表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢のカフェを開いたものの、店はJKたちのたまり場になるようです  作者: 春野 安芸
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/137

103.クリティカルヒット


「ハァ……ハァ……なに……してるんですか……あなた達……」


 疲労を全身で表すように扉に寄りかかりながら息切れをし、それでも問いかけてくるのは、カウンターに座る少女たちの友人、灯だった。

 

 きっと全力でダッシュし、ここにやってきたのだろう。

 夏ということも相まって額からはとめどない汗が流れ出し、普段ポニーテールにしているその黒髪も風や振動で解けたのか少しグチャグチャだ。


「え~~っと……灯、こんにちは。元気?」

(どうしよう秋穂!もう来ちゃったよ!)


 返事をするようになんとか言葉を口にした乃和は3人だけで話し合うように小声で語りかける。

 なるほど、やはり彼女らがここに来たことを灯には言ってなかったのか。


(どうしようって……私に言われても……。日向!なにか無い!?)

(……たぶん私達の会話を聞いていたクラスメートがいたんだろうねぇ。頭いいし、ちょっとのヒントでわかったんでしょ)

(今知りたいのは原因じゃなくて対処よ~! うぅ~!)


 慌てた様子を見せる秋穂と、冷静に分析する日向。


 しかし、そうしている間にも疲れ切っていた灯の体力は回復していく。

 暫く3人で話し合っていたものの結論は出なかったようだ。話がまとまるよりも早く灯が一歩を踏み出してくる。


「……秋穂さん」

「ひっ……! な……何かしら……灯ちゃん」


 少し前かがみになっているのか、その目が見えずに近づいてくる彼女に秋穂は小さく悲鳴を上げる。

 これは怒ってる……のか?


「何してるんですか……こんなところで……授業、今やってますよ?」

「えぇとね、これはね……えっと――――」

「灯こそどうしたの? 授業まだあるのに。サボり?」

(日向、ナイス!)


 言葉に詰まっていた秋穂をフォローするかのよう問いかける日向に、彼女は密かにガッツポーズをする。


 シンジョの子がこんな時間に来るなんてなんか変だなって思ったけど、やっぱりか。

 彼女ら秋日和は、やはり授業をサボってまでここにやってきたらしい。よくまぁ、灯の案内無しでたどり着いたものだ。


「私は成績優秀だからいいんです。 3人こそ大丈夫なんですか?特に乃和さん。前の実力テストで散々だったじゃないですか」

「グハァッ!!」


 クリティカルヒット!!

 と、いうようにリアクションするのはノリのいい乃和。

 ひょっとして、頭の中ピンク過ぎて勉強の方はあまりなのだろうか。


 一歩一歩ゆっくりと近づいてきた灯はようやく3人の前にたどり着き、伏せられていた顔をこちらに向ける。

 しかしそれは、怒っても笑ってもいなかった。普通の、普段見るような表情。雰囲気だってそんな怖いものは感じない。


「マスター、お騒がせしてすみません。 すぐこの子達を帰しますので」

「お、おぉ…………」


 至って普通の、世間話をするようなトーンで語りかけられる彼女に思わず戸惑ってしまう。

 大丈夫……だろうか。確かに声色も普通だが、走って来たせいでグチャグチャになった髪はそのままだけれど。


「…………まったく、学校を抜け出して何やってるんですか。よくこの店にたどり着けましたね?」

「だって、灯ちゃんがよく話すから特定なんて簡単だし……」


 よく話すって一体何を話してるんだろう……

 楽しいとか美味しいとか、そんな感想だったら嬉しいが、料理がマズイだったら立ち直れない。コーヒーが苦い程度なら許せる。


「……コホン! まぁいいです。では、抜け出してまでここに来た理由は? マスターに何か用事でも?」

「えっと……私達、総さんに聞きたいことが――――」

「総さん?」

「――――っ!」


 言葉に圧が加わるように、これまで平静を保って聞いていた灯の目が、初めて見開いた。

 俺の名だけの、シンプルな単語。そして彼女らしからぬ、低い声。


 まさしく俺の名に反応するように、彼女はキッと目を開いて復唱する。


「……それでマスター。彼女たちはなんですって?」

「え、俺!?」

「はい。 秋日和の方々からなんて聞かれました?」


 その視線が俺に向けられてことで思わず声が上ずってしまう。

 そりゃあ、どこまで進んだかだけど……さすがにそれは聞けないな。


「……俺が灯をないがしろにしてるんじゃないかって話」

「それは…………。 はぁ……そういうことなのですね」


 たった一言。その言葉だけで何か思い至るものがあったようだ。

 さすが天才。状況把握能力もなかなかのもの。


 灯は1つため息をつきながら、俺から視線を外して彼女ら三人に目を向ける。


「みなさん、私のことを心配してくれるのは嬉しいですが、こういうのは当人で解決しますので……」

「え~? でも最近、総さんの話を出すとあからさまに微妙な顔するじゃん」

「そっ……それでもですっ!ほら、まだ授業に間に合ううちに帰りますよっ!ほらっ!お金は私が払いますからっ!」


 日向の言葉にまさしく図星かのように虚を突かれた表情をする灯は、彼女らを引っ張って店から引っ張り出そうとする。

 渋々と言った様子で動こうとする秋穂と日向。けれど、予想のつかない人物は、ここに一人……


「それで結局、灯は総さんとえっちしたの!?倦怠期!?」

「~~~~! そういうのはいいんですっ!ほら、帰りますよ!!」

「え~!? でも灯、私達にはそういうことも視野にって――――」

「日向さんっ!」

「あいよ~」


 ムグゥ!と。

 灯は日向に指示を出すと、乃和の口は再び塞がれてしまった。

 そういうことも視野って……え、そういう生々しい話もしたりしてるの!?


 ドタバタのまま押し出すように店から去ってしまう秋日和の3人。

 まぁ、学校抜け出して来てるのなら仕方ない。今度来る時は放課後とか休みの日とかにしてもらおう。


 バタンと扉を閉めて再度息切れをする声がする。

 昼下がりの午後。俺を除いて店に残るのは、同じく学校を抜け出した、灯ただ一人となってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] さようなら!秋日和! 君達の勇姿は忘れない!(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ