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85.俺と彼女 町長になるよう依頼される

 中立街の山賊退治を終えた俺たちは、瞬間移動で王都の屋敷へと戻って来た。


 ちょうど玄関前を掃き掃除していたエリットに出くわした。


「あ! お帰りなさい。いまバラケッタ中尉がお見えになっていますよ」


 中尉は王国軍の参謀本部所属の青年士官だ。


「康史様と深沙央様は不在なのでお引き取り願おうとしたのですが、ほかの子たちがお茶だけでも飲んでいけと、中尉を引き留め、手を引っ張り、喋りかけて」


 金髪イケメンだもんなぁ。最近俺は女の子たちから、オハヨウの挨拶もされなくなったなぁ。


 応接室に行くとメイド姿の女子たちが、中尉に出身地や恋人の有無、将来子供は何人ほしいかとか、土砂振りの雨のような勢いで聴取していた。


 気さくに答える中尉の笑顔からは、男から見れば困惑に震えているような気がした。女の子に話しかけられて困るなんて、贅沢なイケメンだ。もったいないオバケに襲われるがいい。


「みんなゴメンね。中尉とお話していいかしら」

「深沙央様、お帰りなさい。よかった。御無事に帰って来られて」

「中尉さんからいろいろと聞いておりましたよ」

「肉料理よりも魚料理が好きなんだそうです。詳細は後ほど報告しますね」


 深沙央さんの一言で女の子たちは部屋を出て行く。中尉の詳細なんて深沙央さんには不要だっつーの。


「すまない。巫蔵深沙央。助かった」

「いいのよ。それにしても、何の御用かしら」


 また女学院潜入とか言い出さないだろうな。もしくは吸血魔退治かな。とにかくイケメンは妙な依頼を持ってくる。


「二人には、とある街の町長をやってもらいたい」


 想像の上をいく依頼がやってきた。


「町長って一体どこの?」

「王都から西に馬で五日ほど行ったところにある街だ。そこで町長をやってもらいたい」


 俺、混乱中。同席していたシーカとメグさんも同様だ。

 質問しよう。


「町長って言ってもな。税の徴収や道路作りとか町の発展とか、色んなことを考えて、していかなくちゃいけないんだろ」


 俺は人の上に立った事がない。中学高校ともに生徒会役員や各種実行委員もやったことがなかった。町のインフラ整備とか社会保障とか、どうすりゃいいんだよ。


「心配はいらん。王国から専門家を派遣する」

「じゃあ、その人たちが町長をすれば?」

「その前にキミたちが町長として、町の者と接し、その名を轟かせてほしい」


 何を言ってんだ、このイケメンは。中尉も俺の気持ちを察したのか、渋そうな顔をしている。


「中尉。もしかして、そこは暗黒街なのではありませんか?」

「暗黒街?」


 シーカの口からヤバそうな名前が出てきた。


「暗黒街は昔、第二の王都といわれるほど栄えていた街です。しかし国内に侵入した吸血魔や犯罪者が根城としはじめ、十年ほど前からは一般旅行者はもちろん、役人やまともな商人も寄りつかない危険地帯となりました」


「たしか町長を勤めていた貴族が、手に負えないという理由で逃げてしまったんですよね。地図からも抹消されてしまった街なんです」


 シーカとメグさんは説明してくれた。でも俺には理解しがたい。


「吸血魔と犯罪者がはびこる街って……王国軍は何をしていたんだよ」


 俺の疑問に、中尉はバツの悪そうな顔をした。


「軍は吸血魔の侵攻を防ぐのに手いっぱいだった。そこで暗黒街の治安回復を後回しにしてしまい、気付いてみたら取り返しのつかない事になっていたのだ。このご時世、今さら王国軍の人員を割く余裕はない」


「つまり私たちに吸血魔や悪人を退治しろと言いたいのね」


 深沙央さんの言葉に、中尉は頷いた。


「強いヤツが地域の頭になって、悪いことをするヤツをビビらせろってことか」


 アラクネが極端な発言をするけど、つまり、そういうことなんだろうな。

 深沙央さんは中尉に言った。


「中尉。街の平和も大事だわ。でも私は前線に出て、敵国から幹部を引っ張り出したいの。幹部の打倒こそが平和への近道だし、私たちが元の世界に返る最速の手段だと思っているわ。できれば強力な幹部がいる前線を紹介してほしいの」


「ああ。そのことなんだが。軍内部には二人の力を危険視している者もいる。要塞を敵から取り戻し、女学院では見事に事件を解決して見せた。それが気に入らない連中が二人を軍に組み込んでいいものかと考えている。そんな者たちが打診したのが今回の任務だ」


 なんだよそれ。こっちは、この世界が良くなるように戦ってきたっていうのに。


「そんな顔をしないでくれ神山康史。任務が全うできれば、お前たちを敵視する連中を黙らせることもできる。そうすれば軍の作戦にお前たちを組み込むことが出来るし、有益な情報を流すこともできるのだ」


 深沙央さんはテーブルの上のお茶をズズーっと音を立てながら飲みほした。


「良く考えたら、私って今すぐ前線に赴いて吸血魔の軍勢にケンカを売ることくらい出来るのよね。王国軍の協力なしでも敵幹部を倒して、現状に風穴を開けることはできるのよ。暗黒街の治安回復も大事だけれど、世界全体の平和のために動くのも大事だと思う」


 深沙央さん、遠まわしに今回の依頼を断る気だな。

 中尉に困惑の表情が広がった。


「これは機密事項なのだが、魔王13秘宝というものを知っているか?」


 知っているもなにも俺が使っている剣が13秘宝のひとつ、魔剣だ。ほかにもアイテムバッグの中には魔槍があるし、アラクネの武器である魔鉄槌だって秘宝のひとつだ。


「なぜ暗黒街に吸血魔が集まるのか調べた者がいる。噂では吸血魔の国から失われた秘宝のひとつが暗黒街のどこかにあるというのだ。秘宝は身につけた者の能力を向上させるという。巫蔵深沙央、これから吸血魔と戦う上で必要になると思うが」


 王都から馬で五日の町。辺境ほど離れてもいない街が、暗黒街に変貌した理由はそれか。

 深沙央さんは黙りこんだ。最近は苦戦を強いられることが多くなってきたしな。

 俺は中尉に聞いた。


「さっきから暗黒街って言っているけど、本当の名前は何なんだ?」

「以前は名前もあったが、今は地図からも抹消された街だ。新たに名前をつけたほうが縁起もいいだろう。任務を引き受けてくれるのならば、好きにつけてくれて構わない」

「だったらアラクネタウンにしよう」


 部屋の隅で酒を飲みはじめたアラクネが声を上げた。どうしてオマエの名前が出てくるんだよ。


「それはいけませんよ。勇者様が町長をしている街だから勇者街にしましょう」


 シーカ、それでは勇者がたくさんいる街になってしまう。


「もっと、可愛い名前を……」


 中尉が顎に手を当てて考えこむ。この人、可愛いのが好きだな。


「えっと、えっと」


 メグさん、無理やり考えなくていいですよ。

 そのとき、応接室の扉がそ~っと開いてエリットが顔をのぞかせた。


「『神山康史と巫蔵深沙央の街』なんてどうでしょうか」

「聞いていたのかエリット」

「もちろんです。お二人はいずれ元の世界に帰られる身です。ならばお二人の名前を残せるような町名にするのがよろしいかと」


 気持ちは嬉しいけど、名前が長すぎるだろう。略して神巫町あるいは巫神町。う~ん、しっくりこないな。


「略して神山深沙央町はどうかしら」


 深沙央さんがイキイキと発言した。それにしても神山深沙央って……


「まるで俺と深沙央さんが結婚したような名前だよ」

「フフフ。フフフ」


 深沙央さん。危ないくらいニヤけてらっしゃる。


「私、神山深沙央町を作るわ。町長をやりながら敵の幹部を倒して平和を築く。中尉、私たちは使命を全うしたら元の世界に帰ってしまうけれど、いいかしら」

「ああ。治安を回復させてくれれば町長の後任はすぐ決まるだろう。神山康史、巫蔵深沙央、頼んだぞ」


 こうして俺たちは町長に任命された。それにしても


「神山深沙央町だと、康史と結婚した深沙央が町長で、康史は部外者みてぇだな」


 アラクネが核心をついてくる。実際活躍するのは深沙央さんだしな。


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