65.彼女 顔を真っ赤にしてソファにダイブ
「辺境で吸血魔と戦っていた。それが無断外泊の理由ってわけね」
俺はツバーシャの瞬間移動で王都に戻ると、屋敷に帰ってリビングにいる深沙央さんに事情を説明した。
深沙央さんは半信半疑。怒っているご様子だ。
「それで、そちらの子は誰なのかしら?」
俺の背後にいるツバーシャのことだ。なんだか分からないけどついてきてしまった。
ツバーシャ。瞬間移動の能力者。能力を使うたびに身体が若返ってしてしまうんだけど、俺と一緒なら能力を使っても問題ない。
それどころか俺がツバーシャを胸キュンさせると成長が早まって、どんどん実年齢に戻っていく。
実年齢は19歳。だけど現在の外見は12歳くらいだ。
今日も屋敷に遊びに来ていたガルナ、ブロンダ、ルドリカたちがツバーシャの体質を深沙央さんに説明してくれた。
「なるほど。若返り体質なんて羨ましいわ。でも本人は大変なのね」
頷きながらツバーシャを見つめる深沙央さんに俺は言った。
「ツバーシャの能力は吸血魔と戦ううえでも貴重なものになると思うんだ。これから能力を使ってもらうためにも、早く本当の年齢に戻して安心させてやりたいんだ」
「康史……」
出来るだけ実年齢に近いほうが、一人の時でも、能力を使える回数が増えると思う。
今後、吸血魔の幹部打倒に協力してくれるかなんて関係ない。本来の年齢に戻してあげることが友人としての最善の手段だと思った。
ツバーシャのほうを向くと、ぽうっと顔を赤らめて俺を見ていた。
目が合うとツバーシャは首を振って咳払いをした。
「ところで康史、その子は誰なの?」
「深沙央さんのことか。俺の彼女だ」
「……え……ええっ! 康史って彼女がいたの?」
魂が抜けたような顔をしたと思えば、屋敷中に響き渡るような大声で返してきた。
「あんなに私と手を握りあったのに! 一緒にアリマジョールに一太刀浴びせたのに! お母さんにも挨拶してくれたのに!」
「誤解を招くようなことはやめろ! あれは幼児退行を防ぐためと、倒すためだったのと、誰だって友達のお母さんに会ったら挨拶するだろ!」
「嬉しかったのは私だけだった……? ひどい!」
「初めて会ったとき、俺のことメチャクチャ嫌ってたよね?」
「コホン!」
今度は深沙央さんの咳払い。風邪がはやっているのか?
じゃあ俺も深沙央さんに向き直って。
「ゴホン。ツバーシャは大切な友達だ。19歳に戻してあげたいと思っています」
「そう。ツバーシャはただの友達なのね。安心したわ。それにしても元の年齢の戻す方法はあるの?」
俺が顔を近づけたり、倒れかかった身体を支えるために手を触れたら急成長を遂げたんだよな。
「ツバーシャの乙女心を刺激するようなことをすればいいんじゃねえか?」
「でも手を握るだけじゃ若返らないけど、歳をとらないんだよね」
「発言。恋人同士で例えるなら、手を握ることの次の段階に行けばいいのでは? 以上」
「そ、そんなの許さないわよ!」
ガルナたち三人娘の言葉に、深沙央さんは猛犬のごとく噛みついた。
「私だってキスはまだ一回しかしたことないんだから。いくら人助けのためとはいえ、キスはやめて! 康史君も自制してよ。その唇はもう自分だけのものじゃないんだからね!」
「あ、え、はい!」
思わず謝ってしまった。三人娘はクスクス笑い出す。
「キスしたんだってよ。聞いてもないのに教えてくれたゼ」
「発言。手をつないだあとの次の段階といえば、買物や図書館を想像すると思っていたのに。以上」
「キスもいいけどさ、普通はデートするんじゃないかな」
「うぐぅっ!」
深沙央さん、顔を真っ赤にしてソファにダイブした。
クッションに顔を沈めて足をバタバタさせている。
「深沙央さん、大丈夫?」
「深沙央、デートくらいさせてやれよ。ツバーシャを大人にするためだ。恩を売っといた方が、この先の戦いで力になってくれるはずだぜ?」
「うぐぅっ!」
深沙央さん、見知らぬ場所に連れてこられた子猫のように、恐る恐る俺たちの顔を見回した。
なんだか泣き出しそうだ。
「でも……もしデートしてツバーシャが康史君のことを好きになってしまったら?」
その可能性もあるかもな。どうした? みんなポカンとして。
次の瞬間、ガルナたちは大声で笑い出した。
「いくらデートしたとしても、康史のことは好きにならないと思うぜ」
「そんなのないない。安心していいんだよ」
「あははははっはははははっははははっはは!」
ルドリカ、笑いすぎだ。普段無口のくせに。眼鏡が外れるほど笑うことはないだろ。
偶然部屋にいたメイド姿の女の子も「ないない」と首を振る。
扉の向こう、廊下のほうでも「ないない」という声が聴こえてくる。
なんだよ。みんなして。俺の味方をしてくれるマーヤとシーラはどこにいったんだ。
こうなったら意地でもツバーシャの心をキュンキュンさせてやる。
「ねえ、康史はデートしたことはあるの?」
「ああ。一回だけな」
問いかけてきたツバーシャはプイっと横を向いてしまった。
「いいわね。彼女がいてデートまでして。私なんかデートもしたことないのに。これでも康史より長く生きているのに。この何年間は軍で働かされて楽しい事なんて一つもなかった。しかも能力の使いすぎで子供になって、出会いなんて無くなって……デートとか……青春ぽいとか、本の中でしか知らないとか、別に羨ましくとも何でもないんだからね。私なんてほっといて彼女との時間を大切にすればいいのよ!」
すごい早口で言われた。五秒くらいで言いきった。なんで怒ってるんだよ。
「康史の……バ……」
バカと言おうとしたんだな。でも言い切らずに俺を睨んでくる。言えばいいだろ、バカって。
「なんだか、デートで決まりみたいだな」
ガルナはそう言うと、懐から三枚のチケットを取り出した。
「明日オープンする王国の行楽施設があるんだ。オマエら、行ってこいよ」
「ずいぶん準備がいいんだな」
「おう。ワケあってな」
「待って」
深沙央さんが手を上げた。
「デートは許すわ。でもチケットは三枚あるのよね」
「これもワケあってな」
「じゃあ私も行くわ。二人のデートがエスカレートしないように見張ってる!」
ツバーシャを見ると不機嫌そうだけど、反対もしていない。
つまり俺は彼女に見られながら女友達とデートするってことなのか。上手くやれるかな。




