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73.混浴で全裸の女が隣に来た

「親分! ただいま。強い人たちを連れてきたよ」

「カナル! 無事だったか!」


 カナルの案内で俺たちは町長の執務室に通された。冒険者のリーダーである親分は、キツネメとは違って良い人そうだ。


「よくぞ商人を守ってくれました。礼を言います。町長のジアールです」


 奥から出てきた壮年の男が頭を下げてきた。


「たしか異世界から来た勇者様でございますね」

「俺たちを知っているんですか」


「ええ。水晶通信で各地の商人と連絡を取り合っていますので。まさか実在されるとは。あなた方が来てくれたのであれば、この街も救われます」


「町長さん。山賊が吸血魔と組んでいるっていうのは本当のようね」


 深沙央さんが机についた町長に聞いた。


「ええ。なんでもウォトホッグという吸血魔と結託したようです。ウォトホッグは多くの使い魔を行使するため冒険者でも山賊の壊滅が出来ず、この街を守ることが精いっぱいでした。これまで中立を主張していたので王国軍にも頼れない状況です」


「ワシらだけでは、どうにもならん。不甲斐ねぇったらありゃしねえ」


 親分の申し訳なさそうに、ジアール町長に視線を向ける。


「温泉はあるものの戦争の長期化で観光客は減る一方。さらに山賊の襲撃。この街にも農場はありますが、商人が来てくれなければ物資が不足します。しかし山賊はこの街に来る商人すら標的にしています。あなたたちは商人を守ってくれた。ありがとうございます」


 町長と親分は再び俺たちに頭を下げた。深沙央さんは言う。


「ねえ町長さん。私たちは山賊を倒しに来たの。ヤツらの根城を教えてくれないかしら。今すぐ乗り込みに行くわ」


「それはなんとも勇ましい。ですが夜になれば別の商人の護衛を任せた冒険者も帰ってきます。その者たちと合流し、明朝にでも冒険者一同と山賊退治をして頂くほうが得策だと思うのです」


 町長の言葉に、親分は深沙央さんと目を合わすと力強く頷いた。


「たしかに人手があったほうが有利ね。わかったわ。よろしくね親分さん。カナル君」


「よっしゃ。そうと決まれば仲間が戻り次第、打ち合わせしようじゃねえか!」


 親分は手をパシンと叩いた。俺は町長に質問した。


「あの。街の外で吸血魔化した動物と戦いました。ウォトホッグは動物まで吸血魔にしてしまうんですか?」


「さて、そこまでは分かりかねます。それに関しては吸血魔の国から来た討伐士の方のほうが詳しいかもしれません」


「討伐士? そんな職業もあるんですか」


「ええ。夜の打ちあわせには顔を出すかと。今ごろは旅館の温泉で身体を休めている頃でしょう。そうだ。勇者様たちも温泉に入っていってください。街は冒険者が守りますので」


「やった! 温泉だ!」


 アラクネが喜ぶ。遊びにきたんじゃないんだけどな。でも深沙央さんやメグさんもニコッとしだした。だったら町長に甘えて温泉を楽しもうかな。

 温泉、明日の決戦、メグさんとカナルの再会。騒ぎ立つ執務室でシーカは町長にゆっくりと近づいていった。


「お久しぶりですジアールさん。私、シーカ・ネイムズです」

「ネイムズ! まさかシーバ・ネイムズの妹さんか!」

「はい。兄の葬儀以来になります」

「立派になったな。ネイムズは優秀な部下だった……」


 二人は知り合いだったのか。ん?


「あの子が、シーバ先輩の妹……」


 ツバーシャがシーカのことをジッと見つめていた。



 案内された旅館の温泉は男湯、女湯、混浴に別れていた。


「え~! 若返りの湯は混浴にしかないの?」


 深沙央さんが残念そうにつぶやく。


「深沙央様、別にいいじゃありませんか」

「女湯に入りましょう」


 シーカたちに促され、女湯へ向かう深沙央さん。


「康史は混浴に入るのか?」


 アラクネがそう言うと、深沙央さんたちが一斉にこちらへ顔を向けた。


「バカ言うんじゃない。男湯があるんだから混浴なんかに入るかよ」

「そうなのか。ふーん。女湯を覗くなよ」

「覗かねえよ!」


 女性陣は女湯の暖簾をくぐって消えていった。

 さて、温泉なんて久しぶりだ。まさか異世界にも存在するなんてな。


 俺は男湯の暖簾に手をかける。そこでピタリと止まった。混浴の入口に目をやる。女湯は……誰も戻ってきていない。俺の熱き視線が再び混浴に吸い込まれる。


「いや、なにも混浴に入る事ないじゃないか。屋敷では女子ばかりでグッタリしていたくらいだし。温泉くらい男だけで足を伸ばしたいよな。うん」


 混浴に入りました。


「わかってたよ。誰もいないよ。昼だから男だっていないよ。あーあ……落ちつく」


 さすが温泉。一人でも癒される。

 大きな温泉に、ところどころに大きな石。まるで日本の温泉みたいだ。これだけ趣のある温泉なら平和になりさえすれば観光客が押し寄せるだろうな。


 中立街。街に入ったとき、波津壌気・感知バージョンで軽くあたりを探ってみた。すると多くの吸血魔の気配を確認できた。人間と吸血魔が仲良く暮らす街。


 この街を吸血魔の山賊が襲おうとしている。


「そういえば吸血魔の国から討伐の人が来ているって言ってたな」


 山賊を倒しに来たってことは、吸血魔の国の住人も善悪の判断ができるってことだ。それもそうだ。きっと戦争を是としているのは国のトップだけなんだろう。


「討伐士ってどんな人なんだろう」

「呼びました?」


 あと、まさかシーカのお兄さんとツバーシャの先輩が同一人物だったなんてな。先輩はツバーシャの初恋の人で、俺と少し似ているそうだ。するとシーカにとって俺はお兄さんに似ていると……


「あなた、この私を呼んではなくて?」

「え? うわああ?」


 温泉の真ん中にある大きな石の裏側から、肩まで浸かった状態の女の人が近寄ってきた。


「なぁ! 女の人!」

「ここは混浴ですわよ。当然でしょうに」


 20代前半のお姉さんに見えた。肩まで浸かっているものの、タオルは巻いていない。全裸だ。俺が驚いて距離を取ると、ズズズ……と近寄ってくる。


「なぜ全裸がここにるんだ。そしてなぜ幅寄せしてくる!」


「ここは温泉ですもの。服だって脱ぎますわ。若返りの湯は混浴だけですし。それに私のことを呼んだでしょう」


「呼んだ? この温泉の効能は無意識下で異性を求める青少年の願いを叶えてくれる素敵な泉なのか!」


「何を言ってますの? さっき呼びましたでしょう。討伐士って」


 すると、この人が討伐士なのか。


「お姉さん、本当?」


「フフ。お姉さんって良い響きですわ。あなたは冒険者? いえ、そんな雰囲気ではありませんわね。すると駆け出しの初心者ってところでしょうか。まぁ、ワタクシが来たからには山賊なんて壊滅させて差し上げましてよ」


 お姉さんは胸を張った。いや、張らないでくれ。目立つ。まるで海面から浮上する二頭の白いクジラのような夢の塊が、俺の目の前で柔らかな波をたてて俺の柔肌を刺激する。


「すごい……」


 思わず見とれていると、お姉さんはフフンと鼻を鳴らした。


「私のすごさを一目で見抜くなんて、初心者にしてはやりますわね。その通り、ワタクシはすごい。いずれ吸血王の妃となる女なのですから!」


 え? 王の妃?


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