66.あの子とのデートは彼女に見られている
ワクワク王国ランド。王都の未開発な北東側を行楽施設にしたものらしい。
俺の世界で言うところのテーマパークみたいなものだろうか。
オープン日は開園前にもかかわらず長蛇の列ができていた。
「お待たせ」
列に並んでいるカップルや家族連れを眺めていると、ツバーシャがやってきた。
「なによ」
「いや、別に」
デートに何を着ていくか悩んで頑張ったあげく、微妙なチョイスになってしまったことが窺える服装だった。オシャレな帽子を被っているけど、デカすぎだ。
「努力したことが一目瞭然だな。俺、そういうの好きだ」
「な、どういう意味よ、いきなり」
「別に」
それにしても長い列だな。列を見物しに来た人たちも大勢いる。
この中に深沙央さんがいるはずだ。俺たちは監視されているんだ。
「王国の中に王国があるなんて不思議だね、兄ちゃん」
「弟よ。大切なものは中に隠すモノだ。この地こそが王族が住まう真の王都だと兄は看破した。ここを我らの根城にして王国制覇を目指すのだ」
「さっすが兄ちゃんだ」
振り返ると馬面そっくりの兄弟が興奮して語りあっていた。
「康史、門が開くわよ。楽しみね」
見れば従業員が開門の準備をしている。
ツバーシャ。昨日は不機嫌だったけど、なんだかんだで楽しそうだ。
開門。入口では楽団の演奏が始まり、従業員が笑顔で出迎えてくれる。列が少しずつ進みはじめた。
「いよいよ入場よ、康史。どうしよう!」
「列を乱さずまっすぐ進もうね」
入場の瞬間を笑顔で待ちうけるツバーシャ。12歳の外見相応にウズウズと興奮している。
楽しんでもらうのは良いんだけど、これでは乙女心を刺激するのは難しいのでは?
「チケットを拝見します」
俺たちの番が回ってきた。チケットを従業員に渡すと
「あれ? バラケッタ中尉!」
チケットのもぎり係をしているのは中尉だった。中尉は軍の参謀本部の青年士官なのに。
俺と深沙央さんに女学院の潜入捜査を依頼してきた人。そんな中尉が、なぜ。
「もしかして軍をクビになったのか?」
「バカを言うな神山康史。今日はここで吸血魔が襲撃してきた際の避難訓練をやらせてもらう予定なのだ。しかし人手が足りないと言うから、仕方なく、朝くらいは」
「軍人って大変だな」
「それはそうと、どうして優待券のチケットを持っているんだ?」
「ああ。ガルナたちがくれたんだ。三枚」
「なんだと!」
中尉の気配が変わった。歯を噛みしめ、目はつり上がる。
戦場で敵を前にした騎士みたいな雰囲気。
「あの三人娘め。避難訓練の手伝いをさせるためにチケットを渡したというのに、勇者たちに譲って逃げたと言うのか!」
「そういうことか。でも中尉。ここは行楽施設だ。笑顔笑顔」
「くっ、そうだった。チケット二枚か。連れている子は……」
そういやツバーシャと中尉は同じ軍人だったな。
「いや、あの者の外見は五歳児だったな。人違いだ。楽しんでいけ」
説明するのも面倒なので、さっさと中に入った。
パンフレットをもらって楽しそうな所はないかと目を通す。
こんな事もあろうかと、この世界の文字を読めるように少し勉強してきたんだ。
「えっと、園内のアトラクションは大道芸、乗馬体験、狩猟体験、試作型魔法列車による園内一周……パッとしないな。やっぱりジェットコースターやフリーフォールはないのか」
「何を言っているの?」
「独り言さ。ツバーシャはどこに行きたい?」
黙りこんでしまった。ここは男がリードするべきだったか。
「じゃあ、コレなんてどうだ」
パンフレットを見せながら勧める。
「え~と、弓道体験とか砲術体験とか……何だこれは! これじゃあ軍の訓練施設かよっ」
思わずパンフレットを地面に叩きつけた。
そんな俺のことはお構いなしに、ツバーシャが無言で指をさしていた。
何があるってんだ?
大きな池で恋人たちがボートを漕いでいる。
パンフレットを拾い上げ、調べてみると……池は、開園にあわせて作られた人工池なんだそうだ。
俺とツバーシャはボートに乗って見ることにした。
あたりを見回せば恋人同士がボートの上でイチャついている。
なるほど。外からは丸見えだけれど、誰にも邪魔されずに二人の時間を過ごせるってワケか。覚えておこう。
恋人たちの中にいると俺たちも恋人っぽいな。これならツバーシャを大人にすることができそうだ。
「それにしても」
呟く俺にツバーシャが興味なさげに聞いてくる。
「どうしたの?」
「平和だなって思ったんだ。辺境では激戦があったっていうのに、王都ではテーマパークがオープンしてる」
「テーマパークってここのことよね。こういう時代だからこそ必要なんじゃない? 王国軍は攻勢、国内では行楽施設を作る余裕がある。そうやって国民を安心させて王族は支持を得るのよ。情勢を楽観して軍に入隊する人が増えたら、しめたモノだしね」
「そんなもんか」
「貴族にとっては軍需産業も行楽施設も似たような資金源なんだと思うわ」
俺たちがこうしてボートに乗れるのも……なんて語るまでもない。今は全力でツバーシャを楽しませよう。
「ところで康史」
「なんだい」
「ボートに乗って、みんなどこに行くのかしら」
「え?」
「池をあてもなくグルグル回っている気がするけど。何かを待っているの?」
「ボートに乗ることが楽しいんだろ。このボートは乗り場に戻すんだぞ」
「それはどうして?」
まずし。胸キュンさせるどころじゃない。デートの定番が通用しないのか。
なにか、打開策はないか。と、そのとき、風が吹いた。
「あああ」
ツバーシャの帽子が風で飛んだ。ちょうど俺の頭上に飛んできたので手を伸ばす。ツバーシャも同様に手を伸ばしてきた。
二人で帽子を捕まえる。同時に二人の顔が急接近した。
「お、悪い。はい、帽子」
「別に意識なんてしてないんだからね!」
わかってらい。もしそうなら、大人にするのがどんなに楽か。
「ああーっ。あのカップル、今キスしようとした!」
近くのボートの子供が大声で叫んだ。俺たちを見ておだて始める。みんなが一斉にこちらに向いた。
違う、顔が近づいただけだ。なぁツバーシャ……
ツバーシャは顔を真っ赤にして震えていた。めっちゃ意識してる。
「もう嫌だ。ボート怖い。降りる」
「途中下車なんてできないぞ」
ツバーシャは俺の上着をいきなり掴むと……気がつけばボート乗り場にいた。
瞬間移動だ。当然ボートは無人になる。
「オイ、目の前のボートのカップルが消えたぞ」
「落ちたんじゃないのか」「バカ言え、水面はキレイなままだ」
「もしかして、この池って心霊スポットなのか」
あーあ、大騒ぎだ。




