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夢のカフェを開いたものの、店はJKたちのたまり場になるようです  作者: 春野 安芸
第4章

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133.サンドイッチ


「やっほーマスター! 元気してる~!?」


 灯と奈々未ちゃんがやってきた同日の昼。

 昼食を取ってゆっくりしていると、いつもどおりの上機嫌で遥が姿を現した。


「いつもどおりだな。お昼食べたか?」

「うんっ!ちょっと学校行ってたから食堂行ってきたよ!」

「こんにちはマスター。 あら、灯さんと奈々未さんも来てるって聞いてましたが……」


 遥に続いて店に入ってくるのは伶実ちゃん。

 あぁ、だから2人とも制服なのか。休日なのに学校とは、お疲れ様だ。


「ちょっと2人のお昼ごはん作ったら玉ねぎがなくなってね。ちょっと買い出し行ってもらってる」

「玉ねぎかぁ。 クンクン……クンクン……、ケチャップの匂いがする……ってことは!オムライスだねっ!」


 …………正解。


 確かに2人がお昼を取ってそんな時間経ってないとはいえ、玉ねぎとケチャップの匂いだけで特定できるなんて。

 いやまぁ確かに遥はウチのメニュー全制覇しちゃったけどさ。ケチャップを使う料理なんて限られてくるだろうし。


「それよりさっ! マスター聞いてよ~!」

「なんか、嫌な予感しかしないんだけど…………おっと!」


 ふと学校指定のバッグをソファーに投げた遥は泣きつくようにダッシュで俺に近づいてくる。

 カウンターを回って、定位置に座る俺を捕捉した彼女は見事な身のこなしで飛びつくように俺の背中へ。

 後ろから抱きつかれるという、嬉しくも恥ずかしい格好だ。


「また遥は……。それで、なにかあったのか?」

「聞いてよマスター! 今日先生に呼び出されたんだけどさ!ちょっと前に提出した進路調査のことだったんだけどぉ……」


 やはり背中に飛びついてくるのはスルーなのね。

 もはや俺も慣れたものだけど、暖かくて柔らかな感触が、特に背中中央付近に一段と柔らかいものが伝わってくるからホント、心臓に悪い。


 進路調査かぁ……懐かしいなぁ。

 俺は普通に適当な大学を書いて事なきだったけど、優佳が『総のお嫁さん』って書いて呼び出されてたっけ。

 その後再提出で『総と同じとこ』って書いて呆れながらOK貰ってたのが懐かしい。


「ほらこれ見てよっ! ちゃんと考えて書いたのに却下されたんだよ~!」


 バサッとバッグから取り出して俺に見せてくるのはよくある進路調査と書かれた紙。

 第一候補と書かれた欄には可愛らしい丸文字で『マスターのお嫁さん』と……。



 …………遥も同じパターンか!!

 救いを求めて第二、第三候補を見ても何も書かれてないし、これは俺が教師でも休日問わず学校に呼び出すね。


「いや、これは当然でしょ」

「え~!? だって間違ってないじゃん~!マスターだってそのつもりでしょ~!?」


 確かにそうだけどさ。

 そもそも教員からしたら「マスターって誰?」から始まるでしょうに。

 午前中の2人はしっかりと将来の高校以降のこと考えていたのに遥は変わらないな。


「……ちなみに、伶実ちゃんも同じ理由で呼び出されたの?」

「いえ、私は遥さんの説明役として。 多少……だいぶ大変でした」

「お、おつかれさま……」


 そう言う伶実ちゃんには、明らかに疲労の色が。

 きっと、だいぶ頑張ったんだろうなぁ。伶実ちゃんも先生も、おつかれさまです。


「む~! アタシだって本気なのに~!本気で卒業したらお嫁さんになるのに~!」

「それは……っ! ありがたいけど……っ! 酔う……!遥……酔う!」

「酔っちゃえばいいんだ~! アタシがお嫁さんとして介抱したげるもん~!!」


 背中にピッタリと張りつている彼女はぐわんぐわんと俺の肩を持って大きく揺らす。

 ちょっ……!ホントに酔うからっ!案外揺らされるって効くからっ!!


 右へ左へ絶えず揺れる俺の身体。

 脳さえも揺れ動くように不規則なリズムで揺れる視界に耐えていると、ふと座っている膝に何かが乗ってくる感触を覚える。


「むぅ…………」

「伶実ちゃん……?」

「レミミン?」


 乗ってきた犯人は、この店に居る最後の一人、伶実ちゃんだった。

 彼女は少し不満げな息を漏らしながら俺の膝に乗り、寄りかかるようにその背中を寄せてくる。


「私だって……お嫁さん……なんですから……。 その……のけものにしちゃ……ダメ……です」

「伶実ちゃん…………」


 そう顔を赤らめながら振り返って見上げてくる彼女は、拗ねながらも甘えてくるようだった。

 まさしく膝に乗ってくる子猫のような、そんな甘えん坊な表情をする彼女を見て俺たちは目を丸くする。


「~~~~! もうっ!それはズルいってばぁ!レミミンも一緒に抱きついちゃおっ!ほら、ギュー!!」

「ぎゅっ……ぎゅ~!!」


 前と後ろ。

 その両方から強く抱きしめてくる少女2人の暖かさと柔らかさが襲ってくる。


「えへへぇ……マスター、大好き~!」

「わ、私も大好き……です……」


 追撃かの如く、耳元でくすぐられるように聞こえてくる、2人からの愛の囁き。

 まさしく至福。まさに天国。その香りや多幸感に包まれているだけで、もう昇天待ったなしだ。


 あぁ……多幸感と暖かさと柔らかさ。ここが天国か。

 もうこれだけで生きててよかったのかもしれない。


「……私達が買い物行ってる間に、何してるんですか?マスター」

「――――はっ!!」


 この世の天国とについトリップしていると、そんな冷ややかな声によって現実に引き戻された。

 身震いさせてその声の方へ顔を向けるとビニール袋を持った灯と黒いコートを片付けている奈々未ちゃんの姿が。

 危ない危ない……危うく戻ってこれなくなるとこだった。


「ふ、2人とも! ありがたいけどこのへんでっ! 俺が耐えられなくなる!」

「しょうがないなぁ。 おかえりあかニャン。代わりにあかニャン抱きつく?」

「ちょっ……!」


 代わるんだったら俺へのダメージ変わらなくない!?

 遥が場所を譲るように俺から距離を取るも、灯は困ったような笑みを浮かべつつ首を横に振る。


「いえ、ありがたい申し出ですがマスターがこれ以上耐えきれなさそうなので」


 灯…………!

 さすが救世主!俺の心情を察してくれる所大好き!!


「そぉ? それより聞いてよあかニャンも~! さっき学校行ってきたんだけどさ~!」


 さっき俺に愚痴った事を彼女にも言うのか、進路調査の紙を持った彼女はそのまま灯の元まで。

 ほっ……助かった……。それじゃあ残る一人は伶実ちゃんだし、言ったらすぐ退いてくれるだろう。


「ほら、伶実ちゃんも。 みんな来たし離れようか」

「…………イヤです」

「イヤかぁ……」


 ギュッと向き合うように俺にまたがった彼女は、胸元に顔をうずめるように俺の背中に手を回してくる。

 まぁ、今日遥の付き添いで頑張ってたし、ちょっとくらいならいいかな。


「じゃあ、ちょっとだけだよ」

「……はい。ありがとうございます」


 更に強く抱きしめるように背中に回す腕に力を込めるのに合わせて、俺もそっと背中に手を回す。

 それはいつしか背後に現れる、コートをたたみ終えた奈々未ちゃんによって再びサンドイッチの状況になるまで続くのであった。

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