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夢のカフェを開いたものの、店はJKたちのたまり場になるようです  作者: 春野 安芸
第4章

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135.予定違い(指導)


「な~にずっと二人してイチャコラしてるのよ」

「ひゃっ!」

「なっ!? なに!? …………ってなんだ、優佳か」


 突然。

 直ぐ側から聞こえるそんな呆れた声に、抱きしめあっている俺たちは現実に引き戻された。

 唐突な伶実ちゃんの小さな叫びに俺も釣られて声が出る。何事かと声のした方向へ視線を向けると、そこにはカウンターで優佳が呆れた顔を浮かべながら頬杖をついていた。


 びっくりしたぁ。さっきまで姿見えなかったのに、いつの間に来たんだ?


「そりゃあたった今よ。朝イチであたしが店入ったら店長とバイトの愛の巣状態で、通報しようかと迷ったくらいだわ」


 やめてっ!!

 確かに字面にすると酷いものだけど、そんな単純な関係でもないからっ!


 驚きのあまり飛び退いた伶実ちゃんも今更になって髪整えたりしてるし。もしかしたら恥ずかしさが限界突破したのかもしれない。


「どうしたの優佳? 今日豆入荷の日だっけ?」

「豆の配達はそれはもうちょっと後ね。 そりゃあ、昨日の今日なんだから総に会いにくるのは当然のことじゃない。……んしょっ」


 そう言って椅子を持ち上げた優佳は、スッと離れてくれる伶実ちゃんに代わって俺の隣へ。

 俺が座っている椅子に密着するように持ってきた椅子を置いた彼女は、そのまま何を言うわけでもなく肩を触れさせながら隣に座ってくる。


「……何よそんな呆れたような顔して」

「いや、優佳は変わらないなって。何も言わず黙って隣に居てくれるとことか」

「当然よ。なんてったって、あたしはあんたの妻なんだからね」


 優佳が俺の妻だの恋人だの言い張って何年経っただろうか。

 少なくとも学生時代から。あの双子相手には平気な顔で言っていたのは記憶に新しい。

 でも言葉だけで行動に移してくるのは最近までなかったから、こうして隣に寄ってくるのは未だに新鮮だ。


 でも、まさかなぁ……。


「まさか本当に、それが現実になりそうだなんてねぇ」

「ホントよホント。でも、あたしとアンタの2人きりになる予定だったのに、こんなに賑やかになるなんてね……」


 彼女の視線の先には、仲良く談笑する少女たち。

 そこに伶実ちゃんも加わって4人とも仲がよさそうだ。


「…………怒ってる?俺が一人を選ばなかったこと」

「当然よ。迷いなくあたしにお花を渡してくれると思ってたのに、まさか伶実ちゃんに渡した挙げ句選ばないって言うだなんてね」

「…………」

「でも、それ以上に嬉しかったわ」

「えっ……」


 ふと、そんな優しい声に振り向こうとするも、彼女は俺の肩に頭を乗せて動けなくなってしまった。

 肩にかかる彼女の重み。それはなんだか愛の重さと同義のように感じる。


「その優しさよ。アンタがあたしと同じくみんなのことも大切に思ってくれて、みんなが幸せになる道を選んでくれて。だからあたしはアンタのことが好きなんだなって惚れ直したわ」

「みんなで幸せどころか、茨の道じゃあ…………あたっ!」


 一人選んでからもその後の大変さはネットの海を見ても無数に存在する。それが5倍だ。

 更に世間体だの諸々組み合わされば、相当な苦労をすることになるだろう。


 そう思って顔を伏せかけると、突然彼女の腕が俺の目の前まで迫ってきてピンッ!と額を人差し指で弾かれる。


「アンタ、昨日啖呵切ったのはどこ行ったのよ。 こんなに支えてくれる人が居て負担は6分の1になるわけだし、茨どころかむしろぬるま湯の道よ」

「ぬるま湯……」


 そんな考えは、予想していなかった。

 そっか。そうだよね。俺一人で抱え込むだけじゃなくって、みんなもいるんだしみんなの力も借りないと。


「そ。だからアンタはどっしり構えるだけでいいの。 いつもどおり、何かあったらお姉ちゃんに泣きつきなさい」

「…………そっか。 じゃあ、そんなお姉ちゃんに聞きたい事があるんだけど」

「あら、何かしら? 愛しの旦那様の聞くことだもの。 なんだって答えてあげるわ」


 隣で声の弾む音が聞こえてくる。

 あぁ、俺はいい姉を持ったな。優しくて頼りになって、そして甘えてくれもするいい姉を。


 だからこそ聞かなければならない。

 たった今浮かんだ、大切な事を。


「さっき朝イチで来たって言ってたけど、もう昼過ぎだよ?今まで何やってたの?」

「……………………」


 ピシっと――――。

 まさしく一瞬にして石化したかのように声を弾ませながら若干身体をも揺らしていた彼女の動きが止まってしまった。


 問いかけるのはさっき言っていたこと。『朝イチで来たら愛の巣状態』。

 時計に目をやればもう正午はとっくに過ぎている。一体今まで何をしていたのだろう。


「えっと……その……ね? 大学生は多少なりとも時間に余裕ができるっていうか……取ってない講義の時間は行かなくていいっていうか……」

「そういえば1年で俺と通ってた頃はほぼ朝から晩まで大学だったよね?そんなに授業取ってないの?」

「っ…………!」


 痛いところをを突かれたのか、優佳は怯んでしまう。

 あぁ……これはまさか…………


「し……仕方ないじゃない!アンタが居ない大学なんてつまらないし、昨日の今日で部屋でバタバタしてたら朝になっちゃってたものっ!!」

「あぁ、だから母さんから俺に連絡が来たんだ。うるさくて眠れないって」


 昨晩俺がグッスリ眠っていた頃。

 朝起きたら母さんからメッセージが送られていることに気がついた。内容は眠れないから会話に付き合って程度の内容だったし、結局返事すらできなかったが背景にそんな事があったのか。


「伶実ちゃん、ちょっと来れる?」

「――――! はいマスター!なんでしょう?」


 俺が呼ぶと、ピクンと身体を揺らして小走りで近寄ってくる伶実ちゃん。

 いつか彼女の事を猫のようだと評したことがあったが、今考えれば忠犬のほうが正しいのかもしれない。

 賢く、一生懸命で、人のことを思ってくれる優しい子。きっと今も彼女にしっぽが付いていたらブンブンと振っていることだろう。その笑顔にはそれを確信させるだけの意思が込められている。


「ちょっと優佳の生活ぶりを聞き出して、指導してくれない? なんだか俺が大学辞めてから堕落してるみたいで」

「はいっ!任せてください! 優佳さん、ちょっとこちらでお話しましょう?」

「あっ……あたしは大丈夫だからっ! バイトもそうだし本気出せば早くに起きられるからっ!!」

「ダメですっ! さっきのお話聞こえてましたが、朝はしっかり起きないと!」

「え~!? 夜の生活にはいいでしょ~! ね~ぇ~!」


 文字通り、引きづられていってしまう我が姉、優佳。

 去り際に夜の生活とかわけわかんないこと聞かれたけど、意味は考えないでおこう。きっとこちらがドツボにハマってしまう。


「さて、それじゃあそろそろ買ってくれたものを片付けないと」


 そんな彼女たちを見送って、俺がやらなければならないことはさっき買ってきてくれた荷物の片付け。

 中身は……うん。ちゃんと必要なものは揃っていそうだ。この量なら明日の搬入には十分間に合う。


「って、これは…………」


 ガサゴソと袋の中の物を取り出していくと、その中に1つだけ、頼んだ覚えのないものが混じっていることに気づいた。

 これは……あの時の…………。


「――――いらっしゃいませ」

「え? あっ、いらっしゃいませ!」


 しかしその物体に気を取られたのも一瞬のこと。

 すぐに扉の方から鈴の鳴る音と共に伶実ちゃんの客を迎える声に気づいて俺も声を上げる。

 珍しく千客万来のようなこの店に入ってくるのは、俺も知っている重要な人物…………。


「すまない。邪魔をするね」


 そう穏やかな口調で入ってくるのは、眼鏡とスーツ。そして隣に昨日も見た女性を連れた、遥の父である善造さんであった。

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