表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/164

69.私、大人になりたい

 瞬間移動で雑木林に飛んだ俺とツバーシャは、雑木林の先にある小山を登っていた。


「こんな所じゃなかった気がするわ」

「でも雑木林から歩ける範囲にある見晴らしのいい場所って、ここくらいしかないぞ」


 頂上にたどり着くとツバーシャは感嘆の声を上げた。


「あ……ここよ。ここが先輩と来たところよ」


 たしかに見晴らしが良い。王都が一望できる。大きな木もあった。

 見下ろせば、さっきボートを漕いでいた池があった。


「たしか人工池なんだよな。きっと王国ランドを作ったときに池も作ったんだ。それで周りの景色が変わって、ツバーシャは気付けなかったんだろうな」


 俺が勝手に推理すると、ツバーシャは王都の景色をぼうっと眺めていた。


「私ね、落ち込んだときに先輩に連れてきてもらったの。入隊したての頃」

「うん」

「この景色を見ながら先輩は言ったわ。これからはキミがこの街を守るんだって」

「そうか」

「そのあとね。先輩は一瞬消えたの」

「消えたって、その先輩も能力者だったのか?」

「ううん」


 首を振ったツバーシャは大きな木に視線を移した。


「木の裏からひょっこり出てきたわ。何をしていたのか教えてくれなかったけど」


 少し寂しそうな笑顔のツバーシャ。時おり、王国ランドのほうから笑い声が聞こえてくる。

 なんだか平和だな。


「ここ、いい場所だな。王都がよく見える。ひとつひとつの建物の中には人がいて、そこで仕事や生活をしているんだよな」

「同じようなこと、先輩も言ってたわ」

「ますます本当の意味で、この世界を平和にしなくちゃいけない気がするよ」

「……うん」


 居心地のいいところだった。いつのまにか日が傾きはじめていた。


「康史、連れてきてありがとう」

「もういいのか?」

「うん。満足よ」


 じゃあ戻るか。そう考えて、ついでとばかりに大きな木に向かった。


「康史?」

「先輩は木の裏で何をしてたんだろうなって」


 二人で裏にまわる。何もなかった。木の幹に文字が彫られていた以外は。


「えっと、『ツバーシャが立派な軍人になれますように』」

「もう、声に出さないでよ」


 ツバーシャは彫られた文字に触れる。


「こんなことするの、先輩くらいだわ。普通の木に彫ったって意味ないじゃない」


 涙が出たのか、ツバーシャは目元を拭った。


「先輩、私、少佐になったよ。能力をたくさん使って、悪い吸血魔といっぱい戦ったんだから。あの頃よりも子供になっちゃったけど、あの頃の私よりも強くなったからね」




 しばらくするとツバーシャは落ちついたのか、自分から木の傍を離れた。


「帰ろう、康史」


 最後に、もう一度王都を眺めることにした。


「ゴメンね、康史」

「なにが?」

「やっぱり康史は先輩の代わりにはならないわ。だからゴメンね」


 なんだか勝手に振られたことになってるぞ。

 でもツバーシャの穏やかな笑顔を見ていたら、どうでもいいような気がしてきた。

 それに俺には深沙央さんがいるんだ。


「私、大人になりたい。子供のままじゃいけないって思ったわ。これからは康史に協力する。康史が作りたい平和、私にも作らせて」

「ありがとう」


 さて、帰るか。山の下の池に目をやると、俺たちが乗り捨てたボートが漂着していた。


「やっぱり返したほうがいいよな。乗って帰るか」




 二人でボートに乗って夕日が映える池を渡った。

 乗り場に着岸させてゲートをくぐると……頭上のくす玉が弾けた。なんだ?


「おめでとうございます。百組目のカップルの御帰還です!」

「はい?」


 従業員が拍手をし、楽器隊が演奏を始めた。くす玉からは『祝! ベストカップル賞』という幕が垂れ下がっている。


「何が始まったんですか」

「お二人をお祝いしているんですよ!」


 俺が聞くと従業員は勝手に花輪を首にかけてきた。花びらまで投げつけてくる。ツバーシャは混乱中だ。


「こちらへどうぞ。お二人には王子様とお姫様として今晩のパレードに参加して頂きます!」

「またか!」


 半分あきらめたかけたとき、妙な二人組が立ちはだかった。


「どうやら決まったらしいな。ミス・王国ランドが!」

「やっと血にありつけるね。兄ちゃん」


 思い出した。入場の列でうしろにいた馬面の人だ。従業員が不思議そうに聞いてくる。


「お二人のお知り合いですか。だとしたら馬車の御者役なんてどうでしょう。とってもお似合いだと思うんですよ」


 馬面たちはフフンと鳴いた。


「御者なんぞ役不足だ。我らには王役がふさわしいだろう。いや、ここを支配して本物の王になるのだ!」

「兄ちゃん、その前に血を飲んで元気になりたいよ」

「うむ。ミス・王国ランドに選ばれし女よ。我ら兄弟に噛まれることを光栄に思え」

「きゃあっ」


 馬面の一人がツバーシャの腕をつかんだ。


「やめろ! 血を飲むなんて悪い吸血魔がすることだぞ」

「御明答。我らは吸血魔だ!」


 馬面兄弟が化け物に変貌した。二体のシマウマ人間の吸血魔だ。


「我は兄のゼブラス。この特区を手に入れ、いずれは王国をも支配する者よ!」

「オレは弟のゼスカル。兄ちゃんはいずれ武将の候補になる男だ!」


 こんなに人が多いところで吸血魔かよ。


「みんな! 襲われる前に逃げるんだ!」


 俺は従業員や客に向かって叫んだ。ところが従業員は


「あれれ? 避難訓練ってこの場所でやるんですか?」

「時間が早くないか。ミス・王国ランド決定戦が先だろ」

「前倒しかな。じゃあ避難させますか」


 お客さんといえば


「へえ。本物みたい。何が始まるんだろう?」

「避難訓練だってさ。パンフレットに書いてある」

「じゃあ避難しますか」


 従業員は「はーい、こっちですよ。ついてきて下さーい」と客を先導しはじめた。


 客は楽しそうに、時おり吸血魔を見ながら、ぞろぞろと歩きはじめた。

 ん? すると二体の吸血魔は避難訓練の人なのか?


「ぬう。この国の人間は冷静なのか。平和ボケなのか。とりあえず度胸だけは認めよう」

「兄ちゃん大変だ。女が消えた!」


 ツバーシャは瞬間移動で俺の隣に跳んできた。


「大丈夫か?」

「ええ。短距離で単体なら、あまり若返らないから。それにしてもコイツらは吸血魔なの? 避難訓練なの?」

「それだよな。よし、波津壌気・感知バージョン! あ、吸血魔だ」

「だからさっきから言っているだろう!」


 兄のほうはジャンプすると急降下キックを放ってきた。


「危ない!」


 ツバーシャは俺の腕をつかむと瞬間移動。離れたところに跳んだ。

 兄の急降下キックは地面に大きなひびを作った。


「本物で悪人か!」

「順番が前後してしまったが、ここで一暴れしてやろうぞ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ