはりトイレが女性用しかないくらいか。あとは見渡す限り特筆するものがない。

 ここが彼女たちの通う、俺が当時気になっていた学校か。なんだろ……今になって少し緊張してきた。


「……あの」

「はい?」

「あれから……娘はどうでしょう? 勉強はしてるらしいのですが、迷惑かけていませんか?」


 遥の母親は、ゆっくり階段を上がりながら背中越しに問いかけてくる。


 ――――なんだ。最初の印象は随分厳しいものと思っていたけど、ちゃんと気にかけてくれてるじゃないか。

 あの日遥が言っていた厳しいって言葉も愛から来るものなのだろう。


「いえ、むしろ店を明るくしてくれて助かってますよ」

「そうですか……。 別のお客の迷惑になってたりは……」

「大丈夫です。 めったにお客さんは来ませんので」


 だからちょっと煩くったって問題ない。だって他に客居ないんだし。

 …………なんだか自分で言ってて悲しくなってきた。確かにそう計算して作った店なんだけどね。


「そっ……そうですか……」


 流すつもりで言ったつもりだったが、少し戸惑ったような声が返ってくる。

 さすがにドン引きされちゃったか。


「遥の言っていたことは本当なんですね……」

「へ? 何か言ってましたか?」


 それは独り言だったのだろうか。

 ふと、気を抜けば聞き逃しそうなほど小さい声量だった言葉に思わず反応してしまう。微妙な声量だったし、俺に問われても問題ないものだと思いたい。


「えっ……あっ……その…………」

「……?」


 しかし俺の思いとは裏腹に、今まで淀みなく凛としていた彼女の後ろ姿が初めて揺らぎ、動揺したように言葉を濁す。

 えっ……遥ったら何言ったの……?


 彼女は後ろからでも動揺しているのが分かるほど手をしきりに動かしつつ、最終的に頬をかくようにして小さく教えてくれた。


「そのですね……『辺鄙なところにあるものだからいかがわしいお店だと間違われた』と。 その、娘は否定してたし信じたいのですが……実際のところ、どうなのですか…………?」

「なぁ……!?」


 彼女の思いもよらぬ問いかけに思わず言葉を失ってしまう。


 確かに高芝にはそう間違われてたけど!決してそういう店でも目的も無い!!


「い、いえっ!確かに場所はアレですが外観も中身も普通の喫茶店ですよっ!!」

「そう……ですか。 すみません、勘ぐりすぎました」

「こちらこそすみません…………」


 あー心臓に悪い。

 唐突に聞いてくるのもそうだけど、人の多いところでやめてよね。勘違いされちゃうじゃないか。


「……コホン。 では、その先があの子達のクラスなので」

「あ、はい。 ありがとうございます」

「私は少し職員室に行ってきますね。 ご自由に見て回ってください」


 彼女が指した指の先には一つのクラスが。


 『2-2』それが在籍するクラスなのだろう。

 俺はさっきまで来た道を引き返す彼女を見送ってから再度扉に向かい合う。反対側からは生徒や保護者が行き来していたし、入っても問題ないのだろう。そう結論づけ、一つ深呼吸をしてからかける指に力を加えた――――。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと主人公の思考がきもちわるい感じですね 誘われたからって行かないでしょ普通 21歳?でこれはちょっと…
[一言] まさかママンにすら疑われるとは、、、、おのれぇやってくれるな後輩ちゃん。さざ波がママンにまで伝播したでは無いか!マイナスポイント!
[一言] 囲い込まれてるw
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