表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/164

97.睨んでくる。ああ、気まずい。

 昼食を終えてシーカとメグさんとともに後片付けをしていると、深沙央さんが話しかけてきた。


「康史君、井戸掘りの現場に来れるかしら。協力してほしい事があるの」

「もちろん。あ、片づけはどうしよう?」

「私が……やります」


 マギだった。


「お昼を御馳走になったし、外は怖いし。屋敷の中にいたいから」

「そうか。じゃあ、すぐに帰ってくるから、任せていいかな」

「うん」


 よし。午後は深沙央さんのお手伝いをしよう。



 徒歩で現場に向かう俺たち。それにしても


「お姉さま。お手伝いなら私に任せて下さい。どんな難儀も即日速攻早々に、このラグナちゃんが解決してみせますよ」


俺は辟易する。


「なぜお前まで来る? ポコリナ」

「ラグナちゃんです。どうしてこんな少年がお姉さまの彼氏なのですか」

「ふふふ。賑やかね」


 深沙央さんは嬉しそうに笑った。俺としては、常に睨んでくる存在が近くにいると、どうも生きた心地がしないんだけどな。

 ポコリナは、俺にだけ聞こえる小声で


「化けの皮を剥がしてあげます。お姉さまの隣は誰にも譲りませんよ」


 やっぱり睨んでくる。ああ、気まずい。

 しばらく歩くとガラの悪い連中がこちらに向かってきた。目線は確実に俺たちを捉えている。こりゃ必ず声をかけられるだろう。


「ムムっ。なにやら悪しき存在が近づいてきましたよ。お姉さま、ここは私のお任せ下さい。ケチョンパに叩きのめして身ぐるみ・金銭・ケツの毛をむしり取って、地面に首だけ晒して埋めておきますから!」


 どっちが悪しき存在だ。ポコリナは深沙央さんの前に敢然と立ち塞がった。

 悪しき存在とやらが俺たちの前で足を止める。気配は四つ。その一人が声を上げた。


「こりゃぁ新アニキと町長の姐さんじゃないですかぁ。今、お迎えに上がろうとしたところだったのにぃ」


 アニキと三人の子分だった。いい機会だ。俺は言う。


「なぁ。ジュニアの店が違法品を扱っているみたいだけど、やめさせることは出来ないか」


「新アニキ、あの店は資金源だぁ。それに違法品の販売が世界から無くならないのは、それを必要としている人間がいるからでさぁ。この町から違法品販売を無くしたところで、必ずどこかが売買を始めちまぅ」


「王都がキレイな町なのも、もしかしたら、この町が泥を被っているおかげかも知れんのじゃあ。急にワシらが商売を止めてしまったら、別組織や素人が手を出して、余計な事件を起こすかも知れんのじゃあ」


「それにDBDはトラブル処理に慣れてるんだコラ。違法品の流通が複数組織に分散してしまうくらいなら、これまでどおりDBDが一括して扱い、少しずつ規模を縮小するほうが、まだマシってもんだコラ」


「ウェーイ」


 俺は頷いた。


「つまり急な改革は不要な揉め事を生んでしまうということか。正論だけで上手くのは、先生がいるときの教室くらいってことだな」


 俺とアニキ達は唸ってしまう。視線に気付くと、ポコリナは信じられないという表情をしていた。


「あ、悪しき存在に新アニキと称えられ、しかも私の思考を超越した難しい話をしています。バカそうな顔をしているのに!」


 バカそうは余計だろ。

 アニキは深沙央さんに言う。


「そうそう姐さん。若頭が、やはりダメだわぁと言っておりましたわぁ。それでお迎えに来たんですぅ」

「そういうことだったのね。すぐに向かいましょう」



 しばらく歩くと、こちらに来る男女が見えた。ポコリナはニヤリとする。


「おや、お似合いのカップルがやってきますよ。少年は町長なのですよね。先ほどのようなヤクザな人間と付き合っているようじゃ、町民は怖がって支持もしてくれないでしょう。さぁ町長さん。出来るもんなら町民に挨拶のひとつくらい、してみて下さい」


 男女は近づいてくると、俺に気付いて目を合わせた。

 フフンと笑うポコリナ。


「さぁ、元気に御挨拶ですよ。恥ずかしいですか。なんなら町長職は私が引き受けましょうか。お姉さまと町長が出来るのであれば、喜んで襲名してあげますよ」


 女性は俺に頭を下げてきた。


「先日は助けていただき、ありがとうございました」


 その女性はDBDの事務所の前で吸血魔に襲われそうになった人だった。男の方は人間の姿をしたグリズだ。


「二人はどうして?」


「グリズさんが井戸堀りをしていると聞いて、差し入れ持って押しかけたんです。でも人数が多いから足りなくて。だから買いだしに行く途中なんです」


「まったく、アイツらときたら遠慮もなく食らいやがって。せめて荷物は私に持たせて下さい」


「いいですよ。グリズさんはお仕事で疲れているでしょうから」


「大丈夫です。力だけが私の取り得ですから」


「お優しいですね。それでは町長さん、お仕事がんばってくださいね」


 女性は楽しそうに去っていった。


「良かったな。グリズ」


「からかわないでくれ。王よ。貴殿はこの町には収まらない男だ。国を、世界を動かしてほしい。人々を導く義務がある。私たちが貴殿を王に押し上げる。我々に出来ることがあるのなら、なんなりと言ってくれ」


「今日のところは、あの人を助けてやってくれないか」


「そうくるか。私は諦めないからな」


 グリズは女性のあとを追いかけた。視線に気付くと、ポコリナは信じたくないという表情をしていた。


「そんな。私の目と耳は故障したんでしょうか。ただの少年が町長を名乗り、町民から感謝され、さらに王になることを渇望され、応援までされているなんて」


 たび重なる混乱からか、息荒く、ギラついた目で俺と深沙央さんのあとをついてくる。

つきまといって、すごく嫌だなって思った。



 井戸掘りの現場に到着。若頭が駆けてくる。


「姐さん。やっぱり水は出てこねえぜ」

「う~ん。困ったわね」


 どうも井戸掘りのために地面を掘り続けていたようだけど、難しいみたいだ。

 深沙央さんは首を傾げた。


「昔の井戸の近くで掘っているのだから、水脈にぶつかっても良いはずなのに。おかしいわね」


 そのとき、ポコリナが颯爽と深沙央さんの前に躍り出た。普通に話しかければいいのに。


「こんなときは私にお任せを。この託されし聖剣で足元を吹き飛ばし、水を探しあててみせますよ」

「落ちついてポコリナ。聖剣の力が強すぎて周囲に甚大な被害が出るわ」

「なんですよ。活躍しようと思ったに。あれ? 少年は何をしているんですか」


 ポコリナは地面に手を当てている俺に気付いた。


「何なんです? その格好。そんなに地面が好きなのなら、お好きなだけ触っていればいいんですよ。お姉さまは私が引き受けますから」

「そうじゃないんだ。深沙央さん。俺を呼んだ理由は、コレだろう」

「うん。調べてもらえるかしら」

「任せてくれ。波津壌気・感知バージョン・地形認識エディション!」


 中立街での防衛戦で俺は温泉の水脈を探しあてた事がある。今回だって、やって見せる。


「捉えたぞ。入り組んだ水脈だな。深沙央さん、ナビするから地下に潜ってくれ」

「わかったわ。セミテュラー! 水縁の鎧よ、顕現せよ!」


 深沙央さんは水を操る鎧マリンダンサーを装着すると、既に掘られている穴から降りていった。

 俺は地面に手を当てたまま、深沙央さんの気配を探る。


「わかった。深沙央さん、その位置から東南東の方角に十六歩分だけ掘り進んでくれ」


 若頭が伝言役となって、掘った穴の底にいる深沙央さんに伝えてくれる。


 そして一分後。


 マリンダンサーの深沙央さんは地下から湧き上がった冷水とともに天に舞いあがった。

 作業に携わっていた分身ちゃん、ヤクザ、町民から拍手が巻き起こる。三者たちは喜び、お互い抱き合って苦労を称えた。

 なんだか町全体が一つになったみたいだ。


「な、なんなんですか。水脈を探し当てるなんて。少年はただの通行人で、無個性な脇役で、私の人生には何者でもない存在のくせに」


 ポコリナは精神不安定が目に見える表情で俺をけなしてくる。


「これでも俺は、深沙央さんの彼氏だよ」

「康史君、よくやってくれたわ」


 大地からの恵みの雨が降り注ぐ中、深沙央さんは俺を誉めてくれた。

 しばらく呆然としていたポコリナは動きだした。


「そ、そうだ。井戸には屋根を作りましょう。憩いの場にするために、テーブルや椅子も必要ですよね。はい、木材」

「お嬢ちゃん。馬車を解体するのは、やめてほしいぜ」


 ポコリナは若頭の馬車を聖剣で分解して木材を用意したけど、止められた。


「だったら。お姉さま、労働のあとはお腹も空きましたでしょう。はい、差し入れです」

「それはシーカに作ってもらった僕のイモマヨネーズサンドだ。奪わないでくれ」


 ポコリナは王が食べていたサンドイッチを横取りして、深沙央さんに差し出そうとした。当然止められた。王、来ていたのかよ。


「なんで。なんで少年がお姉さまに誉められて、私が活躍できないんですか。悔しいぃぃィィィ!」


 ハンカチを噛みしめるポコリナ。まだメグさんに返していなかったのか。

 ポコリナの魔装束が生き物のようにウネウネと脈打ち出す。なんだ?

 ポコリナは若頭に詰め寄った。


「この町で、一人で気兼ねなく泣き叫び、世の理不尽を嘆き悲しみ、夜明かしが出来る場所はありますか?」

「あるとしたら街はずれのドングリ公園しか思いつかないぜ」


 俺をキッと睨んだポコリナはまくし立ててきた。


「私は秘密の場所で悔しさを発散させます。迎えに来たって帰りませんからね。場所は教えません。私のいない夜を寂しがるといいんですよ!」


 ポコリナは駆けていった。半泣きで。迎えに来るなと言っていたけど、場所を聞いてしまった。夜になっても帰って来なかったら、すごく暇なら迎えに行こうかな。



 ところがポコリナは夕方には屋敷に帰って来た。泣きじゃくりながら。


「うう……先客がいたんです。王様の執事さんでした……うう」


 あの爺さん、まだ居たのか。とりあえず俺はポコリナに甘い紅茶を淹れてやった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ