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99.俺とあの子と知らない俺

 朝食をとり終えると、深沙央さんと分身ちゃんたちは外へ出ていった。

 俺はマギを探して屋敷の中を回る。するとマギは屋敷の掃除をしていた。


「私も、何かの役に立ちたいと思って」

「じゃあ俺も掃除するよ」


 この屋敷は古い。一昨日と昨日もエリットたちが掃除をしていたけど、埃は取りきれないでいた。

 マギは椅子に立って、棚の上のほうを雑巾で拭いている。棚の上には王都から持ってきた袋や箱が置かれていた。


「きゃあっ」


 バランスを崩したマギが椅子から落下。箱も一緒に落ちて、中の物が散乱した。


「大丈夫か!」


 マギの左腕には大きなアザが出来てしまった。


「ごめんなさい。あ、宝石まで落ちてしまいました」


 箱にあった無数の雑貨の中に宝石、たしかマーヤの胸に張り付いていた魔封石と呼ばれる代物があった。

 マーヤいわく記憶を封じるマジックアイテム。俺が魔力を放ちながら触れると、マーヤは記憶を取り戻したんだ。


「高価な物ですよね。早く箱にしまわないと」


 マギは右手を伸ばす。俺は怪我のほうが心配だ。


「波津壌気!」


 腕のアザが引いていく。よかった。

 マギは俺の事を不思議そうに見ていた。


「あ、俺の魔力には治癒効果があるんだ」


 まだ俺から視線を逸らそうとしない。驚いているのは波津壌気のことではないのか?


「もしかして、同じクラスの神山康史君、だよね?」

「え……」


 マギの右手は魔封石に触れていた。



 屋敷の中にはメグさんやシーカがいる。外に出ればマギは怖がる。それでも二人で話がしたくて、庭に出て、吹きっさらしのベンチに座った。


「そっか。ここはまだ異世界なんだ」


 先ほどまでとは様子が違うマギ。かつて魔封石に魔力を送ると、マーヤは記憶をよみがえらせた。するとマギも、何らかの記憶を取り戻したのか。


「この世界って化け物がいるんだよね。たしか吸血魔だっけ?」

「うん」

「でも神山君が守ってくれた。彼氏だからって、何度も守ってくれたよね」

「うん」


 深沙央さんに守られていたのは俺のほうだ。一体マギは何を言ってるんだろう。


「それなのに、ゴメンね。私、酷いことしたのに」

「え?」

「四月の終わり、オリエンテーションのあと。私ってば、神山君のこと、こっ酷く振っちゃったでしょ」


 たしかに学校ではオリエンテーションがあった。班ごとに分かれてデイキャンプをしたんだ。深沙央さんとは同じ班だった。

 俺は彼女の事が好きで、好きすぎて、オリエンテーションが終わった頃に告白しようとしていた。でも、勇気が持てなくて告白できなかった。


 マギは何を言ってるんだろう。

 混乱する俺は言葉が出てこない。マギは柔らかな笑顔を向けてくる。


 庭は通りに面している。目を向けてみると、マントを頭までかぶった男が、こちらに手を上げていた。俺は歩いて、庭の柵越しに声をかけた。


「旅人さん?」

「そんなものだ」


 覗きこむとアブのような顔をしていた。コイツは吸血魔か。


「この町に暗黒鮫という集団がいると聞いた。なんでもツワモノぞろいだという。オレは、そいつらに会いたい」

「暗黒鮫! なんのために」

「オレの拳が疼くのだ。強い者と戦えと。そして強くなれと」

「神山君!」


 マギが近づいてくる。


「女か。アンタは戦いとは無縁の男のようだ。聞いたオレがいけなかった。自力で探す。邪魔したな」


 吸血魔は去っていった。


「さっきの人、凄い顔をしていたわ。吸血魔よね」

「ああ」


 なんだか胸騒ぎがする。深沙央さんに伝えよう。


「あ、どこかで見たことがあると思ったら、思い出した」


 マギの声が弾む。


「ほら。終業式のあと映画を見に行ったでしょう」

「映画?」

「うん。友達に彼氏が出来て、カラオケをドタキャンされた私を誘ってくれたじゃない。あのとき見た映画に出てきた虫のモンスターに、さっきの人がそっくりだった」


 そんな思い出、俺にはないぞ。終業式の日にしたことは告白。しかも夜の九時。映画なんて見る余裕もなく異世界転移したというのに。


「映画の帰り、異世界にワープしたんだよね。それから色んなことがあって。最後は……あれ? 思い出せない?」


 マギは首を傾げる。気になることがいっぱいあるけれど、今は、さっきの吸血魔の対処が先だ。


「えっと、巫蔵さん。俺、急用が出来たから、ここにいてくれ」


 吸血魔が去った方向は井戸掘りをしていた場所だ。そこには多くに人がいる。追いかけよう。

 俺は屋敷の庭を出た。


「待って神山君!」


 マギが不安げな表情で俺の名を呼んだ。


「帰ってくるよね。私たち、元の世界に帰れるよね」

「もちろんだ。使命を果たしたら、きっと帰れる」

「使命? 何それ。誰がそんなことを」


 それを教えてくれたのは深沙央さんだ。マギ、キミは何者なんだ。

 俺は必ず帰ると伝えて、吸血魔を追った。



 新しい井戸の周囲では小さな公園がつくられていた。そこには分身ちゃんたちと作業をしていたDBD、さらに王までいる。吸血魔は……いた。アニキ達に声をかけている。


「暗黒鮫? アイツらは昨日、全滅したぞぉ」

「全滅だと。倒したヤツは一体どいつだ。オレはそいつと拳を交えたい!」


 アブ人間の吸血魔は声を荒げる。只ならぬ行く末を感じた俺は、吸血魔のうしろにまわり、両手でバツを作って、アニキ達にゼスチャーで伝えた。


「あ、え、全滅じゃなかったぁ。全然めっきり現れてねえなぁ。どこ行っちまったのか分からねえぜぇ」

「ぬぅん。そうか……」


 アニキは俺の動きを察し、嘘をついてくれた。吸血魔は肩を落とした。

 そのときだ。


「暗黒鮫なら私が壊滅させました。このファイナルラグナちゃんが!」


 振り向けばポコリナ。なぜに、こんなときに出てくるんだ。


「この子娘がシャークックを? あの男は一個師団を率いていた猛者だったはず」

「猛者だか愚者だか知りませんが、聖剣使いのラグナちゃんが、一瞬一撃で一掃しておきました。ひょっとして復讐ですか。やめといた方がいいですよ。私と戦った敵は応募者全員必ず漏れなく至極辛辣に死んでいきますから」

「面白い。復讐なんぞではないが、そこまで言うのならオレと戦ってもらうぞ」

「決闘の御注文ありがとうございます。私は昨日からイラついているので、良いオモチャになってもらいますよ。さぁ、かかって来てください。今ここで、白日のもとにアナタが弱者であることを思い知らせてあげます」


 ここを戦場にするつもりか。みんながいるんだぞ。

 吸血魔はマントを剥ぐと、アブのごとく甲に覆われた肉体を露わにさせた。


「よく言った小娘。オレは吸血魔、ホースフライ神拳の伝承者アブラヘイム!」

「吸血魔。聞きましたよ。血を吸うとかいうキモい人種ですね。しかも虫とか。虫は虫らしくウ○コにでも群がっていてください。何が神拳ですか、カッコつけて。アナタも御自慢の流派も、片手で楽々ペチンですよっ」

「……殺す!」


 まずい。俺はアニキと分身ちゃんに、みんなを避難させるように伝えた。頼むから井戸まで壊さないでくれよ。

 アブラヘイムが流れるような動作でポコリナに迫る。


「はんっ。挑発に乗って突っ込んできましたね。これを喰らうと良いですよ」


 ポコリナは魔装束の前を開け、下着姿を露出、前を閉めて衝撃波を放った。

 しかしアブラヘイムは耐えきった。


「こんなもの、修行で濁流をさかのぼった時に比べれば」

「だったらコレで人生を諦めて下さいよ」


 聖剣で斬りかかるポコリナ。だが……


「良い剣だが、小娘。どうも動きが剣に頼りすぎている。剣撃による一撃打倒を前提とした動きだ。どうやら生半可な強さを手に入れたようだな!」

「ああ! 離して下さいよ!」


 アブラヘイムは聖剣を白刃取りしたのだ。勢いよく聖剣を横に傾け、柄を握っていたポコリナはバランスを崩して倒れこむ。ポコリナはアブラヘイムに蹴りとばされた。

 聖剣を手にしたアブラヘイムがポコリナに向かっていく。


「あうぅ。聖剣を返して下さい。それはお姉さまに託されたものなのです」

「返してやろう。鞘は小娘、お前の身体だ。大きく口を開け。刺しこんでやる。よくもオレとオレの流派をバカにしてくれたな」


 悔しさに顔を滲ませるポコリナ。アブラヘイムが聖剣を高く掲げた。


「負けを認めれば、多少の切り傷で勘弁してやる」

「ま、負けていません。勝つのは私なんですから」

「この期に及んで、まだ言うか。お前は剣士ではない。強き剣を持った弱者だ」


 あぶないっ! 

 ポコリナへ聖剣が降り下ろされた。


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