79.ワタクシ、ああいう輩は好きになれませんの
そして夜が明けて山賊との決戦の朝がやってきた。
偵察役の情報だと、ネズミ兵の大群が街に向かって進軍中とのことだ。
「みなさん、どうかこの街をお守りください。中立街は平和を願う人間と吸血魔の最後の砦です。ここが壊されれば行き場のない者は路頭に迷い、王国や吸血魔の国に帰れる者も、いずれは望まぬ戦いを強制されることでしょう」
ジアール町長は戦いに臨む俺たちと冒険者に言葉をかけた。
「中立街を山賊から救ってください。人種を越えて手を取りあう者たちの居場所を維持するためにも。この街は、これからの世界に必要なものです」
ジアール町長は頭を下げ、冒険者の親分の手を取った。
街は物々しい雰囲気だ。もしも俺たちの防衛網が突破されたら……不足の事態に備えて、町民はこの街にいくつかある教会に避難を始めている。教会は一番頑丈な建物なんだそうだ。
「神山康史といったな」
深沙央さんと防衛戦の準備をしているとキツネメが現れた。
「昨日はオマエと仲間たちを侮辱して、すまなかった。山賊を必ずや倒してきてくれ。仲間のことは頼む」
「キツネメは戦わないのか?」
「オレは町民の守るために街に残ることにした」
「へぇ。副長のオマエがどうして?」
「いや、その……」
なんだか言いにくそう。そこへ
「神山康史様と巫蔵深沙央様ですね」
昨日助けたミハサさんだ。傷跡を隠すための、顔に巻かれた包帯が痛々しい。だけど昨日よりは元気そうだ。
「お二人は勇者様だと聞きました。お二人とも街の外で山賊と戦うのですか」
「ええ。話は聞いたわ。ミハサさんに酷いことをした山賊は必ず倒すから安心して」
「街には一歩も踏み込ませないよ」
「それは良かった。ウォトホッグは強敵です。必ずやっつけて下さい」
そう言うとミハサさんは去っていった。そういえば顔の傷のこと、まだルエリアさんに相談してなかったな。
そのとき俺は気付いてしまう。
「キツネメ、そういうことかよ」
「うっ」
「守ることも立派な戦いだと思う。ミハサさんのことは任せたぞ」
「感謝する」
キツネメは赤面すると、ミハサさんを追いかけていった。
「さて、ルエリアさんを探すか。あ、いたいた」
俺は戦いの準備を進めるルエリアさんに声をかけた。
「戦いが終わったら相談に乗ってほしいことが」
「なんですって!」
なんだかイラついてらっしゃる。スカートの中からトゲのある植物がはみ出している。足元の雑草もウネウネと蠢いている。どうしたことだ。
「あら。これは失礼。ジアールの言葉を聞いていたら、気が立ってしまいましたわ」
「怒る要素なんてなかっただろう。良い町長じゃないか」
「それが癪に障りますのよ。あの男のかつての愚行を知るワタクシにとっては!」
「一体なにがあったんだよ」
「あの男はかつて王国軍のクラブロス討伐隊の隊長でしたの」
その話はシーカから聞いていたけど、町長が隊長ということまでは知らなかった。
シーカのお兄さんも討伐隊に所属していて、クラブロスを捕まえる際に殉職してしまった。町長はお兄さんの上司だったのだ。
「それが何か?」
「ジアールは吸血魔の討伐隊から金塊を受け取って、一度は捕まえたクラブロスを故意に逃がしましたの」
「なんだって?」
「数年前、ワタクシは実家の財務管理を行っておりましたわ。なんせウチは大貴族。あらゆる事業に手を出していますの。当時ワタクシは金庫から金塊が消えている事に気付きました。そこでお父様を問い詰めたのです」
「ふむふむ」
「お父様は親友であり吸血魔からなるクラブロス討伐隊の隊長に融資したと白状しました。さらに、その隊長を絞め上げて、いえ、聞き取りをしたところ、王国の討伐隊の隊長に渡したというではありませんか!」
俺は町長をチラリと見た。教会に避難する町民に声をかけて勇気づけている。
ルエリアさんは続けた。
「吸血魔の討伐隊長は危険な任務をしたくない。部下を失いたくない。でも凶悪犯を捕まえなくてはならない。でもクラブロスは人間側に捕らわれてしまった。それでは面子が立たない」
「それからどうした?」
「そこで金塊を王国側の討伐隊長に渡すことで、わざとクラブロスを逃がしてもらい、吸血魔サイドがクラブロスを捕まえることに成功したのですわ。これにて凶悪吸血魔は吸血魔が裁くことが出来たというワケです」
「なるほど」
「ジアールは金塊で凶悪犯を売ったようなものですわ。ワタクシ、ああいう輩をは好きになれませんの」
「その話は本当ですか」
シーカが話を聞いていた。深沙央さんにも聞こえていたのか、ルエリアさんをジッと見ている。
「ワタクシは嘘なんてつきませんわ」
「もしジアールさんがクラブロスを逃がしたりしなければ、兄は犯人逮捕の功労者に成り得たということですよね。でも意図的にクラブロスは逃走させられた。兄はただの殉職者として弔われた……」
「シーカ!」
「すいません。取り乱しました。戦いの準備を致します」
シーカは半ば呆然としたまま、街の入口のほうへ向かっていった。
街の正門は深沙央さんたちと冒険者が守りを固めている。
「それで、どうしてワタクシが裏門の守備ですの?」
山賊は意表をついてくるかもしれない。正面にやってくる山賊が全軍とは限らない。
そんな深沙央さんの発言を受けて、山賊のアジトから遠く離れた裏門にもメンバーを配置することになった。ルエリアさんとアラクネだ。
裏門の外はしばらく空き地になっていて、そのさきは雑木林のあいだを道が貫いている。
俺は言った。
「ルエリアさんは花ネズミを使役できるから、一人で一部隊扱いだからな」
「それにしたって」
「正面の深沙央さんの分身部隊と一緒だと、今度は裏門が手薄になるし」
不満げなルエリアさん。ちなみに俺とツバーシャは瞬間移動を生かした連絡要員だ。
「ルエリアはともかく、どうしてアタシまで裏門の警備なんだ」
アラクネが不貞腐れる。
「オマエの戦い方は粗雑なんだ。ほかの冒険者に迷惑がかかるだろ」
「アタシのどこが粗雑なんだ」
「ハンマー振り回して電撃を乱発射するところだよ」
「ブぅー」
口を膨らませるアラクネ。そんなことやったって可愛くありません!
「見て康史! なにか来たわ!」
「波津壌気・感知! 上級の吸血魔とネズミ兵だ!」
ツバーシャの言うとおり、やってきたのはヘラジカ人間の吸血魔とネズミ兵の大群だった。




