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6.彼女 魔法少女だった

 廃城の森に現れた魔術師オクトパ。俺たちと勇者候補の一行が挑む。

 まず前に出たのは深沙央さんだった。


「深沙央さん、戦うの?」

「もちろん。側近でないことが残念だけど、放っておけないわ。それはそうと敵は魔術師かぁ。う~ん、どうしようかな。やめようかな」

「深沙央さん?」

「うん。康史君を守るためだもん。今回は耐魔法防御系でいこう!」


 そう言うと深沙央さんはポケットからピンク色の宝石を出した。


「ミラクルパワー! ウェイクアップ!」


 宝石からまばゆい光が放たれた。すると深沙央さんは光の中で下着姿になっていた。こちらが驚く間もなく髪はピンクに染め上がり、白とピンクを基調としたフリフリのスカートの衣装を身にまとう。

 深沙央さんがスカートを叩けば、そこにポシェットとウサギのぬいぐるみが現れ、ステップを踏めばブーツが足に装備され、手を叩いたら手袋が顕現した。

 さらにトリプルアクセルを決めると、衣装の各所にリボンが付け加えられる。いつのまにかナチュラルメイクが施されている。そしてポーズを決めながら叫ぶ! 凛々しく!


「気合いと気韻が奇跡の奇縁! 気炎万丈・正義の亀鑑・希望を着飾る貴顕の戦士! キメキレ・キラキラ☆キュートキャスター ミラクル☆ミサオン! みんなの未来を見かねて只今参上!」


 深沙央さん、今年一番の笑顔。変身するのに十秒超。俺は敵前だというのに見取れてしまっていた。

ほかの人たちは……同様だった。オクトパですらポカンとしている。周囲を包みこむ完全なる静寂。


「うわ~ん。やめとけばよかった。高校生になって、この変身は恥ずかしい!」


 変身した深沙央さんは木の根元まで走って、うずくまってしまった。


「康史君なら、どんな私でも受け入れてくれると思ったのに!」


 俺は深沙央さんを慰めた。


「可愛い! 可愛いよ! 深沙央さん、最高だ!」

「ウソっ。ドン引きしてる。分かるもん」

「嘘じゃないって。あれ?」


 深沙央さんの身長が少し縮んでいることに気付いた。顔もなんだか幼くなってる。


「この姿に変身すると中学二年生の身体に戻ってしまうの。キュートキャスターとして異世界で戦っていたときは中二だったから」

「そうか。二年前の深沙央さんは、なんだか愛くるしいや」

「もしかして年下が好み?」

「そうじゃないけど、二年前の深沙央さんに会えた気分で嬉しい。高校生の深沙央さんが好きだけど、本音を言えばもっと早く出会いたかったなって思ったから」


 俺はなんとなく頭を撫でると、深沙央さんは先ほどとは別の意味で恥ずかしそうにした。


 ドガンっ!


 オクトパが触手で近くの木をへし折った。


「私を無視するんじゃないよ! これだから小娘は嫌いなんだ!」


 俺とアラクネ以外は身がまえた。


「康史君、アイツを倒したら高校生の私の頭も撫でてね」

「ああ。気をつけろよ」


 そこにアラクネが口を挟んでくる。


「がんばれよ~。ミラクル☆ミサオン」

「うるさいなっ」


 深沙央さんは駆けた。メグさんの忠告が飛ぶ。


「オクトパは無詠唱で魔法を放ちます! 気をつけてください!」

「わかったわ。一応、避けとく」


 火の玉が中空に出現して深沙央さんを襲った。深沙央さんは急旋回、連続バック転、空中前転などアクロバティックな動きで回避していく。

 さらに火の玉とともに襲いかかる八本の触手。深沙央さんはこれらを手で跳ねのけ、蹴りで落としていた。

 強い。聖式魔鎧装が移動力と破壊の戦士なら、今の深沙央さんは俊敏性と防御の戦士だ。


「あれに変身されると手に負えないんだよな」


 アラクネが辟易とした声で言った。


「ミラクル☆ミサオンのまわりの空気って、変にキラキラしてるだろ」

「そういえば」

「あらゆる魔法攻撃は、あのキラキラのせいで防がれちまうのさ」

「詳しいんだな」

「まあね。アタシの軍勢はミサオンに倒されたから」


 マジか。


「物理攻撃を加えようにも、ミサオンが魔法を使えないかわりに魔力フィールドが身体を覆っていてダメージを与えられない。こちらが頑張って致命傷を与えたところで、腰にぶら下がっているぬいぐるみが血まみれになるだけで本人は無傷だ」

「何それ怖い」

「あんなのがアタシの世界では深沙央を含めて三人いた。途中から二人追加された。世界征服なんて無理だっつーの」


 アラクネは溜息をこぼした。

 深沙央さんは衣装についているリボンをほどくとオクトパに投げつけた。


「そんなもの!」


 オクトパは一歩横に移動してリボンを避けてしまう。地面に落ちるリボン。深沙央さんはリボンをほどいては、何回も投げつけるがオクトパは最低限の足遣いで避け切った。

 自称勇者のナヴァゴは何をしているかというと、剣を構えたままブツブツと一人ごとを言っていた。何してんだアイツ。


「ぐっ? これは?」


 オクトパの悲鳴。地面に落ちていたリボンが、オクトパの足を絡め取っていた。リボン結びで。深沙央さんの解説。


「ミラクルリボンは形状記憶魔法繊維でできているの。だから元のリボンの形に戻ったのよ。このスカートだって形状記憶魔法スカートだから宙返りしても、めくれない!」


 ナルホド。それでさっきから注視しているのにパンツが見えなかったのか!

 オクトパは足の動きを封じられていて混乱していた。そこへナヴァゴが叫んだ。


「よくやった異世界人。オレが詠唱しているあいだ、よく耐えた。今度はオレの番だ!」


 アイツ、ブツブツ言ってると思ったら詠唱だったのか。ナヴァゴは剣を振り下ろした。


「太陽剣、ダブルソーラーバニッシュ!」


 剣を振り下ろした空中に三日月状の炎が二対あらわれて、オクトパに放たれた。

 二対の炎はオクトパの両の四本の触手を切断した。


「今だ、異世界人!」


 アイツ、良いところあるじゃないか!

 深沙央さんはジャンプすると飛び蹴りの体勢に入った。

 足の自由を奪われたオクトパに必殺キックが炸裂する……と思っていた俺は甘かった。


 オクトパの触手が再生したのだ。キックの形で降下中だった深沙央さんは、為すすべなく触手に縛り取られてしまった。


「う……何これ、取れない」


 深沙央さんは脱出ができない。オクトパは触手を縮めて自分の目の前まで深沙央さんを引き寄せた。


「ふふふ。攻撃が効かないのなら動きを封じるまでさ」


 ニヤりとするオクトパ。ナヴァゴは……なんでお前までニヤけてんだ。


「悪い悪い。オクトパの触手が再生することを言い忘れてたぜ。それにしても普通、吸血魔相手にバカみたいに突っ込むか? さすが異世界人。考えてることがキレてるぜ」


 コイツ! ブン殴るのはあとだ。俺はシーカから借りた剣を持って走った。


「いま助けるぞ、深沙央さん!」


 そのとき、頭を後ろから殴られた。思わず転んでしまう。振り向けばナヴァゴだった。


「おい、なに勝手に助けようとしてんだ。あの女には死んでもらわなきゃ困るんだよ」

「なんだと」

「勇者になるのはオレだ。女がいなくなればオレが魔王を倒したことにできる。さてと、どうすっかな。女がオクトパに殺されてから動くか、それとも女ごと斬り伏せるか」

「そんなことさせるかよ」


 俺は立ち上がって深沙央さんの元へ駆けつけようとした。だが、ナヴァゴに追いつかれて、足をかけられ転倒し、剣の柄頭で顔を殴られる。う、この感覚は、鼻血だ。


「ナヴァゴ、ダメよ! いい加減にして!」

「うるせーな。黙ってろ!」


 メグさんは止めるものの、ナヴァゴは聞かない。俺はこんなヤツよりも弱いのか。立ち上がるたびに殴られる。

 だったら這いずってでも助けに行くまでだ。愛の力をなめるなよ。

 しかしナヴァゴは這いずる俺を見逃さなかった。


「邪魔だってんだろ。こいつマジうぜぇ」


 わき腹をガシガシ蹴ってくる。深沙央さんに目を向けると、今にも泣き出しそうな目で俺を見ていた。


「もういいよ康史君」


 いいわけあるもんか。俺は手を伸ばす。その手はナヴァゴに踏みつけられた。コイツ、いつか殺る!


「ふふふ。仲間割れかい。私は吸血魔らしく、この女の血でも頂くとしようかね」


 オクトパが、おぞましいことを言った。


「これほど強い女の血を吸えば、私はもっと強くなれる。おや、この女の身体には妙な結界のようなものが張ってあるね。まあいい。私の牙の前では意味ないよ。ミイラになるまで絞り取ってやる」


 触手に拘束された深沙央さんは身動きができない。深沙央さんの首筋にオクトパの牙が迫ろうとしていた。


「深沙央さん!」

「康史君……」


 深沙央さんの細い首に、鋭い牙が突き刺さった。


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