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70.炎上 デートの結末

 前回までのあらすじ

 ワクワク王国ランドに現れた馬面の兄弟はシマウマ人間の吸血魔だった。

 俺は避難訓練の係の人かと思ったけど違った。


「順番が前後してしまったが、ここで一暴れしてやろうぞ!」


 吸血魔のゼブラスが声高に叫ぶ。

 遠くではお客さんが平然と歩いていた。避難の指示が行き渡っていないのか。


 ゼスカルのほうは馬並の速度で客に迫った。だけど、弟はピタリと足を止めた。


 弟の視線を追う。縦横無尽に歩きまわる客の中で、一人だけ異常な殺気を発散させながら一点を見つめる少女がいた。

 その名は深沙央さん。俺の彼女だ。


 深沙央さんの怒りの眼差しは吸血魔に向けられて……いなかった。

 視線の先にある物は、さっき割れたくす玉。そこから垂れ下がる『祝! ベストカップル賞』の幕だ。


 深沙央さんは吸血魔に気付いたのか、走り出すと鎧を装着して弟を殴りだした。

 まるで八つ当たりをするかのように。


「なんなのだ。あの鎧の戦士は。弟の危機的状況であるぞ!」


 兄のほうも参戦し、深沙央さんは1対2になってしまう。


「おーい!」


そこへやってきたのはアラクネだ。丁度いい所に来てくれた。


「康史、酒はどこにあるんだ?」

「知るかっ!」


 こちらに深沙央さんが吹き飛ばされてきた。やっぱり二体同時は厳しいのか。


「深沙央さん、俺たちも戦う」

「別にぃ、いいでスよぉ。二人はベストカプっルなんらから、ヒック。どうせ私だけ戦っていればぁ、いいんだよぉ、うわぁぁぁん!」


 どぉん! 

 深沙央さんは地面を叩き、穴をつくり、立ち上がればフラフラと歩きはじめた。


「あの足取りは、酔っぱらっているのか」

「深沙央のヤツ、今ごろ酔いがまわったのか」

「アラクネ、深沙央さんに酒を飲ませたのかよ」

「あの程度で酔えるなんて羨ましいな」


 酔っぱらった深沙央さんは、覚束ない動きで吸血魔に迫った。


「この戦士の動き、全く予想ができん。一体どこの流派なのだ」

「でもオレと兄ちゃんの絆の力は」

「誰にも負けることはない!」


 二体は腰の剣を抜き放つと、息のあった連携剣撃を繰り出した。

 これに深沙央さんの変身は解けて膝をついてしまう。


「よし、我ら兄弟は無敵だ。この調子で王を狩りに行くぞ」

「ところで王様ってどこにいるんだろうね」

「一番奥に貴族が住んでいそうな屋敷があったな。きっとそこに違いない。乗り込むぞ」

「さすが兄ちゃんだ!」


 何故か、吸血魔たちは貴族になりきれる施設のほうへ向かっていった。


「深沙央さん!」

「落ちつけよ深沙央。いつものテメぇなら勝てる相手だぞ」


 俺とアラクネは深沙央さんに肩を貸した。だけど深沙央さんは振りほどくと佇んでしまう。


「えっと、深沙央さん?」

「何よ何よ。今日はつまんない。ヒック。ボートとか。パレードとか。王子様とお姫様とか。ベストくっプルとか。花輪とか。ヒック。あー、みんな無くなってしまえばいいのよ!」

「あの、花輪、欲しいならあげるよ?」

「……………………怒った」


 深沙央さんは吸血魔を追いかけた。


「今日私は、二年間封じてきた禁断の変身を遂げる!」

「やめとけ! あれは制御不能だったろうが!」


 アラクネが血相を変えた。なんなんだよ。


「深沙央は暴走形態に変身するつもりだ。全てが壊されるぞ!」

「なんだって?」


「今の私ならやれる! と思う! セミテュラー! 敵城塞完全破壊の鎧よ、顕現せよ!」


 深沙央さんは聖式魔鎧装を召喚装着した。それはいつもの鎧・ソードダンサー。そこから、さらなる変身を遂げた。足甲が拡張、手甲が増加、肩部が展開、兜が変形、色彩変色……

 とにかく大きくなって三メートルほどのゴリラのような体型の鎧戦士に変貌を遂げた。

 腕が太い、黒っぽい、なんだか怖い。


「ぐがああああああ!」


 深沙央さんは暴走特急のように吸血魔たちを追いかけた。


「まずい。自我を失ってる。康史、追いかけるぞ!」


 俺とツバーシャ、アラクネは全力で後を追った。




「ぐおおおおん!」


 深沙央さんは吸血魔二体と戦っていた。大振りな拳が周囲を破壊していく。

 これでは吸血魔の脅威よりも、器物損壊の被害のほうが大きい。

 お客さんは逃げ惑っている。俺は彼女の変貌に戸惑っている。


「アラクネ! いつもの状態に戻せないのか?」

「大きな衝撃を与えれば戻せるはずだ。康史、頑張れ!」

「どう頑張ればいいんだ!」


 吸血魔も困ってるっぽい。


「なんなのだ、この狂戦士は」

「あんなに腕を振り回されちゃ、攻撃できないね」

「弱気になるな弟よ、兄に名案ありき」

「さっすが兄ちゃんだ」

「明日努力すればよいのだ。一時撤退」

「オレらシマウマだから早いもんね」


 吸血魔たちは逃げ出した。


「逃がすものかあぁぁ!」


 深沙央さんは追いかけると大きな右手で兄を、巨大な左手で弟をつかんだ。

 だけど急には止まれないのか、まだ走ってる。


「つかまっちゃたね、兄ちゃん」

「ぬう。こうなれば、昼間に仕込んだ爆弾型マジックアイテムを爆発させて狂戦士に隙のつくるのだ」

「その隙に攻撃するんだね」

「いや、今日はもう逃げよう」


 止まる気があるのか、ないのか。吸血魔と深沙央さんは汚ない倉庫に突っ込んだ。


「あの倉庫、どっかで見たことあるな」


 アラクネが首をひねった。俺は倉庫に書いてある文字に目を凝らす。


「火薬倉庫・火気厳禁?」

「うがああああぉ」

「兄ちゃん、やっと止まってくれたね」

「うむ。困難というものは、いつか終わるものだ。幸いにして銅像に近いことから、運が我らに味方していると思われる。マジックアイテムを爆発させて、その隙に逃げるぞ」

「やっちゃえ、兄ちゃん!」


 次の瞬間、倉庫が爆発した。深沙央さんと吸血魔が爆炎の向こうに消える。

 炎上する倉庫から、俺に向かって爆風に煽られた木片がすっ飛んできた。


 しまった。


 俺の前に人影が割りこんだ。瞬間移動してきたツバーシャだ。

 ツバーシャの胸に木片が突き刺さった。


「なんで、俺なんかのために!」

「……康史なんかが、意外と大切な人だったのね。自分でも驚いたわ。気がついたら能力を使ってたの。こんなことは初めてよ……」


 俺は横たわるツバーシャから木片を引き抜いて、波津壌気を放出した。


「波津壌気! 波津壌気! 波津壌気! 俺の魔力には治癒効果があるんだ。すぐに治してやるからな!」

「いいわよ。やめてよ」

「やめられるかよ。俺には救えなかった人がいる。これ以上、そんな人を増やしてたまるものか! 絶対助けるからな! ツバーシャ!」

「だって私、どこも怪我してないもの」

「へ?」


 ツバーシャは胸元からペンダントを出した。壊れてる。


「これが守ってくれたみたいね。康史ったら必死になって」

「よかったぁ!」


 俺はツバーシャを抱きしめた。


「やめてよ。変態!」

「あ、ゴメン」

「もうっ! それにしてもペンダント、壊れちゃったわ」

「だったら俺のペンダントをやるよ」


 俺のペンダントをツバーシャの首にかけてやった。そのとき


 ギュオオオオオオオオン!


 ツバーシャが急成長を遂げた。懐から鏡を出したツバーシャは


「もとに戻ったわ! これは19歳の私よ!」

「たしかにお姉さんになってる。ツバーシャって本当に年上だったんだな。可愛い子から綺麗なお姉さんになった!」

「そうよ。私のほうが年上なんだからね。生意気な勇者さん!」


 炎上する倉庫が再び爆発。

 次々と花火が発射され、夕焼けの空に極彩色の花々を咲かせた。


―――☆☆☆―――


 アラクネは燃えさかる炎の中から気絶した深沙央を助け出した。

 変身は解けているが、ケガはしていない。それどころかニヤけながら熟睡している。


「世話が焼けるな。アタシは深沙央が大人になっても、一緒に酒を飲んでやらないからな」

「何なんですか、この騒ぎは!」


 剣を携えたシーカが走ってきた。アラクネは辟易と答える。


「避難訓練なら終わったぞ」

「え? もう終わったんですか。順番がおかしいです」


 シーカは燃える倉庫、破壊された通路を見て唖然とした。


「これでは催し物にお客さんが来てくれませんね」

「このあと楽しいことでもあるのか?」

「ミス・王国ランド決定戦があるんです。出場者が少なくて困っていたんですよ。避難訓練を先にされてしまったら、出場者は外に出ていって戻って来ないかもしれません」

「それは困ったな。アタシが出てやろうか」


 そこへ紫色の猫の着ぐるみがやってきた。


「ガオーっ! 僕は吸血魔だぁ。避難しないと血を飲んじゃうぞ!」

「……」

「訓練が前倒しになったと聞いて急いで来たのだが?」


 着ぐるみは不思議そうに尋ねてきた。シーカは答える。


「……その声は中尉ですね。避難訓練は終わったそうです」

「へ?」


 着ぐるみの中の中尉は固まった。アラクネは眉をしかめる。


「中尉、その猫はアタシか?」


―――☆☆☆―――


 こうして俺は瞬間移動の能力者を仲間にすることが出来た。


 ちなみにミス・王国ランド決定戦は開催されたものの、開催時間にやってきたのは一名だけ。

 必然的に優勝者は決定した。

 優勝者はパティア・ゴルドサード。賞品として年間自由入場券が渡されたのだった。


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