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71.彼女 山賊退治を引き受ける

 ツバーシャとのデートから二日後のこと。


 俺と深沙央さんとメグさんは一緒に朝市で買物をしていた。偶然にも人混みに遭遇、見てみると冒険者風の少年が倒れていた。中学生くらいの男子だ。


「カナル! カナルではないですか!」


 メグさんはカナルという少年を抱き起した。

 よく見ればケガだらけ。憔悴しきっている。


「康史さん、深沙央さん。カナルはかつての冒険者仲間です。どうしてこのような事になったのか分かりませんが……」

「事情はあとだ。ケガは俺の波津壌気で治せる」

「過労と軽い栄養失調のようね。今すぐ屋敷に運びましょう」


俺たちは彼を担いで急いで屋敷に戻った。

 

 それが三時間前のこと。今、カナルが目を覚ました。


「ここは……」

「カナル。私のことがわかりますか。何があったのですか?」

「メグ? メグなのか! 中立街が大変なんだ!」

「その前に!」


 深沙央さんが話に割り込む。


「食事にしましょう」



 カナルはリミッター解除した掃除機のような勢いで昼メシを食べはじめた。


「治癒魔法や波津壌気では栄養失調までは治せないわ。たくさん食べて元気になってね」

「あ……ありがとうご……ざいます!」


 頬張りながら、深沙央さんに礼を言うカナル。

 食事を終えて落ちついたのか、傷が治っていることに気付いたカナルは改めて俺たちに頭を下げた。


「それでカナル。何があったんですか? 中立街が関係しているみたいですが」


 メグさんが聞くとカナルは追いつめられた表情に戻った。


「僕は中立街で冒険者として雇われていたんだ。中立街は何年も前から山賊に狙われていて、町長は冒険者を雇って守りに当たらせていたんだよ。でも山賊は数ヶ月前から吸血魔と手を組んで戦力を強化させた。手先には使い魔もいるんだ」


 それは厄介だな。使い魔のネズミ兵は一度倒したとしても、主たる吸血魔次第で再び生まれてしまう。ネズミ兵を生み出せるほどの吸血魔なら上級だろうから、なおさら厄介だ。

 それと


「メグさん、中立街って何?」

「中立街は善良な人間と吸血魔が暮らす街です。王国と吸血魔との戦争には参加せず、中立を主張しています。それゆえ王国、吸血魔の国ともに良好な関係とは言えません」


 そんな街があるんだな。カナルは続けた。


「山賊の襲撃が激しくなって街の冒険者だけでは手に負えなくなってしまったんだ。そこで町長は王国軍に支援を要請したんだけど……」

「受け入れてもらえなかったのね」


 深沙央さんの言葉にカナルは頷いた。


「そこで僕が直接掛け合おうと思って王都までやってきたんだ。親分には無理だと止められたけど、たいして強くない僕なら街を出ても戦力は変わらないと思ってさ。でも結果は」

「やっぱりダメだったのね?」

「うん。王都の冒険者ギルドにも行ったよ。でも、町長の依頼ではないからって断られたんだ」


 カナルは悲しそうに黙りこんでしまった。

 王国軍が援軍を出さない理由は分かる。吸血魔の国と戦っているご時世だ。中立の街を助ける余力も義理もないんだろう。街が王国の味方をしてこなかったことが裏目に出たか。


 メグさんは意気消沈するカナルの頭をそっと撫でた。


「ねぇ、メグ。どこかに正義の味方のような冒険者はいないかな? 僕が礼金を稼ぐまで待ってくれるような人。僕はあの街でたくさんの知り合いが出来た。雇われ者だけど、街のみんなは良くしてくれた。今にでも山賊に襲われていると思うと……」


 涙があふれそうな瞳でカナルはメグさんに助けを求めた。

 事の重大さはわかった。だからこそ軽はずみな発言は出来ない。だからこそ沈黙が包む。普通だったら。


「じゃあ、これから山賊をやっつけに行きましょう」


 やっぱり深沙央さんだ。


「え? お姉さんたち冒険者なの? それとも冒険者集団の知り合いがいるの?」

「もっといいモノよ。それじゃあ準備をしましょうか。康史君、ツバーシャは中立街まで瞬間移動が出来るかしら?」

「聞いてみないとわからないな。これから会いに行ってみるよ」

「よろしく。上手くいけば今日中に着けるかもしれないわね。カナル君、疲れているところ悪いけど案内よろしくね」


 カナルはワケがわからないという眼差しをメグさんに向けた。


「大丈夫ですよ。このお二人に任せておけば」


 俺はカナルの肩を叩いた。


「俺の彼女はとっても強いんだ。キミの大切な仲間をきっと助けてくれるさ」


 本心は俺が助けてやるって言いたいんだけどね。

 俺は深沙央さんを見やる。やる気満々であることが伝わってきた。



「中立街? 知っているわよ。温泉で有名な観光地でもあるわね」

「よかった」


 俺はツバーシャに会いに行き、事情を話した。


「私は記憶にある場所なら瞬間移動が出来るわ。軍に入隊した頃は能力を生かすために国中を旅させられていたの。でも弾丸旅国だったから街の入口までしか知らない。街の中までは見ていないわ」

「それでも感謝ものだ。……それにしても」


 それにしてもツバーシャは子供の体型に戻っていた。


「どうして19歳の身体じゃないんだ! ほんの二日前だぞ!」

「昨日は嬉しくて瞬間移動でお母さんに会いに行ったり、先輩と過ごした小山に行ったり、買物に行ったりしていたのよ。今朝起きて自分でも驚いているのよ!」

「だったら俺も連れて行けよ! 俺と一緒なら能力を使っても幼児退行しないんだから。昨日暇だったんだぞ!」

「恥ずかしくて一緒に行こうなんて言えないわよ。康史には彼女がいるんでしょ。暇って何? 彼女とイチャついてるんじゃないの?」

「う……」

「なによ」

「だって、屋敷には……みんながいて、その、イチャつけないんだよ!」


 くそぅ。屋敷では深沙央さんは女の子に取られるし。ツバーシャは瞬間移動のリバウンドで10歳くらいに戻ってしまうし。


「悪かったわよ」

「え?」

「行けばいいんでしょ。中立街。早く康史の家に行くわよ」



 屋敷の庭ではみんなが準備万端で待ちかまえていた。


「深沙央さん。パティアたちは?」

「それがね。この前の避難訓練をサボったことで中尉から叱られて、罰として軍本部の掃除を任されたそうなの。一週間も。だから抜けられないんですって」


 ありゃ~。そうでなくても軍人だから中立街の案件には関われなかったかもな。


「中立街には温泉があるんだってな。楽しみだな!」


 アラクネ。遊びに行くんじゃないんだぞ。


「あの……?」


 カナルが不安そうに聞いてきた。


「馬車が見当たらないよ。それにここから中立街は馬で一ヶ月かかるんだ。僕にとっては馬に逃げられて夜盗にも襲われてボロボロになってしまうくらいの過酷な道のりだった。長旅をするわりには軽装だと思うんだ」

「それなら心配ないさ。このお姉さんが、あっという間に連れて行ってくれるはずだ」

「お姉さん?」


 俺の隣にいるツバーシャを見て首を傾げるカナル。混乱するのも無理ないか。


「康史。中立街に跳ぶのは何人なの?」


 小さなお姉さんであるツバーシャが俺を見上げる。

そうだな。俺と深沙央さん、カナルとメグさんはもちろん、戦力としてアラクネ、吸血魔もいる街ということでマーヤ。それに中立街に知り合いがいるから是非行きたいと頼みこんできたシーカ。


「ツバーシャを含めて八人だ。でも、どうやって跳ぶんだ?」


 俺と瞬間移動するときは手をつないでいた。大人数のときはどうやるんだろう。


「みんなで手をつないで輪になるのよ。必要な物資は身につけるか、輪の中心に置いてちょうだい」


 なるほど。そうやって大移動できるわけだ。改めてすごい能力だな。


「じゃあ、みんな。輪になろう」


 互いに手をつないで輪を作る。こんなの幼稚園のとき以来かな。


「康史様、深沙央様、みなさん、ご武運を」

「お姉ちゃん、気をつけてね!」

「お兄さん、女湯を覗いちゃダメっスよ!」


 エリット、シーラ、スワロッテが手を振る。女の子やマミイラも出迎えに来てくれた。


「それじゃあ行くぞ! ツバーシャ!」

「ええ。跳ぶわ!」


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