95.別・異世界から来た聖剣使い
シャークックは竜巻を引き起こした。そして組員を率いて、竜巻に乗って宙を舞いだしたのだ。
「なんで鮫が空を飛ぶんだ!」
王が不思議そうに俺を見つめる。
「知らないのか。鮫は空を飛ぶだろう」
なんだ、そのB級映画のような鮫の生態は。異世界の鮫、怖すぎるだろう。
「吸血王、その命いただくぜ。連れの人間ともどもな。やっちまえ野郎ども」
吸血魔の一体が突風に乗りながらマギへ迫ってきた。
「きゃあっ」
俺は聖剣を手にして吸血魔を跳ね返す。
「神山さん」
「俺は深沙央さんに守られてきた。今度は俺が、巫蔵さんの深沙央さんになってやる!」
そうは言ったものの、相手は十体以上いる。
「王、魔法で攻撃できないか?」
「魔法? 僕の?」
「そうだ。詠唱してデカイの一発ぶち込んでくれ」
「詠唱……なんだ、それは」
この王様め。そんなに大きな魔力があって魔法が使えないのかよ。人の事は言えないか。
カブトムシの鎧を顕現して、二人を担いで町まで逃げるか。深沙央さんたちに助けてもらおう。いや、いけない。暗黒鮫を町に引き込むことになる。
「どうすればいいんだ」
そんなときだ。空から何かが落ちてきた。隕石? ちがう。女の子だ。
赤髪を両サイドにまとめ上げた、ツインテール。背は低く、まだ幼い顔立ち。俺よりも三歳くらい年下だろうか。
黒いコート、背中には大きな剣。その子は俺たちと暗黒鮫のあいだに現れた。
「誰かと思ったら王様ではないですか」
「僕の家の客人ではないか。キミの言っていたとおり、外には素晴らしいモノがたくさんある。それにしても奇偶だな。空を飛んできたのか」
「やだなぁ。空なんて飛べるはずないじゃないですか。お姉さまじゃあるまいし。ジャンプしながら人探しをしていたんですよ」
王の知り合いなのか。謎の少女は自分の着ている黒いコートをつまんだ。
「これ、魔装束でしたっけ。これがあると身体能力が格段に上がるんです。すごいモノ借りちゃいましたよ」
「着こなせるキミも大したモノだ」
「あの~」
俺が声をかけると、少女は瞳を輝かせた。その視線は俺の背後に注がれていた。
「マギっ。マギではないですか」
「え? 知りあいなのか」
驚く俺を無視して、少女はマギの手を握った。
「久しぶりですね」
「私はマギじゃない。巫蔵深沙央……」
「そうでした。マギはそういう子でした。でも私は、そんなマギが大好きですよ。思い出してくださいな。三年前の運命の出会いを」
「そういえば」
「ふふふ。マギがいるってことは、ここにお姉さまがいるってコト、確実極まりないですね。私、元気が出てきましたよ」
この子。一目でマギを深沙央さんではなく分身体だと見抜いた。何者なんだ。
「どけぇい、小娘。さもなくばテメぇも噛み砕くぞ!」
竜巻の渦中のシャークックは空中から少女を凄む。
少女は向き直ると、背中の剣を手に取った。その剣は透明の刀身。まさか。
「あなたたち、マギと王様をイジメようとしていましたね。そんな悪いヤツは殲滅決定。この私、異世界からの聖剣使い、ファイナルラグナちゃんが成敗してやるんだから!」
なんてカッコイイ名前だ。え? 異世界?
「しゃらくせぇ。ここにいるのは暗黒鮫の武闘派全員よ。誰が来ようと関係ねぇ。テメぇら、やっちまえ!」
一体の吸血魔が風に乗って突撃してくる。少女は聖剣を背中に戻した。え、戻すの?
そして黒いコートの前のボタンを全て外すと、勢いよく開いたのだ。まるで露出狂のように。
その中身は、まさかとは思うけど、そんなはずは。年頃の男子として確認すると……
「下着かよっ」
桃色のブラとパンツ。背も低いし、童顔だし、やっぱり胸はなくて、薄らとあばら骨が浮き出ている。深沙央さんのように女性的な身体の凹凸はない。それでも女子。お肉はプニプニしていて柔らかそうだ。
だが、露出はマズイだろ。戦闘中だぞ。
少女は黒いコートの前を閉じた。瞬間、発生する衝撃波。突っ込んできた吸血魔は吹き飛ばされた。
「何が起きているんだ」
「あの黒衣は魔王13秘宝のひとつ、魔装束だ」
王が冷静に解説を始めた。
「魔装束は着こなせる者が少ない反面、着こなせば魔力・体力が格段に上がる。装着した際、能力の急上昇により衝撃が周囲に広がるのだ。先ほどの衝撃波は、それによるものだ」
着ることで衝撃が生まれるのか。露出のほうが衝撃的だけどな。
「あの竜巻はメンドウですね。先に無くしちゃいますか」
少女はコートを開ける、閉じる、露出、非露出を繰り返しながら、衝撃波を発生させながら竜巻へ歩いていった。衝撃の力によって、竜巻の威力が弱まっていく。
「そうはさせねぇよ!」
暗黒鮫たちが止めに向かうが、少女の露出性衝撃波によって近づけずにいた。
ついに竜巻は消滅。シャークックたちは漁港に並べられた魚のように地面に横たわった。
「おのれぃ。まだ海の男の魂は死んじゃいねぇ。野郎ども、ブっ込むぞ!」
「アイアイサー!」
暗黒鮫が集団で突っ込んできた。鮫津波だ。
迫りくる大きな口を前にした少女は、恐怖とは無縁とばかりに、不敵な笑みを浮かべた。
「その意気込みは評価に値します。でも相手を良く見てから挑んでくださいよ」
相手は露出癖のある未成年。そんな少女は背中の剣に手を伸ばした。
そうだ、この子は聖剣使い。ただの露出狂ではない。
少女は聖剣を構えた。
「本気100倍+聖剣横一閃+私の煌めき! 名付けて最終戦争終焉斬!」
このネーミングセンスは、まさか。
聖剣から光が伸び、輝きを放出する長大な剣となって、襲い来る暗黒鮫を断ち切った。
「そんな……暗黒鮫が壊滅するとはぁぁぁ!」
塵芥になって消えていくシャークックたち。
「聖殺完了」
少女は振り向くと笑顔でやって来た。
「マギ、王様。悪者はラグナちゃんがやっつけましたよ。もう安心安全。今夜は良く眠れます。さあ、早く私をお姉さまのもとへ連れていってください。感動と感涙の再会ですよ」
「深沙央さんを知っているのか?」
少女は俺に視線を向けると
「貴方は偶然巻き込まれてしまった町の人ですね。悪者は倒しました。安心して帰ってください。それにしても、さすがお姉さま。一般普通な通行人にまで、その名が知れ渡っているなんて。さすが私の姉であり婚約者ですね」
「え? 婚約者?」
「ああ。お気使いなく。ただの町民少年にまで結婚祝い金はせびりません。マギと王様は私が引き受けますので、町民は町に帰ってお家のお手伝いを。心から応援しています。以上、ファイナルラグナちゃんでしたっ」
少女はマギと王様の手をつないで、町の方へ歩きだした。
「ちょっと、待ってくれ」
「え? 何なんですか。まだモブキャラにセリフが。もしかして弟子になりたいとか。いけませんよ。私はお姉さまの弟子にして婚約者。無特徴少年に捧げる時間や言葉は、もう無い……」
「グオオオ! せめて弱そうなヤツだけでも!」
何者かが突っ込んできた。鮫の吸血魔だ。組員の一体がまだ生き残っていたんだ。狙いはマギ。
「そんな。私が討ち漏らすなんて!」
俺は聖剣で吸血魔を斬り払う。霧散していく鮫人間。
驚きの眼で俺を見据える少女。
「それは聖剣ですね。あなた、何者ですか」
「俺は神山康史。深沙央さんの彼氏だ」
少女は俺を強く睨んだ。




