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84.俺 令嬢を若返らせる

 ツバーシャの身体の中にある若返り物質を、ルエリアさんの身体に移せば……


 ツバーシャの現在の肉体年齢は十歳くらいか。俺は避難している町民の中から十歳くらいの女の子を探し当てた。


「怖がらないで。シーカを救いたいんだ。協力してくれ」


 その子は、昨日植物園で一緒に遊んでいた女の子と手をつないでいた。姉妹なのかな。十歳の子は、女の子からの目線を受けて頷いてくれた。


「波津壌気・感知バージョン」


 女の子に手をかざし、体内の状況を感知する。なるほど、これが普通の女の子の体内情報か。

 俺は急いでツバーシャの元に戻り、同じように波津壌気・感知バージョンを放つ。普通の女の子とツバーシャの身体の違い。それは体内にある若返り物質。それを感知で探しあてる。


「見つけた。これを吸収してやる!」


 ギュオオオオオオン!

 ツバーシャが19歳に急成長を遂げた。代わりの俺が子供の姿に戻ってしまう。


「康史が6歳くらいになった。私の十年分の若さを吸収したからだわ」


 ツバーシャの言うとおり、六歳児になった俺はルエリアさんに手をかざした。

 放出! 若返り成分をルエリアさんに放ってやる。

 しかし変化がない。俺は子供のままだ。もしかして若返ったことで魔力が減退して放出できないのか!


「諦めないで康史君!」


 深沙央さんが魔剣を投げ渡してくれた。魔剣の力で魔力が上がる。これなら


「俺の波津壌気! 若返りバージョン! 行ってくれ!」


 次の瞬間、俺は16歳の姿に戻った。ルエリアさんは


「変化がない?」


 38歳のルエリアさんの外見と全然変わらない。失敗したのか?


「こ、これは。成功しましたわよ康史。この漲る魔力は20代そのもの。ワタクシは若返りましたわ!」


 え? どこが? わかんないんですけど?

 こちらの疑問を余所に浮かれまくるルエリアさん。


「喜ぶのはあとにしてくれ。早くシーカを」

「ええ。もちろんですわ。いきますわよ」


 ルエリアさんは横たわるシーカの前に立つ。


「熱き生命よ。神に与えられし魂よ。いま、死の神から手を離し、その手を再び愛する者へと繋ぎ重ねたまえ。グランドヒーリングエクストリーム!」


 シーカの傷がみるみると癒えていき、顔色も生気を取り戻していく。


「シーカさん! シーカさん!」


 マーヤが必死に名前を呼ぶと


「う……」


 シーカは目を覚ました。

 町民はルエリアさんに喝采を送った。ルエリアさんといえば十年ぶりの大魔法を使ったせいか、座り込んでしまっている。それでも俺に笑顔を向けてくれた。



「みなさん。ルエリアさん。康史様。ありがとうございます。御心配おかけしました」

「傷が塞がり、意識を取り戻したとはいえ、身体には負担が残っていますわ。それに失った血も全て元に戻ったワケではありません。シーカさん、安静にしていてくださいまし」


 シーカはマーヤとルエリアさんに肩を貸してもらっている。

 ジアール町長は何とも言えないような複雑な表情でシーカを見つめていた。


 無理もない。シーカの兄を手にかけた事をバラされたんだ。クラブロスの襲撃だって自分がまいた種のようなもの。

町民の視線が町長に突き刺さっている。深沙央さんも怒り心頭だ。


「あの町長、許せないわ。よくもシーカのお兄さんを。ちょっと殴ってくる」

「深沙央様、やめて下さい」

「でも! クラブロスを吸血魔の討伐隊に売り渡しさえしなければ、王国で裁かれて極刑になっていたはずよ。シーカだってケガをせずにすんだのよ」


 シーカは疲労感でいっぱいの笑顔を深沙央さんに向けていた。そんな顔をされてしまったら、深沙央さんでも黙ってしまう。


「いいんです。ジアールさんは私の恩人です。反省していると言っていました。それに街の外の冒険者たちが心配です。クラブロスの使い魔が消滅したかどうか、確かめに行きましょう。ケガ人だって出ているはずです」


「確認や救助はワタクシたちが行いますわ。シーカさんは旅館で休んでいてくださいまし」


「いいえ。外へ連れて行って下さい。兄ならきっと言うはずです。まずは人々を助けろと。それが騎士の務めだと。さぁ、メグさんやカナル君を迎えに行きましょう」


 シーカの想いを受け止めたのか、かなわないと感じたのか、マーヤは頷き、ルエリアさんは呆れ顔で、シーカを教会の出口に連れていった。


「そこまで言うのなら、殴ったりしないわよ。でも釈然としないな」


 深沙央さんは町長を睨みながらシーカたちのあとをついていく。

 俺だって釈然としない。だけどアラクネたちを迎えに行かなくちゃな。

 歩きだすと、19歳になったツバーシャが俺の服を引っ張った。


「ねえ康史。私、忘れ物したわ。ちょっと付き合ってくれる?」

「なんだよ。忘れ物って?」


 聞いた途端に瞬間移動。そこはジアール町長の頭上だった。


「うわぁぁ!」

「なんだ? ぐえええ!」


 俺とツバーシャは落下。下にいた町長に直撃して押しつぶしてしまった。


「ぐあああ。痛い! ぐああ!」

「シーバ先輩はもっと痛かったはずよ。骨折したかもしれないけど、爆死じゃないだけ良かったわね!」


 悲鳴を上げる町長に侮蔑の視線を送るツバーシャ。


「私の体重だけなら、大した怪我にならないと思って。さぁ康史。シーカたちを追いかけよう!」




 戦いはおわった。偵察員の調べでは山賊のアジトは無人。山賊は全滅したことがわかった。


 そして翌朝。冒険者の親分、キツネメ、カナルは王都に戻る俺たちを街の外まで送ってくれた。


「アンタたちのおかげで街は救われた。感謝しても、しきれねぇ。ところで本当に礼金はいらないのか」

「いいのよ。私と康史君はこの世界を救いにきたんですもの」


 深沙央さんが親分にニコリと答えた。


「神山康史。世話になった。腹の傷を治してくれた恩は忘れん」

「いいって。それにしてもミハサさんがクラブロスだったなんてな」


 キツネメは辟易とした顔を振った。


「メグ。本当にありがとう。次は遊びに来てよ」

「ええ。カナルもお元気で。ほかの冒険者のみなさんにもよろしく」


 三人は街の中へ戻っていく。


「それにしても町長のヤツ、魔法士の治癒魔法を拒否したみてぇだな。自力で治すつもりなのか?」


 アラクネが町長のことを話に出した。ツバーシャと俺の下敷きになった町長は足を骨折していた。それでも魔法に頼らず、不自由な生活を受け入れたのは、彼なりの反省なのかもしれない。

 町長がかつての部下を殺したという噂は町民のあいだに既に広がっていた。これからも町長としてやっていけるのだろうか。


「それでも町長職を続けるだけの根性があるのなら、真に町民の事を考えている男ということですわ。ジアールの評価はこれからですわよ」


 ルエリアさんはため息交じりに、そう言った。

 今回の最たる被害者であるシーカはというと


「私は街が平和になって嬉しいです。それだけです」


 お兄さんの形見である腰の剣を撫でながら笑顔を作る。


「さて、ワタクシも国に帰るとしますわ」


 ルエリアさんは馬にひらりと跨った。背中には大きなカバン。中には魔鉄球。腕には腕輪に変形した魔楯が光る。


「ルエリアさんはクラブロスたちを捕縛しにきたんだよな。倒してしまって悪いことをしたよ」


「いいんですのよ。こうして魔楯や魔鉄球を持ちかえれば、国も凶悪犯を討伐したことを認めてくれるでしょうし。それにしても康史たちが行方不明の魔剣、魔槍、魔鉄槌を所持していたなんて」


「返したほうがいい?」


「いえ。持ち帰ったところで、ろくでもない使われ方をしますでしょうから、今は康史たちが持っていてくださいまし。それはそうと」


 ルエリアさんはマーヤをジッと見た。


「ルエリア、私はしばらく康史さんたちと一緒にいたいの」

「そのほうがいいでしょうね。マーヤの一族は既にワタクシの家の保護下に置いてあります。安心しなさい」

「ありがとうルエリア!」


 馬に鞭を入れようとしているルエリアさんに俺は聞いた。


「吸血魔の国の中から変えることはできないかな。ルエリアさんの力があれば、平和を願っている吸血魔をまとめ上げて、マンティスたちの暴走を止められると思うんだ。平和になれば人間の子も吸血魔の子も一緒に遊べる光景が、世界中に広がると思う」


「康史、ワタクシはただの吸血魔でしてよ」


「ルエリアさんは強くてすごくて優しい人だ。シーカを救ってくれた。これからは色んな人を救ってほしいんだ。きっと、それが出来る女性だと俺は思う」


 なぜかルエリアさんは顔を真っ赤にした。周囲の植物が花開いていく。


「ふんっ。康史には若返らせてくれた恩がありますし。やれるだけのことは、やってみますわ」

「ありがとう」

「まったく。王も康史くらいハッキリした男なら扱いやすいのに。ゴホンっ。では皆さん、ごきげんよう。さて、帰ったら和平派に接触してみようかしら」


 ルエリアさんは馬に乗って駆けて行った。


「それにしても子供に戻った康史君、可愛かったな」


 深沙央さんがつぶやくと、メグさんとツバーシャは頷いた。


「また子供になってよ。そしてお世話させて」

「何言ってんだ。深沙央さん!」

「ガキになって彼女に世話してもらうとか、やっぱり康史はスゲぇヤツだな」


 アラクネが変態を見るような目で俺を見る。あのときはシーカを助けるためだったんだ。変な期待で子供になったワケじゃないんだって。


「クスクス」


 シーカがやっと自然な笑顔を見せた。ま、いいか。


「さて、俺たちも帰ろう。ツバーシャ」

「分かったわ。みんな。手をつないで輪になって」


 ツバーシャの瞬間移動で王都にある屋敷へと戻った。


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