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54.ダブルデート

女学院潜入編4日目。

休校日なので学院の外が舞台です。

主人公は男の体に戻っています。

康史の偽名→ココア・コーヤマン

深沙央の偽名→ミサ・ミクライアン

 デート当日の朝。


「あら」

「おおっ」


 俺と深沙央さんは声を上げた。互いが連れてきたクエナとトーワを見て感嘆したのだ。

 二人とも、おめかしをして可愛くなっている。当人たちは互いの姿を見ると、赤面して視線を足元に落としてしまった。


 動かなくなってしまった二人を前に、俺は深沙央さんに聞いた。


「クエナがとっても可愛くなってるけど、どうしたんだ?」

「朝早く屋敷に来てもらったのよ。そこで呼び寄せておいたバラケッタ中尉にメイクをしてもらって、服をコーディネートしてもらったの。屋敷の女の子たちも全面協力してくれたわ」


 バラケッタ中尉か。俺を女装させるために数多の化粧品を用意するような青年士官。


「中尉のヤツ、よく協力してくれたな」

「メレケイオンの情報と引きかえよ。中尉ったら屋敷にろくな服がないって言って、アイテムバッグから可愛い服をたくさん出してきたわ」


 中尉め、どうして可愛い服をたくさん持ってるんだよ。


「トーワさんも素敵ね。私たちの世界で生まれていたらモデルになれたわよ」


 昨晩、俺とトーワは徹夜でデートに来ていく服を考えたあげく、結論は出なかった。

 二人して朝食を取るために寮の食堂に行ったものの、トーワは席に着くなり眠ってしまった。

カタブツ委員長の意外な行動に、居合わせたクラスメイトは心配そうに声をかけてくれた。

 これからデートに行くことを俺が説明すると、みんなは率先して協力してくれたのだった。


「リヨネはもちろん、サッチャーまで洋服選びに付き合ってくれたんだ」

「この前の決闘未遂が良い結果を呼んだようね。それにしても」


 はい。ごめんなさい。今日の俺は男の姿ですが、服はいつもの恰好です。


「トーワの服のことで頭がいっぱいで」

「もう。でも康史君らしくていいわ。さぁ二人とも、デートの時間よ!」


 四人で王都の商店街を練り歩く。深沙央さんが耳打ちしてきた。


「屋敷のみんなにデートのプランを相談してみたの」

「どうだった?」

「みんな王都に詳しくなかったわ。まだここに来て日が浅いものね。ガルナたちに聞いても芳しい答えは返って来なかったの」

「え……それって」

「唯一答えてくれたルドリカは図書館と貸し本屋巡りのコースを紹介してくれて……」

「それじゃあプランは」

「デートしたところがデートスポットになるのよ。二人が楽しいと思えば、それでよし。愛しあう二人なんだもの。どこに行っても楽しいわ。二人でお出かけすることが醍醐味なのよ!」


 そんな二人は。無言であとをついてくる。うん。緊張しているね。


「これは予想外だったわ」


 だけど最初に緊張を解いたのは意外にもクエナだった。


 クエナがパン屋を見つけて入ることになり、四種類の名物パンを買ってみんなでシェアした。クエナはパンをとても真剣に食べていた。

 ここのパン屋は店の奥が丸見えで、職人がパン生地をこねているのを見物できる。クエナはそれを夢中で見ていた。一時間も。

 このままでは一日が終わってしまうので店から引きずりだしてデート再開。


 この頃にはトーワの緊張も解けていて、アクセサリーショップの前の不気味な人形をカワイイと言い出し、デートの記念にペアで買おうとするので、一応店主に聞いたら呪いのマジックアイテムだというので慌ててやめさせた。


「デートのプランなんて用意しなくても良かったみたいね」


 二人はどこでも楽しそうだった。


「それにしても、やけにカップルが多いところに来たな」


 女神像のある広場にやってきた。


「ここは恋愛成就の神様が祀ってあるのよ。あっちで売っている木板に願いを書いて、木の枝に結びつければ叶うみたい」

「どこかで聞いたことのある商売システムだな」

「どこの世界でも考えることは一緒ね」


 トーワとクエナは売店を眺めていた。トーワは意を決した様子で踏み出していく。クエナがトーワの名を呼んだ。


「トーワ!」

「私たちも願い事を書きましょう。ずっと一緒にいられるようにって」

「うん……」


 二人は木板を買って枝に結び付けていた。俺と深沙央さんも同様に願い事を書いて枝に吊るした。


「まさか恋愛成就のお守りまで売られているなんてな」

「どこの世界でも考えることは一緒ね」


 女神像の広場のあとは商店街にやってきた。

 ところどころにテーブルやベンチが置かれていて食事が出来る。ここでお昼ご飯を食べることになった。


「二人とも徹夜明けで疲れてるでしょ。お昼は私たちが買ってくるから休んでいて」


 深沙央さんとクエナは買いだしに行った。俺とトーワは残って二人を待つことになった。


「また一応やっとくか。波津壌気・感知バージョン」

「何をしているの?」

「吸血魔がいないか確かめてるんだ」


 俺は朝から数回、波津壌気で周囲に吸血魔がいないか索敵していた。


「よし。この場所も安全だ」

「ありがとう。いろいろしてくれて」

「昨日も聞いたよ。気にしないでくれ」

「ううん。今のありがとうは今日の分よ。私一人ではデートなんて考えられなかったし、クエナの笑顔や照れた顔も見ることは出来なかった。ありがとう」


 役に立てて嬉しく思う。平和な世界になれば二人は安心して一緒に過ごすことが出来るんだ。ヤル気も沸いてきたな。


「クエナ、楽しそうだったな」

「この時間に自由に遊べるのは久しぶりなのよ」


 パン屋の娘だもんな。お昼時ともなれば、店が暇なら学院の厨房で働いて、店が繁盛すれば店で働いているんだ。

 今日に限っては屋敷の女の子がクエナに代わり、パン屋の手伝いをしている。女の子の中に実家がパン屋の子が二人もいたのだ。


「ココアさん、いえ康史さん。深沙央さんと仲がいいのね。息がぴったり」

「そうかな」

「付き合ってどれくらいなの?」

「そんなに長くはないんだ」


 彼女との関係を聞かれると恥ずかしくなる。

 でも新鮮だ。これまで勇者や恩人としてしか見られていなかったから。


「トーワはいつクエナに出会ったんだ?」

「一年前よ。偶然アイツに出くわしてしまったの」


 アイツとはメレケイオンのことだ。


「そのとき守ってくれたのがクエナだった。クエナは人外の姿に変身して私を抱えて逃げてくれたわ。運よく巡回中の兵士が駆けつけてくれたからアイツは追って来れなかったけど、そのせいで存在を知られてしまった」


「存在を知られた?」


「アイツはクエナに言ったわ。キサマはツクエルツの娘だなって。やっと見つけた。苦しい思いをさせたあとに殺してやるって。そのあと私はクエナと仲良くなって、事情を知ったの。昨日あなたたちが聞いたこと、そっくりそのままよ」


 そうだったのか。トーワは表情をしかめた。


「アイツはクエナに、周りの人間が襲われているのに気にしていないようなことを言っていたけど、全然違う。クエナは自分のせいだと責め続けてきたわ。親方さんだって襲われたことがあるのよ。クエナは十分傷ついてる」


「うん」


「私はクエナを守るため、アイツを倒すために、以前にも増して必死に魔法を覚えた。そして周りの人間にも強くなることを迫ってしまった。そのせいで周りから嫌われてしまったけどね。しばらく経つと吸血魔による生徒の襲撃が始まったわ」


 これは早急にメレケイオンを倒さないとな。

 トーワとクエナ。この二人となら恋バナだってできる。

潜入捜査が終わっても仲良くしていきたいと思った。


「ただいま。あれ?」


 深沙央さんが美味しいそうなものを沢山持って戻ってきた。でもクエナの姿がない。


「クエナは一緒じゃないのか?」

「パン屋を見つけたみたいで途中から別行動になったのよ。もう帰って来ているかと思ったんだけど」


 よっぽど研究熱心なんだな。そう感心した矢先だった。


「大変だ。向こうで女の子が変な男に絡まれてるぞ」

「相手は剣を振り回してるみたいだ。衛兵を呼べ」


 通行人が騒ぎ立てている。もしかしてクエナなのか。俺たちは通行人から場所を聞いて急いで向かった。

 油断していた。俺の感知能力は吸血魔の存在はわかるけど、悪人までは感知できない。

 通行人が逃げ惑う先には血まみれのクエナが倒れていた。


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