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64.俺 娘を頼むと言われてしまう

 敵陣の奥にはやぐらが建っていて、頂上には杖を持つアリジゴク人間の吸血魔がいた。

大隊長の声が飛ぶ。


「アリマジョール! 覚悟せよ」

「おのれ、ここまで来たか!」


 アリマジョール。顔は化け物、毒々しい色の露出度の高い衣装だけれど、ナイスバディな女吸血魔であることがわかった。


「この機を逃すな。魔法士たちよ、攻撃開始!」


 大隊長の命令で魔法士たちが光の矢、炎の矢をアリマジョールに向けて放ち続けた。

 だけど見えない壁に防がれてしまう。


「ククク。我は魔術師よ。結界を張ることくらい容易いわ」

「ここから先は通させん!」


 俺たちの前にシルクモルス率いる吸血魔たちが現れた。

 さらに赤い鎧を着た強化されたネズミ兵もあらわれる。


「波津壌気でアリマジョールの魔力を吹き飛ばしてやる」


 残りの魔力を全て出す! 波津壌気・治癒効果抜きバージョン! 

 俺の魔力が一気に広がる。ネズミ兵の赤い鎧は剥がれ落ち、普通のネズミ兵に戻った。

 チャンス到来だ。


「鮮烈なる光よ、立ちふさがる巨悪に浄解の裁きを。カンデラフラッシュランサー!」


 ツバーシャが光の槍をアリマジョールに向けて発射。


「ぐぎゃえごぉぉぉ!」


 直撃を受けたアリマジョールは、やぐらから落下した。


「おのれ。結界までも無効化されたか。そこの男め、許さんぞ」


 俺のことか。


「シルクモルス、それに吸血魔の益荒男たちよ。我を守るのだ!」


 指示を飛ばすアリマジョール。だけど吸血魔たちの様子がおかしい。


「俺たちはここで何をしていたんだ?」

「国には病気の家族がいるんだ。戦っている場合じゃないのに」

「俺の彼女は人間だった。もう死んじまったが、人間と戦う気にはなれない……」


 熊や亀人間たちは次々と武器を捨てはじめた。


「まさか我の精神支配の魔法まで無効化されたというのか!」


 混乱気味のアリマジョール。俺の魔力で魔力を吹き飛ばしたのだから、そうなるかもな。

 さらに立ち上がったアリマジョールは……まるでお婆さんのように腰が曲がり、顔が皺だらけ、手足の光沢が失われていた。


「くそう。アンチエイジングの魔法まで失くしおるとは……」


 そんな魔法まであるのかよ。


「お聞きしたいことがあります」


 シルクモルスはゆっくりとアリマジョールのほうへ向いた。


「なんじゃ、こんなときに」

「私の心を突き動かしていたアリマジョール様への忠義、そして体を焦がしていた恋心が感じられなくなりました。もしや、貴女様はこの私にも精神支配の魔法をかけていたのですか」

「うっ」


 戦場を沈黙が包んだ。


「アリマジョール! 覚悟ぉぉぉぉぉ!」


 大隊長が突撃を仕掛けた。


「おのれ! ならば、新たに魔法を!」


 アリマジョールが無詠唱で雷を落下させて、大隊長を直撃させた。


「ククク。私が大魔術師であることを忘れたか! 死ねぃ!」

「忘れてないさ。加護の魔法は魔法士から受けている。それにプラチナメタル製の青陽鎧は攻撃魔法を軽減する。何より娘が結婚するまで死ねるものか! 人間を舐めるな!」


 大隊長は落雷を受けながらも、突撃の足をゆるめない。


「ぬう。老婆になっても主は主。好きにはさせん!」


 そんなシルクモルスの前にツバーシャが立ちはだかった。


「お母さんの邪魔はさせない!」


 シルクモルス率いるネズミ兵VSツバーシャや騎士、魔法士たちの戦いが始まる。


「魔剣使いめが! キサマさえいなければ!」


 魔槍を振り回すシルクモルスが俺に狙いを定めてきた。


「俺だって、大切な人を守りたいんだ!」


 魔剣で魔槍を跳ね返す。


 大隊長に目を向けるとアリマジョールの連続魔法に苦戦していた。

 アリマジョールは魔法を行使するとき、必ず杖を高らかに上げる。


「康史!」


 ツバーシャが無言で俺の手を握ってきた。

そこへ突っ込んでくるのはシルクモルス。


「魔剣使い、我が魔槍の錆にしてくれるわ!」

「そんなものに、なってたまるか!」


 迫る魔槍を魔剣で受け止める。


そして瞬間移動! アリマジョールの直上に跳んだ。


「魔剣!」

「マジックソード!」


 急降下。俺たちの刃がアリマジョールの杖を切断した。


「今よ! お母さん!」

「感謝するぞ! 若い二人!」


 大隊長の剣がアリマジョールを貫ぬく。


「ぐれはぁ! おのれ人間どもぉぉぉ!」


 アリマジョールは塵芥となって消滅した。

 俺は足元に一本の槍が落ちていた。

 これはシルクモルスの魔槍だ。瞬間移動のときに一緒に跳んできたんだな。


「敵の将は討ち取った。アリマジョールのネズミ兵はじきに消える。あとは吸血魔と、そのネズミ兵だけだ。片をつけるぞ!」

「オオー!」


大隊長と王国軍は自分たちを鼓舞する。

 シルクモルスは怒り狂っていた。


「我が主をよくも!」

「あとはお前だけだ!」


 俺はシルクモルスに太刀を浴びせようとした。それを一刃の短刀が受け止める。

 そこに立っていたのは山猫人間の吸血魔だ。


「シルクモルス様、お退きください」

「キサマは傭兵のトライオーネ。私に主の仇を取らせずに去りゆけと言うのか!」

「戦局は決しております。これではシルクモルス様といえども敵いませぬ。ここで散ってしまえばアリマジョール様の仇討は永遠にできません。ここはどうか撤退を」

「せめて魔槍の回収だけでも」

「シルクモルス様!」

「ぐおおおおお」


 悔しさを滲ませた雄叫び上げたシルクモルスは、俺を睨みつけた。


「魔剣使いよ。キサマは私の永遠の宿敵だ。憶えていろ!」

「俺、ライバルとか求めてないから!」


 トライオーネが煙幕を張る。煙が晴れたときにはシルクモルスたちの姿はなかった。




 数十分後……


 シルクモルスが残したネズミ兵は王国軍に倒されて、大隊長は勝鬨を上げた。


「この戦いは王国軍が勝利した。辺境の地は王国へと奪還された。皆のおかげだ。皆の力だ。皆が国と家族のために掴み取った勝利だ。胸を張って勝者を名乗れ!」

「オオー!」


 大隊長の勝利宣言を聞きながら、俺はシルクモルスが置いていった魔槍をアイテムバッグにしまった。悪用されても困るからな。

 身にまとっていた鎧は緊張がほぐれると消えていた。


「あの……人間軍の上級士官とお見受けする」


 見れば熊人間や亀人間の吸血魔たちがいた。上級士官って俺のことか?


「俺たちは人間を傷つけてしまったが、大魔術師に魔法をかけられていたからなんだ」

「吸血魔の国から無理やり連れてこられたようなもの。それだけは信じてほしい」

「俺たちはどうなるんだ? どうする気なんだ?」


 たしかアリマジョールの精神支配の魔法が解けて、戦意喪失してたんだっけか。


「俺に聞かれてもな」


 軍の人たちは勝利を喜んでいた。こちらに気付きもしない。俺は悩む。


「う~ん、国に帰れば?」

「ええ!?」

「好きで戦っていたわけじゃないんだろう。それに家族もいるみたいだし」

「いいのか、そんなんで」

「でも約束してくれ。二度と人間と戦わないって。俺は人間と吸血魔が仲良くなれる世界を目指してる。機会があれば協力してほしいんだ」

「もちろんだ。士官殿よ、名を御聞きしてもよろしいか」

「神山康史。異世界から来た。さぁ、軍の人たちが気付く前に走って帰って」

「ありがとう、神山康史」


 吸血魔たちはダッシュで吸血魔の国のほうへ駆けていった。


「康史!」


 うわっ。なんだツバーシャか。何の用?


「あのね、ありがとう。おかげでお母さんは無事。軍も勝利できたわ」

「ああ。でも俺だけで勝てたワケじゃない。やっぱりお母さんやみんなの力があってこそだ。ツバーシャもよく頑張ったな。戻って来てくれてありがとう」

「うん」


 なぜか赤面なツバーシャ。黙って手を差し出してくる。


「もういいのか?」

「ここでの戦いは終わったもの。お母さんが激しい戦場に行くことは、しばらく無いと思うわ。そう考えたら能力が使える気がしてきたの」

「そうじゃなくてさ。せっかく会えたんだから、もう少しゆっくりしていけば?」

「べ、別にそんな気を使わなくたっていいわよ。私はもう子供じゃないわ」


 外見が十二歳のヤツに言われてもな。


「それにね、お母さんは戦いのあとの処理で忙しいだろうし」

「それもそうだな。じゃあ帰るか」

「神山康史君!」


 手を握ろうとした矢先に大隊長が割って入ってきた。もう仮面と兜は脱いでいた。


「キミのおかげで勝利できたようなものだ。感謝するぞ。さぁ、前線基地に戻って祝杯だ」

「あの、軍本部への報告や諸々の後処理は?」

「そんなもの部下にやらせるさ。二人とも、まずは食事だ」

「私たちは帰ろうとしていたところなの」

「なに! そうか。そうなのか」


 大隊長は残念そうにする。それも数秒。

 今度は決意を秘めた表情をして俺の肩を両手でつかんだ。


「神山康史君。娘を頼む」

「はい?」

「お母さん?」

「こんな娘だがキミという男ならば託せる。任せたぞ!」

「え……あの」


 巻き起こる拍手。フェノイカや副指揮官たちが笑顔を湛えながら拍手で俺たちを見つめていた。

 あの、俺には彼女がいてですね。ああ、ツバーシャも否定してくれ。


 そんなツバーシャは……全身を真っ赤にすると両手で顔を覆って……馬に飛び乗って王都のほうへ向かってしまった。


「待て。瞬間移動じゃないと王都へは戻れないだろ! 置いてかないで!」


 こうして辺境での戦いは終わり、深沙央さんのもとへ帰れることになった。

 ちゃんと帰れるのだろうか。


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