82.過去とあの子とあの子の兄さん
クラブロスは近くにいた子供にハサミを向けた。
ジャキン!
ハサミが開かれ、子供が真っ二つになる直前、町民と共に避難していたマーヤが滑りこんできて、子供を救出する。その拍子にハサミの先端がマーヤの肩を切りつけてしまった。
「よくもマーヤを!」
ルエリアさんは激昂し、花人間の獣人態に変身。クラブロスに蔦を伸ばした。
だが、巨大なハサミに切り刻まれてしまう。
深沙央さんとシーカの同時攻撃。これをクラブロスは両のハサミで捌ききる。
急に避難所で戦闘が始まったものだから、みんなパニックだ。避難所から出ようにも、ではドコに避難すればいいんだということになるから、無理もない。
「やめろ! やめてくれ!」
ジアール町長は懇願する。するとクラブロスは呆れたように町長に返した。
「ジアール。これは復讐なんだよ。キサマの部隊がオレを拘束し、吸血魔の討伐隊に売った。そのせいでオレは胸骨収集の自由を奪われた。だからオレはキサマの大切な町民を殺す。さすればキサマも少しは他人の苦しみがわかるだろう!」
「そんなのは、ただの逆恨みです!」
シーカがハサミを掻い潜り、クラブロスの胸に剣を突き刺そうとした。
跳ね返される。クラブロスの上半身には鎧? ちがう。大きな盾が装備されていた。
それを目にしたルエリアさんの説明が飛ぶ。
「あれが盗まれた魔王13秘宝のひとつ、魔楯ですわ。使いこなせる者は少ないかわりに、使いこなせれば、どんな攻撃をも跳ね返しますの」
「対策くらいあるんだろうな」
「もちろん。これですわ」
それはウォトホッグが持っていた魔鉄球だった。いつの間に回収したんだ。
「秘宝には秘宝ですわ。楯とほかの秘宝がぶつかるとき、一瞬だけ楯の効果が中和されて隙が生じますの。その隙をついて攻撃すれば勝機はありましてよ」
「その鉄球を貸して!」
深沙央さんは魔鉄球をつかむとクラブロスへ走った。
「楯ごと粉砕してやるわ! 1000倍速×魔鉄球=……!」
「そんなもの! オレの力のまえでは!」
鉄球が放たれたものの、大きく跳ね返されてしまった。深沙央さんは背中から壁に激突。鎧が解除されて膝をついてしまう。
「分身を維持しながらだと、さすがにキツイわね……」
「深沙央さん! うおい、ルエリアさん、話が違うぞ」
「単純な力の差ですわ。よく考えなさいな。深沙央はウォトホッグとの戦いで力を消耗しているのですわよ!」
「さて、話の続きをしようか。ジアール」
クラブロスは悠然と町長に向かっていく。
「ジアールさんは殺させません!」
シーカは勇敢にクラブロスに攻撃を加えるが、まったく効果がない。背中への攻撃も同様だ。あれが魔楯の恩恵なのか。
クラブロスはシーカに視線を向けた。
「小娘。なぜジアールの味方をする。その男は部下を捨てゴマにするような男なのだぞ」
「え?」
「オレは捕縛される直前、潜伏先の廃屋で一人の兵士に見つかり、戦った。強い男だった。力はオレが上回っていたものの、男は知略に長けていた。ゆえに戦いも長引いたのだ。続々と男の仲間が廃屋の前に駆けつけてきた」
ジアールに目を向けるクラブロス。ジアールは辛そうな表情で額に脂汗を浮かべている。
クラブロスは続ける。
「オレは、いつ男の仲間が突入してくるかと恐れていた。だが、突入はなかった。ジアールは魔法士へ廃屋への爆破魔法を指示したのだ。自分の部下が中に居るにも関わらず。爆発に巻き込まれ、あの男は死んだ。オレは顔に傷を負い、気を失って拘束されてしまった」
よく見ればクラブロスの顔に大きな傷があった。禍々しいハサミを開閉させながら、震えるジアール町長に歩み寄る。
「どうして部下ごと爆破した? 功を上げるのに焦ったか。オレは問いたい。なぜ胸骨集めは断罪され、なぜ部下を殺したキサマは平和主義者として街を支配しているのだ? オレはキサマが町長をしていると聞き、愕然とした」
シーカの攻撃が止まった。答えを求めるように、必死な眼差しをクラブロスに送っている。
「なんだ? 小娘」
「教えて下さい。アナタとともに爆破に巻き込まれた兵士の名前を」
「忘れもしない。あの男は戦いながら、これ以上罪を重ねるなと何度も語りかけてきた。さすがのオレも、あの男の胸骨だけは奪ってはいけない気がした。男の名前はネイムズ。シーバ・ネイムズだ」
あどけなさが残るシーカの顔が絶望に侵食されていく。そしてシーカはゆっくりと町長に視線を向けた。
「すまない。あのときの私は吸血魔の討伐隊から金塊をもらい、早くクラブロスを捕縛しなければと焦っていた。あのときは、またとない好機だったんだ」
町長は震えた声で答えた。それはクラブロスに向けたモノなのか、シーカに向けたモノなのか、それとも自分は悪くないと言い聞かせているモノなのか分からない。
「あの一件で私は反省した。だからこそ軍を辞め、この街で、人間と吸血魔が暮らす街で、人々の役に立とうと尽力している。ネイムズの家族には金塊で得た金の一部を使って生活面を支え、貴族の養子にした。私は……私は反省している。反省しているのだ!」
「ならばオレは、ここに居るキサマの大切な町民を皆殺しにしてから反省しよう。さすればキサマと同等だ。さぁ、誰から殺せばいい。決めさせてやる!」
ジアールの表情が一瞬で青く染まった。
「うおおおお!」
俺はクラブロスに斬りかかった。魔剣が巨大なハサミと何度も重なる。
「妙な鎧とおかしな剣。そうかキサマがシケーダの言っていた冒険者か」
「冒険者じゃない。勇者だ!」
「キサマのせいでオレは街に潜入するための芝居をうつ羽目になった!」
「俺も聞きたいことがある。魔楯は感知魔法も跳ね返すんだろう。どうして俺の感知にかかったんだ?」
「魔楯は腕輪型にすると本来の力を発揮できない。魔力の一部は漏出してしまうのだ」
あのときミハサの腕にあったブレスレットか。
俺はクラブロスの懐に入った。
楯とほかの秘宝がぶつかるとき、楯の効果に隙が生じる。 魔王の秘宝なら俺も持っているさ。
「波津壌気・治癒効果抜きバージョン! 全開だ!」
魔剣に魔力を絡め、クラブロスの楯に突き立てる。
ガァシシシシシシゥン!
衝撃が走り、魔剣は弾かれて壁まで飛んでいって突き刺さった。
俺はハサミに押されて飛ばされる。
「くそっ。せっかく攻撃のチャンスが出来たっていうのに!」
「大丈夫ですの康史? ここに多くの植物があればクラブロスの動きくらいは封じられますのに」
「植物さえあればいいんだな。ツバーシャ! 街の隅にある植物園を知っているか?」
「ええ。昨日、この街は一通り見て回ったわ。あの吸血魔を瞬間移動させる気なの? 魔楯の力で跳ね返されてしまうわ」
「大丈夫だ。また魔楯を無効化させることはできる」
このあいだにも、クラブロスは町長の前に立っていた。
「今日は囮に使える部下はいないのか? オレは誰から殺せばいい? 町民は殺すがキサマは生かしておいてやる。キサマの胸骨に興味はないからな」
俺には魔剣以外にも秘宝がある。シルクモルスとの戦いで得た魔槍だ。アイテムバッグから魔槍を取り出した俺はクラブロスに一撃を加えようとした。
秘宝と秘宝がぶつかりあって衝撃波が走る。魔槍は弾き飛ばされたけれど、これで魔楯の効果は少しの時間だけ消える。攻撃が通じる。
そのときだ。
「ええいいいっ」
シーカの剣がクラブロスの傷ついた顔面を斬り裂いた。古傷が再び鮮血をあふれさせる。
「グギャニアァァァ! 顔がぁ!」
「今です。康史様!」
「おのれぃ! 小娘が!」
凶悪なハサミがシーカの腹部を斬り裂いた。血が飛び散る。
「シーカ!」
「この吸血魔を、やっつけて下さい……」
シーカはその場で崩れ落ちた。




