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77.彼女vs令嬢 真夜中の決闘

「私……聞いてしまったんです。山賊が街に総攻撃を仕掛けるって。明朝と言ってました。私……怖い」

「だだだ、大丈夫だ。このキツネメがアナタを必ず守る!」


 男らしいセリフを吐きだすも全身真っ赤にして震えているキツネメ。意外とウブなのね。

 それにしても山賊の総攻撃だって? これでは攻守が逆転だ。もし知らずに明日を迎えていたら大変なことになっていた。


「ところで顔の包帯のことだけど」


 俺の波津壌気なら傷を治すことができる。そんな想いで聞いた。すると


「これは昔に負った傷跡を隠すためのものです。医者に言われました。一生消えないものだって」


 そうだったのか。深沙央さんが以前言っていた。治癒魔法や波津壌気は傷病者の治癒力を強くして、回復時間を加速させるだけのもの。よって致命傷のようなものは、どうやっても助けることはできない。

 傷跡というモノも、本人の治癒力の限界を超えているから波津壌気でも回復できないと思う。

 ルエリアさんは致命傷でも治したことがあると言っていたな。傷跡も治せるかもしれない。あとで相談してみよう。


 ミハサさんは沈んだ様子だ。余計なことを聞いてしまった。


「さぁ、街の中で身体を休めましょう」


 キツネメがエスコートを始めた。


「良いのですか。私は吸血魔です。人間の血は飲んだことありませんが」

「ならば大歓迎だ。さぁ御一緒に」


 俺たちは街の入口へ歩きだした。




 ミハサさんがもたらした山賊総攻撃の情報は深沙央さんや町長を驚かせた。

 夜になり、冒険者との打ち合わせでは、街の外で待ちかまえての迎撃戦が計画された。

 そして各々が明朝に備えて準備することになった。


 打ち合わせが終わってから一時間後。


「本当にルエリアさんと戦うの?」


 俺は街の入り口でルエリアさんとの決闘に向かう深沙央さんに聞いた。


「当然よ。挑まれちゃったんだから」

「でも明日は山賊が攻めてくるっていうのに」

「だからこそだ。ここでぶちのめして、どっちが上か分からせんだよ。そうすりゃ明日には手足のように働くってもんだ」


 アラクネは楽しそうに笑った。


「アラクネも行く気か?」

「もちろん。面白そうじゃないかよ」


 メグさんたちには明日に備えて休んでもらっている。アラクネも留守番していればいいのに。

 ルエリアさんは上級の吸血魔だ。強い。深沙央さんも強い。だからこそ、大変なことにならなきゃいいけど。


「そんな不安な顔をしないで康史君。大丈夫よ。あの子たちにも協力してもらうから。先に街の裏口から山に向かってもらったわ」

「あの子たちって。まさか」


 深沙央さんとアラクネは決闘場所である東の山へ足を進めた。


「それはそうと一応、波津壌気・感知……あれ?」

 夜だし、周囲に敵の気配がないかと探ってみたけれど。深沙央さんに報告しておこう。



「どうやら逃げ出さなかったようですわね」


 東の山の頂上付近は平たくなっていた。周囲は木々が生い茂っているけど、決闘するのに不自由はなさそうだ。

 ルエリアさんは俺とアラクネを一瞥した。


「そちらの方々は?」

「アタシは見物人だ。二人とも思いきりやれ!」

「俺は一応……」

「気にすることはないわ。私とルエリアの一騎打ちよ」

「それならよろしくてよ。では始めましょう」


 ルエリアさんは妖艶な花をまとった吸血魔に変貌した。


「これがワタクシの戦闘形態。さらに!」


 周囲から白いネズミ兵が湧いて出てきた。


「これがワタクシの使い魔、花ネズミ組。卑怯だとは思わないでくださいまし。これもワタクシの能力のひとつなのですから」

「卑怯なんて思ってないわよ。私も全ての力をルエリアにぶつけるわ。セミテュラー! 決闘の鎧よ、顕現せよ! マリンダンサー!」


 深沙央さんは水を操る深緑の鎧を装着した。


「さらに! みんな、出てきて!」


 茂みから出てきたのは……深沙央さんの分身30人だった。

 やっぱり分身たちを用意していたんだな。ルエリアさんは驚愕の声を発する。


「な、同じ顔の人間がたくさん!」

「そりゃそうよ。私の分身なんだもの。ルエリアだって使い魔を出してるくせに」

「そ、それもそうですけど。でもワタクシの花ネズミ組のほうが上ですわ。なんと使い魔なのに掃除洗濯炊事はもちろん、御裁縫や文字だって書けますの」

「私の分身なんて家事全般、お使いに緊急連絡網、宿題やお喋りだってできるわ」

「なんですって。お喋りも?」

「できるわよね、みんな」

「もちろんであります。本物殿」「できるよ」「できますよね」「できるよー!」「いかにも」

「私、やればできる子だもん!」「早口言葉言えるよ」「御挨拶もできるよ」「時計も読める」


 ルエリアさん。戦闘形態でも驚いているのが目にとれる。


「な、何よ。ワタクシと使い魔は以心伝心。言葉なんてなくても身振り手振りで」

「私の分身は手話、手旗信号、狼煙、壁を叩いてモールス信号。メールだって打てるわよ」


 それはすごいな。あ、メールは誰でもできるか。

 分身を見ていたら、その中の一人と目があった。まさか、キミは……


「お久しぶりです。お兄ちゃん。あのとき助けていただいた分身です」

「エッチ乙ちゃんか!」


 要塞を攻め落とすときに一緒に戦った深沙央さんの分身ちゃん。あのときの俺はなにも出来なくて、エッチ乙ちゃんに助けてもらってばかりだった。


「再会できて嬉しいよ」

「私もです。実はエッチ乙、お姉ちゃんの中で分身隊長やデュラハンさんから剣術を教わってパワーアップしました」

「え……分身って深沙央さんの中で、そんなことができるのか?」


 以前、深沙央さんと同化していたアラクネは、深沙央さんの心の中をカオス動物園と揶揄していた。本当のことだったのか。心理学者もビックリだ。


「私はお姉ちゃんから見れば144分の1の力のままですが、技量面では成長しています。これからは『1/144HG(エッチ乙・技量面向上)』とお呼びください」


 ルエリアさん、わなわなと震えている。


「深沙央でしたわね。貴女は自慢しに来たのですの?」

「そういえば。よし、じゃあ始めましょうか」

「後悔させてあげますわ!」


 ああ、ついに決闘が始まってしまった。

 花ネズミ兵と分身ちゃんたちの乱戦。その中をマリンダンサー深沙央さんがルエリアさんへ迫っていく。


「来ましたわね! これでも食らいなさい!」


 ルエリアさんは花の吸血魔。腕から蔦を伸ばして深沙央さんの捕えようとする。


「水転迫刃・重弾幕の陣!」


 マリンダンサーの周囲には幾つもの、手の平サイズの水の円盤が出現した。その全てがノコギリ状の刃がついていて、高速回転している。

 宙を舞う刃はルエリアさんの蔦を掻っ切った。


「水の魔法? いいえ、魔法ですらありませんわね。ならば高速攻撃で」


 腕から蔦を伸ばし、今度は深沙央さんのうしろの木に絡めた。さらに蔦を縮めて木に向かって高速移動を始める。さらに別の木に蔦を伸ばして、縮めることで高速移動し……

 これを繰り返すことで、ルエリアさんは縦横無尽に深沙央さんに迫った。


「どうですの? 翻弄させられる気分は!」


 さらに蔦を上空へ伸ばした。大きな木の枝へ蔦を絡ませて縮める。


「こうやれば、敵の頭上も捉えることができましてよ!」


 山を決闘場所に選んだのは、このためだったのか。

 さらに身体から種のような物がばら撒かれた。地面に落ちると深沙央さんを巻き込んで爆発した。


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