87.俺 地元ヤクザに絡まれる
辿り着いた先は町議会所も兼ねている町長の屋敷。もちろん無人。
中尉から聞いていた屋敷の特徴をツバーシャに伝えておいたので、瞬間移動で即到着した。
屋敷の門に町長の屋敷と書いてある。前職の町長は自分のことを町長と呼んでいたのだろうか。校長みたいなヤツだな。
十年以上使われていなかったらしく、ボロボロだ。掃除と修繕が必要なことが一目でわかった。掃除道具や大工道具を持ってきて正解だな。
みんなで取りかかったけれど、こりゃ一日じゃ終わりそうにない。
そんな中でもマミイラは大活躍だった。屋敷のちょっとした傷みは、持ち前の包帯や不思議な力で直していく。もしかして執事力が高い人なのか。
「以前から思っていましたけど、マミイラさんって出来る男って感じですね」
「王都の屋敷が素人だけで維持できるのは、マミイラさんのおかげだと思っています」
シーカとメグさんが感心してマミイラを見ている。チクショウ。俺だって。
何かすることはないのか。力仕事や面倒な場所の掃除はないのか。
そうだ。お風呂掃除をしよう。さっそくお風呂へ行ってみると
「きゃあ! 康史さん。いま私が掃除しているのに、どうして入ってくるんですか!」
マーヤが風呂掃除をしていた。扉の外からでも誰かが掃除をしている気配があった。だから手伝おうと思ったんだ。
「それにしたって、どうして全裸で掃除してるんだよ!」
「おかしなことを言わないでください。お風呂に入るときは裸です! お風呂は、そういう部屋であるはずです!」
掃除するときは服を着ていいんだけどな! 考えてみればマーヤはお嬢様。常識が通じないところがあるのかな。
逃げるように台所へ。そこでは深沙央さんとエリットが悩んでいる様子だった。
「どうしたんだ?」
「それが台所の傷みが激しくて、お昼までには直せそうにないの」
「康史様。町に出てみんなのお昼ご飯を買って来てもらえますか?」
「それは構わないけど」
台所を出ようとして、気づき、振り向く。
「なぜエリットがいる」
「なんだか荷物にまぎれて付いてきちゃったみたい。お掃除が大変だから丁度良かったと思っているわ」
深沙央さんが、そう言うのなら。エリットはVサインを作った。
あれ? 俺は波津壌気・感知で荷物を調べたはずだよな。ま、いいか。
街の中を歩いてみる。暗黒街とか言われているものだから、警戒してアイテムバッグを持ってきた。だけど町は思っていたより平和だ。
建物はボロボロで、落書きだらけで、モヒカンがたむろしているような場所を想像していたけれど、王都よりも小ぶりな商店が軒を連ねていて悪いイメージを抱かない。
少し活気がなくて、薄汚れているけれど、暗黒街と言われなければ気付かない程度だ。
そう思っていた矢先に『凶器、マジックアイテムの盗品市。広場で毎晩開催』という張り紙を見つける。やっぱり、けしからん町なのかもしれない。
少し歩くと風俗店を見つけた。けしからん。夜になったら来てみよう。
焼いた肉を売っている店を見つけて、俺は買って帰ろうとした。
「おや、見かけない顔だね。違法魔法具の売人さんかい?」
店のおばさんは気さくに話しかけてくる。
「いえ、はじめまして。この街の新しい町長を任された神山っていいます。よろしく」
「え? この町に町長? あんた。ダークブラックデビル組に挨拶はしたかい?」
なんだ? その僕が考えた悪の組織みたいな名前は。
「悪いことは言わないよ。早くダークデビルブラック組、略してDBDに人たちに挨拶しておいで。売るのはそのあとだよっ」
おばさんは店を閉めてしまった。そのあと三件のお店で買い物をしようとしたけれど、同様の対応を取られて昼飯は買えなかった。
なんなんだDBDって。どうしてみんな恐れているんだ。
そんなことを考えていたら腹の虫がなった。
「帰ろう。屋敷には食べ物があるし」
異世界転移する前に袋麺や缶詰を用意してきた。深沙央さんたちに事情を話して、昼飯はキャンプ道具で湯を沸かしてラーメンをすすろう。
帰路に就こうと思うものの、町は微妙に入り組んでいて帰り道がわからなかった。迷ったあげく、目の前には高い塀がそびえ立っている。
これは町の未来や災害対策を考えずに、無計画に建築や増築を繰り返した結果だな。やっぱり王都とは違うんだ。
「だったら、変身するまでだ」
カブトムシの鎧を顕現させる。この姿になれば身体能力が上がって家々や塀はひとっ飛びだ。
塀を乗り越え、着地する。そのとき人の声が聞こえた。声はこちらに近づいてくる。
道を聞こうと思って鎧を解除した。
「すいません。町長の屋敷に行くにはどうすれば……」
現れた三人組は俺の姿を見るや否や、ものすごい形相で近づいてきた。
「オウオウオウ! 兄ちゃんや、どうやってここに入ったんじゃあ!」
「え?」
「ここはDBD、略さずにダークブラックデビル組の事務所の敷地だコラァ!」
「はい?」
「もしかして暗殺者かテメぇは、ウェーイ!」
「ウェーイって何だよ」
明らかにヤクザ風の男たちだ。それにDBDだって? コイツらは何者なんだ?
「俺は道に迷っているだけなんだ。町長の屋敷に戻りたいだけなんだって」
「迷子の迷子の子猫ちゃんが、ちゃんと施錠している門扉からDBDの敷地に入って来れるわけないだろコラァ!」
その歌って異世界にもあるの?
俺は三人組に囲まれた。正面にはリーゼント、右後ろには坊主頭、左後ろにはモヒカン。一体どういう状況だよ。モヒカンはここにいたのかよ。
「待て待て待てぃ! 落ちついて深呼吸しろ童貞ども。俺が話をつけちゃるぜぃ!」
そこへ現れたのは煙草をふかしたパンチパーマの男だった。
「アニキ! テメぇら深呼吸じゃあ。すぅすぅ、はぁ~」
三人組は深呼吸を始めた。童貞を指名されたので俺も深呼吸しておく。
パンチパーマのアニキは俺を舐めまわすように見てきた。
「なんなんだ、テメぇはぁ!」
「俺は神山康史。今日からこの町の町長の一人になったんだ。でも道に迷っちゃって。町長屋敷への道を教えてほしいんだ」
「なんだと。テメぇみたいなジャリが町長のはずねぇだろぉ。町長は何年もいねぇんだ。王国だってこの町を見捨てた。今さら町長が来たって面白くはねぇんダよぉ!」
まぁ不満は分かるけどな。ところでDBDってなんだんだ。聞いてみた。
「知らなぇのか。リーゼントのイッチ、教えたれぇ」
「オッス。DBDとは地上げ、違法商店の展開、闇のマジックアイテム販売と、悪とされることを何の躊躇もせずに行う悪の組織じゃあ! 続いて坊主のニーノ、言ったれ!」
「オウよ。DBDは前町長が町を捨ててからというもの、吸血魔からこの町を守ってきた義集団でもあるんだコラァ! 最後にモヒカンのサーン、かましたれ!」
「え! えっと、DBDバンザーイ! ウェーイ!」
なるほど。だいたい分かった。
「俺の世界のヤクザみたいなものか。吸血魔がいるというのに、町がそれほど荒れていないのはDBDが戦っていたからなんだな。肉屋のおばちゃんが挨拶しとけって言っていたのも、なんだか分かった気がする」
「肉屋のおばちゃん、良く言ったぜぃ。今月のみかじめ料は半額だぁ」
アニキはうまそうに煙草をふかした。そして煙草を投げ捨てる。ここってDBDの敷地だよね。
「ところで兄ちゃんよぉ。どうやってココに入ってきたのか聞かせろやぁ。俺はこう見えてもDBDの施錠・火のもと点検担当なんじゃぁ。今後に活かすから教えろぁ!」
顔を近づけて凄んでくるアニキ。近すぎて唇と唇がくっつきそうだ。やめてくれ。俺には深沙央さんがいるんだ。信じてもらえるかどうか分からないけど、言うしかない。
「俺は異世界から来た勇者なんだ。でも道に迷って、鎧を顕現して塀を越えて、町長屋敷を目指していたところなんだ」
アニキはしばし呆然とすると真顔になった。怖い。やはり信じてもらえなかったか。それどころかバカにしていると思われて殴られるかもしれない。俺は身構えた。
ところがアニキは膝をついてしまった。
「コラァ! アニキは子供の頃の魔法士になりたかった夢を捨てきれない男だコラ。異世界とか勇者とか鎧とか、夢あふれることヌカしてるんじゃねぇぞコラ!」
「アニキ。願っていれば夢は必ずかなうんじゃあ。元気出して立ち上がるんじゃ」
「ウェ、ウェーイ」
「何だよそれ。じゃあ魔力や異能力者って単語も禁句なのか?」
俺が質問するとアニキは倒れこんでしまった。動悸が激しい。どうしたんだ?
「てめぇコラ! アニキはDBD王都支部にいたとき、子分が通りすがりの女と小競り合いになって、その女が仲間を引き連れて支部に乗り込んできたんだコラ。三人の女は異能力者で支部は壊滅。支部員はアニキを残して全員DBDから足を洗ったんだコラ!」
「アニキだけが本部のある暗黒街に逃げ帰ってきたんじゃ。そのときの心の傷は毎晩、アニキを悪夢に引きずり込むんじゃ。あの一件以来、短髪と三つ編みと眼鏡の女・恐怖症に悩ませられているんじゃあ。少しは察してあげたれえよ!」
「……ウェィ」
その三人の女って、どこかで会ったような気がするな。モヒカンのサーンはヤル気が無くなっている気がするな。
「きゃあああ!」
そのとき、塀の向こうから女性の悲鳴が聞こえてきたのだった。




