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夢のカフェを開いたものの、店はJKたちのたまり場になるようです  作者: 春野 安芸
第4章

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108.イタズラ笑顔


「そうだ。 ねぇ総、これあげる」


 優佳の宣言からすぐ後。

 彼女が持ってきたコーヒー豆を片付けに裏へ行き、戻ってきたタイミングで俺に何かを渡してきた。

 自らの手に収まるのは紙……というかチラシ?なんだこれ?


「……なにこれ?」

「何って見てわからない? 居酒屋のチラシよ」

「そりゃわかるが……」


 それくらいは俺でもわかる。

 手渡されたのは居酒屋のチラシ。色々な食べ物の写真が美味しそうに並んでいる。

 リーズナブルなお値段にそこそこの料理とお酒で有名なチェーン店のものだ。

 

 問題はチラシの中身のことではない。何故これをいきなり手渡されたということだ。

 そう思って彼女を見ると、裏返すように求められる。


「裏…………何この数字」


 指示に従って裏を見ると、メニュー表の隅にマジックで幾つかの数字が記載されていることに気がついた。

 これは……日付と時刻だろうか。不自然に空いた空白を見るにそれが一番考えられる。


「実はちょっと前から高校のみんなで同窓会しようって話になってね。アンタ、ここに書いてる日も暇でしょう?」

「まぁ……店を早く閉めたら暇だが。 同窓会ねぇ……」


 同窓会。

 学び舎を共にした友人たちを集め、語り合い、昔に回帰する場。


 俺も一度だけだが成人の日に参加したことがある。

 昔の連絡網を使って招集された中学の同窓会。

 その時はまだ学生が多くてお酒も無く、普通に語らってったくらいだが、友人の少ない俺からしたら優佳とご飯食べた程度の印象だ。

 そのうえ卒業から大して経っていなくグループが固定されていたのもある。

 友人が少ないのは小中高大と変わらず、参加したところでまたボッチになるだけだと思うのだが。


 開催日も3日後の18時。

 世間は金曜日だし、翌日は土曜日ということでやりやすいのだろう。


「同窓会って言ってもあれよ?あたしと総、それにいつも一緒だったあの2人だけだもの。そんな気負う必要ないわ」

「あの2人かぁ……」


 つまり計4人での飲みということか。

 少人数すぎて同窓会というのかはわからないが、それくらいならまぁ……。


「まぁその人数なら――――」

「えっ!?総は4人よりあたしと2人きりがいいって!? やぁねぇ、あたしを食べたいだなんて、そういうのは終わってからホテルでいくらでも――――」

「はいはい。優佳もちゃんと休み取ってね」

「む~! 最近総ノリわる~い!」


 そりゃ毎回からかわれてたら慣れもするわね。

 ふと気になってこれまで静かだった秋日和に目を向けると、彼女たちは俺が置いていたチラシを見ていたようだ。

 俺が視線を動かしたことで優佳も3人の存在を思い出す。


「そういえばあなた達、学校はどうしたの? 今日、休みじゃないでしょう?」

「「!?」」

「あっ!? え~っと……これはぁ…………」


 3人同時に驚いて肩を震わせ、最もわかりやすく反応したのは日向だった。


 優佳も俺と同じく、伶実ちゃんたちとよく話すから学校の休みくらいは把握している。

 つまり同じ学校である3人のスケジュールも把握しているわけだ。

 そして学校があるはずの時間帯に居るということはどういうことか予想も容易だろう。


 日向の慌てようにどういうことが察した優佳は、1つため息をついてポケットからチャリっと音の鳴る物を取り出す。


「はぁ……。 アンタたち、もう総への用事はおわったの?」

「え? はい……。優佳先輩が来る直前に」


 代表して答えるのは秋穂。

 彼女たちがここに来た理由は昨日の灯の様子について聞きに来たんだったか。

 「そう」と優佳は簡潔に返事をすると、手にしていた車の鍵を指に通して回して見せる。


「なら車に乗りなさい。送ったげるわ」

「えっ、いいんですか?」

「帰り道だし、ちょっとくらい遅れても大変なのは店長だからね。 ほら、さっさと行くわよ」

「は、はい! ……それじゃあ総さん、失礼しました!」


 俺は急いで荷物を手にして店を出る彼女たちに手を振って送り出す。

 なんだか世界って狭いなぁ……。でも、なんだかんだ優佳も彼女たちには良くするだろう。

 口では適当なものの気に入った相手には助けたがるタイプだ。なんとなく気に入ってそうだったし。


 俺は1つ伸びをして彼女たちが座っていたテーブルを片付ける。




 …………そういえばチョコを食べた乃和は大丈夫だろうか。




 ◇◇◇◇




「それじゃ、残りの授業頑張ってね」

「はい。 ありがとうございました」


 ところ変わってシンジョの校舎前。

 私達は優佳先輩の車に乗せてもらって、とっくに遅刻なものの思ったより早く学校へとたどり着いていた。


 全員降りたのを見計らって車は店の方へと去っていってしまう。きっと急いで店に戻るのだろう。

 なんだかんだ言って、あの店の稼ぎ頭は優佳先輩だ。人気もあるのに、まさか総さんとそんな関係とはね…………。


「秋穂、早く行こ。 先生に見つかったら面倒だよ」

「あ、うん!」


 走り去っていった道をボーッと眺めていると、日向に呼ばれて少し先に行っていた2人に追いつく。

 あぶない。危うく立ち尽くしているところを先生に咎められるところだった。

 1人だったら体調不良とかで言い訳がきくけど、3人だからちょっと面倒なんだよね。


「そいや乃和?大丈夫? チョコ食べてふらついてたけど」

「あ、そうだった。 乃和、平気?保健室寄ってく?」


 日向の言葉で私も思い出す。乃和ってさっきお酒入りのチョコを食べたんだっけ。

 完全に自業自得で乗った私達にも非があるとはいえ、酔って授業を受けられないなら早退したほうがいいかも。乃和ってお酒強いのかな?誰もまだ飲んだことないからなぁ……。


「……………ふっふっふ」

「乃和?」

「ふっふっふ……。 私、いいこと思いついた!!」

「……?」


 今まで顔を伏せながら黙ってついてきていた彼女が、3人だけになった途端突然顔を上げて高笑いしはじめた。


 唐突にどうしたの乃和……?

 お酒の影響かはわからないけれど、少なくとも不調というわけではなさそうでホッとした。

 でもなんだか嫌な予感がヒシヒシとするよ?学校の真ん中でピンクなこと言わないよね?


「ねぇ秋穂、日向!金曜日の放課後暇!?」

「金曜日……?バイトはおやすみだけど……」

「私も。 なにかあるの?」


 よかった。危惧してた内容ではなかったようだ。


 金曜日と言われると3日後。なにかあるのだろうか。

 その日は偶然にも喫茶店の定期清掃とやらで午後の営業はお休み。

 学校のある私達にとって午後が休みならその日は自然とバイトもなくなる。つまり暇ということ。


「じゃーん! これ見て!」

「……? これって、さっきお店で見た居酒屋のチラシ?」


 乃和がスマホをかざして見せてきたのは、さっきまで私も見ていた優佳先輩が総さんへ持ってきたチラシだった。

 ネットにも公開されていたようでその画面を見せつつ乃和は笑顔を見せつける。


 そして彼女は元気よく告げるのだ。

 乃和らしい発想の、そして、イタズラをするような笑顔で。


「ちょうど私達みんなバイト休みだしさ、灯も連れてその同窓会……コッソリ参加しようよ!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 秋日和の暴走が始まった!(笑)
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